第19話 鬼の居ぬ間にあっちこっち 20210906・加筆修正
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ニュージーランド沖で生贄の儀式が行われて3日目。
リーフ直上の海上では、シシリーが10隻の魚雷艇で爆雷を落としていた。
かなりストレスが溜まっているのか、若干楽しそうに見える割に目が笑っていない。
爆雷の中身は、牛や豚の血肉や臓物などである。
……嫌がらせのつもりなのだろう……。
一方、リーフ内では、みんなで酒盛りをしていた。
俺の肉体年齢は現在16歳相当だが、見かけはもう18歳くらいになっていた。
「飽きもせず嫌がらせか~、そろそろ一週間続くのかな?」
「ウ~~、お兄ちゃん、アレぶっ飛ばしてきて良い?」
「止めとけ。俺達を燻り出すのが目的なんだから……しかし、迷惑では有るな~」
「大型の肉食魚(5mほどのサメ)や、少数ながら深きものの姿が確認できました」
「ふ~ん、月食って今夜だっけ? 多分斥候だろう。そろそろ大物もこっち向かってるだろうし……」
「はい、まだ遠くですがダゴンの反応がありますね、ハイドラも一緒のようです」
「夫婦で同伴かよ、ア~一族みんなで遊びに来るって訳ね」
「そんな悠長なこと言ってて良いの? 東雲さん」 ……なぜ君がここに居る、ジュリア……
「だいじょぶだって、地球上でここより安全なとこなんて無いからさ」
「瑛の言うとおりだ、大船に乗ったつもりで楽しもうぜ♪」 ……お前もか、ロバート……
「ベルさんや、酒が無くなったのだがもう一本頼めるかの~?」 ……オィ~、ジジイ~……
「は~い、少々お待ちくださいね。焼き鳥が焼き上がりましたよ、持ってって下さい」
「おまいらは、くつろぎ過ぎだ!!!」
「「「ガッハハハ…」アハハハ…」ウフフフ~♪」
なぜ、3人ともここに居るのか? ……時間は、少しさかのぼって7日前。
「なんか、上が騒がしいな……」
「数隻の戦闘用船舶からの爆雷攻撃ですね。こちらは深度が深いので特に影響はありませんが如何いたしますか?」
「放っとけ。今は、これを完成させて皆んなでピクニック行くんだから……」
「そうだよ~、ウルズ姉さま。早く遊びにいこ~♪」
「私は、お弁当と飲み物を用意いたしますね。ルンルン♪」
「ハイハイ、ジュエリーズ・リンクシステムは正常ですね。武装はどうしますか?」
「シールドだけで良いんじゃね。何かぶつけた程度では傷も付かないだろ? シールドアタックでビルくらいぶち抜けるしな」
「そうですね、それじゃ簡単にシステムの説明をしますね」
皆んなで整備している物は、見た目は普通の7人乗りランドビークルである。
「だんな~、俺の腕を信用してくれよ。そいつァ~見かけは普通のランドビークルだが宇宙空間も航行出来るってしろもんだぜ」
「イービルディーの言葉にもあるように、このランドビークルは深海・海上・地上・空中・宇宙まで使用できる特殊装甲ビークルです。定員は8名、主機には50カラット・Eクリスタルを使用しています。攻勢シールド発生装置を装備した万能カーに仕上がっています。光学迷彩及びステルス仕様で隠密行動も行えます。パワーユニットには小型の重力場推進を使用していますし同時に慣性制御も行っています」
「操縦は?」
「だんな達なら、そのまま考えただけで手足のように動かせるぜ。他のクルーが操縦する時は、ジュエリーズの思考制御にリンクする様になっている。ジュエリーズ展開時なら遠隔操作も自由自在だ」
「ほほ~」
「整備調整も完了しましたので早速出かけましょうか。最初は、マサチューセッツですか?」
「そうだ。ロバート達を迎えにいく。ついでに観光と買い物だな。イービルディーこの車、デザイン少しずつ変えて10台くらい作っといてくれ、あと留守番頼むな」
「分かった、楽しんで来なよ」
……マサチューセッツ工科大学前……
一台の真っ赤なランドビークルが、音も無く大学の車止めに停車した。
一切エンジン音も無く、ロールスロイスのリムジンでもここまで見事に運転出来ないだろうと言うほど静かに停車したのだ。
ドアが開くと車中からまず降りたのは、銀髪にメガネをした秘書然としたスーツ姿がビシッと決まったクールビューティーな大人の美人だった。
道を行く人が皆そのキリッとした美貌に見とれていると、2人目が車から降りてきた。
