第01話 再生?誕生? 20210905・加筆修正
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「ッ! ガボッ、ガボッ、ガボッ」 ……ジタバタ、ジタバタ……
「アッ! お目覚めになったのですね。慌てなくても息は出来るはずですからゆっくり落ち着いて呼吸してみてください」
あっ、あせったぜ……。
目を開けたら俺はシリンダー見たいな物の中に浮いてるし……水に浸かってて溺れるかと思った……。
そうしたらオージンさまと会話していた時の様にベルザンディの声が頭に伝わってきたんだ。
「マスターの入っていらっしゃるのは、再生治療用のメディカルポッドです。溶液の中では、そのまましゃべれませんから思っている言葉を意識の表層で私に投げかけるように強く思ってください。マスターと私達には、最優先のパスが繋がっていますから今後は思考を向けるだけで、どんなに離れていても意思の疎通が可能なはずですよ」
(そうなのか? ありがとう、ベル……)
「ハイ、よく出来ました。今、みんなを呼びましたので揃ってから状況の説明を行いますね」
(ああっ、わかった。よろしく頼むよ)
◆
シュンッ。
エアーの抜けるような音とともにスクルドが駆け込んで来た。
「お兄ちゃ~ん♪ 目が覚めたってホント!?」
「少し御控えなさいスクルド。瑛さまは、まだお目覚めになったばかりなのですから……」
ウルズが スクルドの後ろをゆったりとついて来た。
(心配を掛けたな、みんな)
「ウゥゥ~、よかったよ~~、グスン……」
「安心いたしました。一時は再生が間に合わなかったのかと慌てましたよ。あの襲撃からすでに半年ほどが経っておりますので……」
(エッ! 俺ってそんなに寝てたのか。それじゃ~俺ももう30歳かよ……)
(はい、ですが肉体年齢的には3歳児くらいでしょう。瑛さまの体は、酷く損傷しておりましたので、ほぼ創り直したと言った方が正しいかと思います)
「エヘヘ、お兄ちゃん。今ならスーパーマンより強いかもよ」
「イイエッ! スーパーマンなど小指でチョイです!」
(なんだと……。べッ、ベルそれはマジな話か?)
「ハイ、マジです。もうマスターのあんな姿を見るのには私は耐えられませんからね」
「瑛さまの再生は、ほとんどベルが手掛けたんですけど……かなりマッド入ってたって言うか……最初の時なんか正気失ってましたもんね~」
「そっそんなこと、姉さんだって色々弄ってたじゃないですか……あんな処とか……」……赤面……
「バッ、馬鹿! それは後のお楽しみなんだから今言っちゃ駄目だよ」……赤面……
「それを言ったらスクルドだってなんかしてただろ。私は知ってるよ!」
「ヘヘ~、すっごい力、いっぱい使えるようにしたからね~♪」
(ふっ不安だ……すっごく……)
◆
「それじゃ説明を始めましょう。まずは、マスターの今の状態から説明しますね」
「「(頼む)そうね」は~い」
「半年前の襲撃でマスターは、一度死亡しました。ですが私達3姉妹の能力とマスターから頂いたチカラ……英知によって黄泉がえらせることに成功したのです」
(そういえば、オージンさまが 『みんなによろしくっ!”』って言ってたな~)
「オージンさまにお会いになったのですか?」
(ああっ、暇つぶしに話し相手になれって言われてな、アストラル界で体感1時間くらいだべって来た)
「アストラル界で1時間ですって!? あんのクソジジイっ、これで謎が解けました。それが理由で瑛さまの意識が戻るのに半年も掛かったのですね……アストラル界と現実世界では時間の流れが違いますので……」 ……でも、そのおかげで瑛様の体も安定したし、私達が色々弄ってたから気を利かせたてくれたのかも……
「そうですか。それでオージンさまは他に何か仰っていましたか?」
(そうだな~、『セフィロトと旧支配者には気をつけろ』と言っていたな。あとは特に何も……そう言えば俺のことを最初に『ロキ』……と呼び間違えたりはしていたが……)
「そうですか……」 ……まだ、瑛様は前世の記憶がお戻りにならないのですね……
「では、説明を続けましょう」
<ベルザンディ- Side>
マスターの体は、酷く損傷していましたので根本から創り直す事になりました。
ただし、DNA情報を保持したまま手を入れましたのでちゃんと子供を作れる機能はそのまま残してありますよ。
……赤面……
今、マスターが入っていらっしゃるメディカルポッドの中は、ガス交換生態溶液に満たされています。
