第29話 アフリカ外遊5 20210911・加筆修正
2540文字 → 2749文字
場末の酒場、それも明かりもろくに当たらないボックス席で悪巧みする3人組がいた。
酒場の古臭いテレビから聞こえてくる実況中継を、横目に見ながら酒盛りをしている様である。
「なんか向こうばっかり楽しそうで、面白くないわよね~。でもこの後、ずっと面白くなるわよ♪」
「ほほう、それは楽しみだ。我が神の化身アトゥに乾杯!」
「彼も色々と仕込んでる様だね~、お手並み拝見といこうじゃないか。ア~ハハハ~♪」
酒場のテレビの周りに群がっている酔っぱらい達の他にも、客が沢山居るにも関わらず不思議とこの一角に人は寄ってこない。
その不思議に気がついている者は、此処には一人として居なかった。
◆
『実況のルイス・キャラウェイです。ただ今こちらの時間は、午前3時です。夜明けが近くなってまいりました』
『明るくなると、アトゥの活動時間を過ぎて、捕獲が難しくなります。夜が明ける前に、捕獲を終了したいですね』
『ジュリア・エリザベスさんは、映画女優として有名でいらっしゃいますが、現役の大学生で歴史や異種生命体の研究をされているとお聞きしています。今回はオブザーバーとして参加されていますが、邪神アトゥについてのコメントを頂けますか?』
『邪神アトゥについて、現在詳しい事は分かっていません。ですが、古い伝承や遺跡などに、邪神アトゥと思われる碑文や痕跡が残されています。地球が出来てから46億年、人類が地上に誕生しておよそ26万年ですから、地球の歴史から見たら人類の繁栄なんて、ほんの一瞬ですよね。太古において繁栄しただろう文明や生物も沢山居たでしょうし、もしかしたら邪神アトゥも、そんな滅びた生物の一種かも知れないですね』
『現在、人類が地球の支配者として繁栄しては居ますが、地球の方から見たら体にタカッテる蟻かダニくらいのもんだろう? 最近の異常気象や天変地異も、地球の活動からしたら身震いやクシャミくらいの事さ。星から見たら、そこにどんな生物が住み着いていようと、さほど関係はないのさ。今後も地球上に住んでいこういうのなら、地球が嫌がるような開発や環境破壊は、控えた方がいいんだろうな。まあ、それじゃ邪神アトゥが地球の使いや代弁者なのかっていうと、そんなことは絶対無いと言えるだろうね』
『それは、何故ですか?』
『それは地球が、生命の星だからさ。邪神アトゥの様な、生命その物を吸い取るような物が、地球の代弁者であるわけが無い。大いなる悪意しか感じないからね。実際に病気やウイルスといった物は、地球の環境が生み出すものだけど、全ての生物を絶滅に追いやるようなことはしていないからね』
『確かに、皇帝の仰るとおりですね。このままでは、地球上が全て砂漠になってしまいます』
『そろそろ捕獲が終了しますね。カウントダウンが始まりました。1047~!』
『1048~!』
『1049』
『ルシファー様、シールド圧力ガ急激ニ上昇シテイマス』
「何だって!? ベル、何か変化は無いか?」
『1050』
『1051』
「マスター、捕獲した時のアトゥの総質量と現在のシールド内のアトゥの質量が合いません。少なくなって来ています!?」
『1052』
「何だって? 少なくなっている……共食い……!!! マズイッ!」
『1053』
『1054』
『1055』
「エイル、シールド最大出力! 全員緊急離脱、離れろーーーっ!』
『『了解、緊急離脱!』」
『1056』
『1057…END』
ピシッ…ピシピシ……ドオゥーーーーーーン……
カウント終了と共に、シールドのお釜の底が抜けた!
結界陣で止まっているが、シールドの弾けた時の衝撃波が辺りを襲った。
今にも決壊しそうに光が瞬いている。
『エイル、予備のシールドビットを全部出せ、抑えるんだ! ベルは状況確認、スクルドは和尚を頼む』
『「了解!」』
『なっ何があったんですか?』
『奴等、一箇所に集められて融合合体しやがった!』
『どういう事ですか?』
ここに、ウルズが白衣に眼鏡姿で登場!!!
『それは、私が御説明いたしましょう』
『ッ!』
『邪神アトゥは、一にして千の顔を持つとされるナイアルラトホテプの化身。千だった者が1つに戻る事も、又、必然といえるでしょう。今、1つに成った事でチカラは一万倍を超えていると思われます』
『そんな……、無理です。そんな化け物を殲滅するなんて……』
『いいえ、ルシファー皇帝は、成し遂げられます。あれを御覧なさい!』
10枚の光る翼をまとって、金色の聖人が巨大化した邪神に向かって飛んでいく。
『ウォッリャーーーーーッ!』 ……ドォッゴォーーーーーン……
俺は今、バトルモードになって、キング・アトゥとも言える奴と肉弾戦をしている。
『ポジトロン・ブレード!』
篭手の部分から光りが生えた。
振り回される触手を当るを幸いに切り裂いていく。
原子破壊されているので傷口は再生されない。
捕縛結界が意味を持たなくなってきたので、早くシールドによる檻を完成させなければならない。
俺は、その間の時間稼ぎに出てきたのだ。
『マスター、現在のアトゥは、通常時と比べて質量で300倍ほどですが、キルリアン強度及びエーテル圧力は、1万2千倍にまでなっています』
『小さくなってるのは好都合だ。エイル、シールドを3重に一気に張れるか?』
……ドゥッウーーーーーーン……
『可能デス、準備ニ90秒掛カリマス』
『ウルズ、そこに居るな!? BH砲の用意、シールドで抑えた瞬間を狙え!』
『了解しました、重力崩壊に巻き込まれないよう気をつけてください』
『お爺ちゃんは無事だよ。吹っ飛ばされた時に足を折れてるけど、命には別状はないよ』
……ドォッゴォーーーーーーン……
『伊達に御山で修行はしとらんわい、まだまだ若いもんには負けんぞ。痛っっ~』
『ティンカー達よ、結界域を圧縮、最大出力で囲め!』
「「「「「「「PiPiPi---!」」」」」」」
ティンカー達が光り、五芒星となって捕縛結界が急速に縮んでゆく。
『エイル、今だ! シールドビットフル展開。BH砲の着弾後封鎖!』
ティンカーの後を追うようにシールドビットが周りを囲む。
『BH砲・発射!』
『『BH砲・シュート!』』
宇宙戦艦ヒルドの艦首に魔法陣が黒々と輝き、マイクロブラックホールが放たれた。
邪神アトゥにブラックホールが着弾して重力崩壊を開始する。
瞬間、シールドによって3重に封鎖された内側から縮んで行き、最後のシールドも共に砕け散って虚空に消え去ったのだった。
『ミッション・コンプリーートーーォ!』
『『『『『お疲れ様でした~』』』』』
……ほんと~に、疲れたよ……。
……ウォーー……ワァーー……ホヮーー………
………ワァーー……ワァーー……ワァーー……
…ヤッタ~~…スゲ~~よ…スゲ~~よ~……
世界中で、観戦していた人達は、狂喜乱舞してお祭り騒ぎが3日3晩続いた。