青い髪を背中に腰までたらした青年だった。
ラフな格好でありながら、スラリとした長身に適度に付いた筋肉、整った顔立ちに薄いサングラスをかけている。
不思議な存在感を感じさせられ、彼を目にした女性からは溜め息が漏れている。
3人目は、白いワンピースにつばの広い帽子をかぶった黒髪の女性だった。
日本人形の様なその美貌に、みな釘付けになっている。
そして4人目は、ゴージャスな金髪に若さが弾ける様な肢体のジーンズルックのこれまた凄い美女であった。
趣きの違う3人の美女を引き連れた青年が、先頭に立ってガードマンに来訪の意を告げている。
「ロバート・ブルーサイズ教授に面会をお願いしたいのですが? 東雲が来たとお伝え下さい」
「申し訳ありません。教授は、ただいま来客中でお会いになれないと思います」
「ああ、その来客も知り合いです……ジュリア・エリザベスでしょ?」
「確認いたします、少々お待ち下さい。……ハイ…ハイ、シノノメ様と仰っています……分かりました。……ミスター、お待たせして申し訳ありません、確認できました、お会いになるそうです。第3校舎の研究室へ御出で下さいとの事です」
「ありがとう。……みんな、いくよ……」
話は、纏まったようだ。
4人の美男美女は、大学の中に消えて言った。
◆
瑛のノックが終わるのを待ち切れない様に、いきなり内側からドアが開いた。
「テル! 本当に瑛なんだな?」
「久し振りだな、ロバート。不死身の悪友の登場だ」
「ホントに悪い冗談だぞ。死んだ友が生き返って戻ってきたんだからな。まぁ中に入ってくれ……」
「ホントに仲がいいのね。お久し振りです、東雲さん」
「よう、久し振り。学長からは聞いてるよ、抜けたいんだってセフィロトを……」
「ッ! 東雲さん、こんな所でその話は……」
「大丈夫だ。ウルズ、ジャミングはOKだな?」
「はい、大学に入るのと同時に全てのセンサーとカメラに欺瞞信号を同時発信しています。いくら優秀なイリスでも、私たちがここに居る事は分かりませんよ」
「…と言う訳だ、安心していいぞ」
「どうやってそんな事が出来るのか全然分かんないけど、東雲さんを信用します」
「取り敢えずコーヒーでも飲みながら話そう。そうだ! こちらの美女たちも紹介してくれよ」
「そうだったな、みんな自己紹介してくれ」
「長女のウルズです。瑛様の忠実なる愛の奴隷ですわ」
「チョ、おまっ!」
「次女のベルザンディです。マスターの肉人形ですわ」
「ナッ! まてっ」
「三女のスクルドで~す。お兄ちゃんの性の捌け口だよ~」
「……アリエネ~……」
「「……」」 ……ジト~……
「ヤメロッ~、そんな目で俺を見るんじゃな~~い!」 ……シクシク……
「瑛様は、しばらく使い物にならないと思いますので私からご説明いたします。私たち3姉妹は瑛様にお創りいただきました第二世代・エーテル量子コンピューターユニットの自己新化した存在であり、運命を紡ぎし時の女神ノルンの転生体です」
「なんですって! ノルンって北欧神話の巨人族の姉妹よね?」
「そうです。主神オージン様のお導きによって瑛様の元に使わされたのですわ」
「それで瑛は、生き返る事が出来たのか……」
「マスターの技術が在って、はじめて可能となった奇跡なんですよ。決して私達のみの功績ではありません」
「いかに神や女神でも、完全に死んだ人を蘇らせる事なんて出来なかったんだよ。奇跡と称えられている事の殆どが仮死や死ぬ一歩手前で、治療が間に合っただけなのであって、お兄ちゃんみたいに完全に一度死んでから蘇る事が出来たのは、私たちをこの世界に現界させた奇跡が生んだ必然なんだよ」
「東雲さんてホントに天才だったんですね。私は、チョッと気前の良い奇人変人ぐらいに思ってたんですが……」
「オイッ! それは無いだろう。日本に来たとき何度奢らされたと思っているんだ」
「アッ、生き返った!」
「俺はゾンビか? まぁ似たような物だが……そんな訳で生き返ったんだが、それをオモシロく思ってない奴が居るわけだ」
「盟主ダアトだな……」
「ああ、ヤツは旧支配者ナイアルラトホテプの写し身だ。俺がとことん邪魔なのさ。なんでも転生する度に敵対していたらしいんだが、目の敵にしてんのはヤツの方で俺はどうでもいいんだよ。彼奴は、そんなところがお気に召さないらしい」
「エライ大物が出てきたな。女神が居る時点でもう驚くのにも疲れて来たな。それで勝算はあるのか?」