溶液中でも呼吸が出来ますし、温度調節、栄養の補給も同時に行えます。
体の再生には、特製の医療用ナノマシンを使用しました。
そのLCLの内には、数億を超える数のナノマシンが今もマスターの復帰の為に働いているわけです。
たまにピリピリッとする時がありますが心配はありません。それは、筋肉に微弱な電気信号を流すことで運動機能の正常化を促し、筋肉の活動状況を再現しています。
現在のマスターは、およそ3歳児相当の体ですが身体能力は人類の範疇から大きくかけはなれていると思います。
多分ですが成体になられた折には、素手で邪神と殴り合いが出来るぐらいには成っているはずです。
(………ァ~、ウン……)
お辛いと思いますがあと半年ほどは、このままポッドの中で過ごしていただきます。
その間に12歳児ぐらいにまで成長した後、二次性徴期に入りましたらポッドから出ていただき、普通の生活に戻る為のリハビリを開始する予定です。
マスターの新しい能力やチカラについては、第三世代・量子コンピューターであるマスターの脳にすべてが記憶されています。
(……エッ、俺の脳みそ……)
ポッドから出て体を動かすようになれば、自然と使えるようになりますよ、ご安心ください。
ほんとうに医療用ナノマシンが使えるようになったのが大きな技術の進歩ですね。
通常ナノマシンと言われていた物は、細菌や細胞よりもひとまわり小さいウイルス(10nm~100nm)サイズの機械といえますが あまりに小さいので量子力学的効果が発生してしまい、ただ小さくした機械では動かなくなってしまいます。
量子コンピューターによるリアルタイムなコントロールが不可欠で遺伝子治療などに使われるスポットタイプでも製造が困難でした。
特に、自己増殖タイプには暴走して全てを食いつぶすなどの危険性もありました。
しかし、我々が高性能な量子コンピューターの頭脳体で在ることでナノマシンを自由に使うことが出来るだけではなく、同時にエネルギーの供給もすることが出来ることで実現しました。
我々が実際に使用しているナノマシンは、考える頭脳は有りません。
所謂ラジコンの様な物とお考え頂ければ良いと思います。
簡単な命令やプログラムとエネルギーを 微弱なマイクロウエーブでリアルタイムに送る事で動かしています。
送電を止めれば 活動も止まるわけです。
ただし、この方法は現在の私達3姉妹にしか行えません。
自我を持ち、必要な知識を持ち、エネルギーを送りながら億単位のナノマシンをリアルタイムに制御するなんてことは普通では不可能です。
たぶん、マスターもそのうち出来るようになると思いますよ。
とにかく便利なんですよ、これ。
自分の体も自由に弄れますし、本当に魔法のようなことが現実に出来ます。
……それで自己進化したのか……。
自然界のウイルスは、一種の生きたナノマシンだと言われていますが、自身には自由に活動するだけのエネルギーを持っていません。
感染した生物の細胞内に潜り込み、それを乗っ取る事で生存と増殖の為に必要な全て、栄養やエネルギーはもとより増殖する為の材料さえも全てです……。
この時の人体の防衛反応が、発熱や炎症など色々な症状として発生するわけです。
我々の使用するナノマシンは、外部からマテリアルの形で材料を供給し、エネルギーを送る事で人体には負担を掛けず免疫機能にも引っかからないように増殖と活動を行うものです。
やろうと思えばエネルギーとプログラムだけを送り込んで、送り込んだ先を食いつぶす事も可能ですので癌細胞など局所的な除去にも利用できます。
そして、もちろん正常な人体を食い荒らすことも……これは最後の手段ですね。
それから私達は、現在全員が死亡したことになっています。
本物そっくりのダミーの死体を置いてきましたのでのバレる事は無いと思って大丈夫です。
今後は、同姓同名の別人ということで社会に潜り込むことになると思います。
一度、セフィロトと事を構えてしまったので敵対する運命からは、逃れられないと思われます。
まっ、第二世代の量子コンピューターである私達3姉妹がいる限りは、彼らの好きな様にはさせませんし、私達は自己進化して既にコンピューターの括りから逸脱した存在に成っています。
そして現在、私達は小笠原沖の水深1200メートルの深海にあります。
深海に沈んだ缶詰めのような状態にあります。
ここからの説明は、姉さんおねがいします。
……もう、俺は何を聞いてもおどろかね~ぞ……
<ベルザンディ- SideEND>