第27話 アフリカ外遊3 20210911・加筆修正
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俺達は、急ぎ陸路をスーダンに向かうことにした。
目の前に広がる光景を見て何というか、ホントに今は21世紀なのか疑いたくなってきた。
ゲリラ、山賊、追い剥ぎ、アルジェリアはまだ良かった。
リビアは混乱の真っ直中、ニジェールは国勢不安で軍によるクーデターを待っているような国だし、チャドに至っては、世界各国の汚職ランキングでワースト2位ってどういう国だよ。
こりゃ、シシリーが軍事政権取ってた方が、纏まってたって言うのも強ち間違いじゃね~な。
今更ながらに悪いことしちゃったかな~と思ってしまったよ。
アフリカが何故ここまでカオスな状況なのか、簡単に説明しておこう。
まず、大国の植民地政策の失敗、その後の資源争奪戦に絡んだ外資の流入、利権の取り合いに絡んだ民族紛争とクーデター、砂漠ばかりで干拓も進まず食糧事情は最悪だ。
こんな事が続いているのに今を生きるのに精一杯の国民は、偉い人から何も教えられずに搾取されているだけ。
すごく作為的な物を感じるんだが、『アトゥ』が砂漠化を加速させていることを考えると、どう少なく見積もっても裏で糸を引いてるのは、スティーブなんだろうな~。
消息をくらませた他の面子も関わってそうでホントにイヤになる。
アレックスと連絡を取り、武力介入は不味いが人道支援なら良いよ、ってことで道すがら炊き出ししたりしている。
食料はどうしてるのかっていうと、襲ってきた武装勢力のを分捕ったり、悪さしてる山賊のを分捕ったりしている。
それで分かったことは、武装した飢えた国民がほとんどだという事だ。
自衛をするために武器を買う。
武器を買うために他を襲う。
武器商人は何も知らない女子供や若者に武器の使い方と戦い方を教える。
道徳や正義など地平の彼方である。
無法地帯で武器商人や軍人が巾を利かせ、捌いた武器が命を奪ってゆく。
守るために手に入れたはずの力で、他者から全てを奪い、奪うためのカを欲する。
何という悪循環。
襲ってきた奴は、武器を破壊してお仕置きした後に一緒に飯を食う。
人間、腹が減っているとろくな事を考えない。
自分達がなぜ武器を手にしたのかを思い出させ、どこで間違えたのかを教える。
ベルが、鬼気迫る勢いで、薙ぎ倒し教育的指導を施し矯正した後、おいしい物を食べさせ洗脳…いやいや教育していく……、当然ファンという名の信者が増えていく。
ジュリアは、その知名度とコネクションを活用して、世界中から支援物資を集め始め、アフリカの現状を発信している。
武器商人や横流しをしている軍人は、需要があるから蔓延る訳だから市場を無くしてやればいい。
普通は、こんな慈善事業なんて誰もやらない。
宗教関係者だって命は惜しいし、資金や食料は有限だ。
ホントは今までだって、支援は世界から集まってきていたんだ。
だが、それが国民の手に渡る前に、軍や役人に横流しされ、搾取されてしまう。
国連軍も介入して、色々なところで支援活動をしている。
ただし武器を構えながら、襲ってくるゲリラに怯え、地雷を処理したりしながら……。
当然支援活動は、はかどるはずは無く、自分達の身を守るのがやっとの現状では、状況が改善される筈もない。
視察した国連軍は、どこも疲れきっており、可哀想な現状だった。
ここで暗くなっても仕方がないし、ベル達も頑張っているので、俺はイービルディーにある輸送艦の設計図を送って各部隊に一隻ずつ貸与した。
シールド強化型無人小型輸送鑑
全長 35メートル
全幅 7メートル
全高 7メートル
動力 20カラット・Eクリスタル
重力場推進機関
武装 対人用パラライザー装備・全方位対応
(武器を自動関知し敵対者には警告及び無力化)
