第34話 ジュリアの実家
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みんな、ご無沙汰だ。
俺は東雲 瑛、今じゃ皇帝ルシファーなんて名乗っている。
さて、俺達は建国を済ませ、お披露目も大々的に行ったことで、活動基盤もほぼ整ってきた。
アフリカでの出来事は世界中に配信され、世の中は人外の脅威の存在とそれに抗う帝政ルシファーを目にした訳だ。
今は、ちょっとしたヒーローブームになっている。
比例して外交圧力は今まで以上にうるさくなっているけどな。
だがしか~し、周りがなんと言ってこようと、俺の意に染まない話はすべてにおいてアウトオブ眼中だ。
独立国家に対する内政干渉ということで、全て突っぱねる腹づもりでいるし、実際にそうしている。
曲がりなりにも完全君主制の皇帝だからこそ出来る事だよな~。
まだ国民もほとんどいないし、五月蝿い大臣や閣僚もいないしね。
でも、自由にできるのは今の内かなとも思っている。
正しい指導者がまともな政治をすれば、君主制ほど平和で発展する政体も少ないんだ。
ただし、国はその指導者の世代が変わる事でやがて歪んでしまう物だという事も正に歴史が証明している。
まあ、俺には寿命が無いから飽きるまでやったら、そのあとはまたその時に考えるさ。
おかしな考えを持った奴に入り込まれないように、今の内に対策は打ってあるしな。
神様、舐めんなよ!
◆
俺は今、ジュリアの実家に向かっているところだ。
ジュリアを公式にも俺の嫁として世界に発表し、今後后妃として活動してもらう事が決定しているが、身内への挨拶も無しに掻っ攫う訳にも行かないだろう、……というのは建前で、早く挨拶に行ってこいと姉妹たちに尻を蹴り上げられたというのが実情だ。
「そんなに慌てなくても良かったんですけどね、ウフフフ」
「そうは言っても、知らんぷりする訳にもいかないじゃないか。それでお前の婆ちゃんは、どんな人なんだ?」
「そうですね~、説明の難しい不思議な人ですよ。年齢不詳ですし……聞くと怒るんです」
「フムッ、ジュリアはエルフの先祖帰りだとしてお前の婆ちゃんも似たような存在なんじゃないか……まあ、会ってみれば分かるだろうさ」
「百聞は一見にしかずといいますからね~。私が説明するよりそのほうが良いでしょう」
ジュリアの運転で俺たちは、カナダ国境に近い北米の田舎の道をかっ飛んでいる。
実際には、地面から数ミリ浮いているので見た目のスピードの割に砂埃もほとんどたっていない。
未舗装な田舎道をこんな気の狂れたスピードでかっ飛ぶのもおかしな話だが、端から見ると氷の上を滑っているように見えることだろう。
まあ心配することもないだろうさ、あまりにも田舎でろくに人にも車にも合わないんだよな、これが。
「しかしほんとに何もないな~……道が有るから人が住んでるのは分かるが……」
「この道はうちの私道ですからね、近くの街まで直線で200kmは離れてるんですよ。電気も来てないし、辛うじてテレビとラジオの電波は届くんですけど……電話なんて衛星電話じゃないと繋がんないし……」
「そうするとお前んとこは自家発電か? まさかランプの宿ってこた~ないよな?」
「ランプは今でも現役で使ってるわよ。裏の谷川に水車があってね動力はほとんどそこから取っているの。驚くことに全米に電気が施設されるよりも早くうちでは小型の水車発電機が動いてたって聞いているわ……どう、不思議でしょ?」
「……なんだそりゃ……古の魔法使いっていうのもまんざら嘘じゃないってことか……」
俺に言わせれば、賢者や魔法使いって奴らは進んだ科学技術の申し子だ。
俺達科学者が現代の魔法使いなのだから……気が合えばいいんだがな~。
この手の連中には気難しい連中が多いのも、俺達と似たようなもんなんだよ。
しばらくゆくと鬱蒼とした森の中に道が続いている。
どこの原始林だって感じの深い森だ。
日本ではチョッと見たことがないような巨木が生えている、あれはメタセコイヤか?
和名アケボノスギって云うんだが、なんだあの太さは……直径10mぐらいあるぞ。
「この森はお婆ちゃんの育てた森なのよ。昔はもっと大きかったらしくて、林業で一財産作ったんですって。今じゃ燃料も建材も昔みたいには使わなくなったしね、でも高級家具なんかには今でも引っ張りだこなのよ、滅多に市場に出ないから幻の材木なんて言われてるみたいね」
「ほうほう、さすが森人」
グンとスピードを緩め、森の中を1時間ほど進むと小川のせせらぎの音が聞こえてきた。
よく見ると樹木に隠れるように山小屋が姿を現したじゃね~か。
いや、こりゃ~山小屋なんてもんじゃね~な……大邸宅だよ。
俺は屋敷の玄関でポカーンと口を開けて、見上げていた。
そしてこのあと、俺は驚きの連続に晒されるのだった。
おい、そこ、ジュリア、後ろ向いて笑ってんじゃね~よ。