装備 シールド強化により物資と周囲・半径100メートル内の防衛を行う
性能 AIによる自動運行で基地と部隊間を往復、直接支援物資を現地部隊に輸送、活動時はシールドを展開しながら部隊と配給支援物資を護衛、周辺の武器や兵器をサーチし無力化もしくは警告する
活動範囲を、大気圏内限定にする事で、建造コストと工期を圧縮し、ロールアウトまで5日、同時建造10隻のスピードを叩き出した
あくまで貸与だが、AI装備でほとんどメンテナンスフリー。
勝手に稼働する輸送の足と防衛の要が出来あがった。
国連軍は、安全と足を確保したことで、支援活動がスムーズに動き出す。
ただしこの船、他の事に使おうとしたり分解しようとするとAIが警告したあと排除する。
不心得者ってのは、何処にでも居るもんで、人から借りたもんを勝手に持っていったり、バラして売ったりする奴が必ず出てくる。
他国に乗り逃げしようとした奴まで出てくる始末で、尋問してみると、武器商人の裏にいるロシアや中国辺りの差し金らしい。
武器が売れなくなってきたので、妨害し、あわよくば技術情報を盗むつもりだったとの事である。
そんな簡単に、盗まれてたまるかって~の。
支援物資は、国軍には流れなくなり横流しが出来なくなった。
当然、国軍が飢え始めるわけで、横領している官僚や政治家が慌て始めた。
最初に輸送鑑を襲いに来た奴らは、自分達の武器が役に立たず、端から無力化されていった。
訳が分からずに武装解除されて、教育的指導されて解放された。
まさか解放されるとは、思って居なかったのか、皆、鳩が豆鉄砲食らったような顔をしていた。
そんな道草を食いながら、シシリーの所まで辿り着いたんだが……。
「酷いな、ここまでするのか……。奴らは……」
そこに有ったのは、串刺しにされた死体の林だった。
シシリーは、一際目立つように張り付けにされていた……そして残されていたメッセージ。
『創造主に逆らうからこうなるのだ、異教徒には天罰を~ヒャ~ハハハハァ~』
『あぁ~、楽しかったわよ~。アトゥは、イッパイ呼んどいたから後始末・ヨ・ロ・シ・ク・♪』
『ルシファーよ、また会おう。ワッハハハハ……』
「やっぱり、アトゥーがこんなにはびこってるのは、奴らが呼んだのか。シシリー達は生け贄に使われたんだな」
「このまま晒されて居るのは可哀想ですし、早く弔ってあげなければ……」
「この陣は、まだ生きてますね。早く浄化しないと際限無く邪神を呼び込んじゃいますよ」
「よし、ジュリアは浄化の魔法陣を頼む。俺が魔力をそそぎ込むから、ベルは制御を頼むぞ」
ジュリアが、邪法の陣の外側に、浄化魔法陣を書いていく。
俺は、中心のシシリーの所に向かった。
「辛かっただろう。穏やかにとは言えないが今終わらせてやるからな、ゆっくりと眠ってくれ」
シシリーに手をかざし、浄化力のあるエーテル波動を送ると、張り付けにされていたシシリーが淡く光り溶けるように消えていった。
「こんな非道が行われているなんて、彼らはいったい何者なんですか?」
「旧支配者の写し身、その凶信者と女司祭ですよ。詳しくは、後ほど説明しますね。直ぐ終わりますから少し離れていてください」
「準備が整いました、始めましょう」
俺は、聖衣モードで翼を展開、10メートルほど浮き上がり、ベルの呪文に併せて全身から、先ほどと同じエーテル波動の放出を開始する。
『……その聖なる光にて闇を照らし、邪なる力を祓い賜え……《ホーリー・サークル》』
忽ちそこには目映い光の柱が立ち上がった。
俺を中心に光がはじけ、周りを照らし浄化して行く。
それまで、淀んでいた空気が清浄な風に吹き流され、串刺しにされていた生け贄達の林も、光に還っていく。
「好き勝手にやりやがって、ツケはきっちりと利息を付けて払わせてやるからな。シシリー、仇は取ってやるぞ」
そろそろ、ウルズの方も準備が整う頃だろう。
綺麗にかたずけてやるさ……。