「東雲さんに打つ手が無かったら、私はどうしたら良いんですか~」
「俺も似たようなもんだし、ジュリアだけの問題じゃ無いさ。一蓮托生って処だな」
「俺としては、そっとして置いて欲しいんだがな~。そうも行きそうに無いんで、適当に相手してオチョクッてやろうかなと……」
「大丈夫なのか? 相手は、腐っても旧支配者なんだろう」
「半端に封印受けてるヤツだし、対策も取ってるから何とかなるさ。マッド舐めんな!! てか~♪」
「相変わらずですね、東雲さんは……見かけが若くて格好良くなってるけど中身は全然変わってませんね~」
「マスターを惚れ直しましたか? でもあげませんよ」
「そっ、そんなこと……」
「今回出張ってきたのは、みんなの保護に託つけけた旅行と、今の俺がどれ位の力を持ったのかみんなに見てもらう為なんだ。旅行しながら家に来て見ないか?」
「お世話になります!!!」
「おいおい、早いな~。俺もお邪魔するよ、一段落したら返してもらえるんだろう?」
「もちろんだ。お土産も持たせてやるよ、期待していいぞ」
「そいつは楽しみだ」
「早速だが支度して車まで来てくれ。表に止めてある赤いランドビークルだ」
「ワ~、この車ピッカピカ~♪」
「乗ったらもっとびっくりするぞ、さあっどうぞどうぞ……」
「……瑛、この車はナニで動いている? 静か過ぎる。運転もして無いよな、ハンドルも無いし……」
「重力制御推進と慣性制御で動いている。後は思考制御だな。斥力場発生装置の小型化に成功したから宇宙まで飛んでいけるぞ」
「規格外だ、お前の技術はここまで行っていたのか……」
「まだまだ、序の口だぞ。家に来たらこんなのは、オモチャみたいなもんだ。そうそう2人共これを付けといてくれ」
2人にジュエリーズを渡した。
ピアスとネックレスである。
2人とも怪訝な顔で受け取っていた。
「それは、ピアスが通信・情報慣性・生命維持・思考制御トランスミッターに、ネックレスが強化服と斥力場推進システムと各種ナノマシンのプラントが組み込んである。家に入るための鍵でもあるから身に着けていないと防衛機構に排除されるからな、忘れんなよ」
「もう何も言わん……ハァ~……」
……2日後・高野山……
「それで、みんな連れ立ってこんなとこまで来たんじゃな?」
「やあ、日本人としては旅行と言ったら温泉でしょうよ。大師~いい宿知らない?」
「があっはははは♪」
そんな訳で、ここリーフで酒盛りしてたりするわけだ。
みんな家に来た時は、開いた口が塞がらなくて、その内に住み着く気満々で、勝手にイービルディーに家具作らせてるし、自分の部屋も決めていた。
「みんなに態々来てもらったのには、頼みたいことがあるからだ」
「なんだ瑛、改まって。俺は、基地を見せびらかしたくて引っ張って来られたんだと思っていたんだが?」
「それもある!」
「アルのかよ! やっぱりな……」
「みんなには人集めを頼みたいんだ。俺より断然顔が広いし信用も有るし、役人にも伝手があるだろ。俺は、もっとここの住人を増やしたいし、行く行くは宇宙に上がって金星のテラフォーミングをしたいと思ってる」
「宇宙に出るのは、昔からのお前さんの夢だったからのぅ」
「そうなんだ。実際には、このリーフごと宇宙に出る事が出来る。其の為に動く町を作ったんだから……」
「同じ夢を持っている奴は、それこそ世界中に居るだろうからな。それで選別の基準はどうするんだ?」
「特に無い。夢を見たい奴で俺達の目に適ったヤツならいいと思ってる。3人の女神と俺の目を盗んで悪いことが出来るなんてまず無いからな」
「ジュエリーズや色んな設備使って映画や芝居してもいいんですよね? 娯楽は大事ですよ」
「その辺は、ジュリアがメンバー募ってくれよ。任せるからさ、宇宙放送なんかもいいよな」
「ワシはどうするかの~、禅寺でもやろうかの~」
「地球の方にもパイプは残したいから、その辺の根回しもよろしく頼む。ミスカトニックの学長も一口乗る事になってるし、それなりに人材は集まると思うんだ」
「あんの糞ジジイ~、ペテン師だよ~!」
「大学の学長なんて物は、腹芸が出来てなんぼだろ。そういう訳で協力を頼む!」
「「「了解じゃ」分かった」任されて♪」
「みんなに渡したジュエリーズを通して、何時でもお互いに情報の交換が出来る。景気よくビークルも好きなのを一台もって行ってくれていい。活用してくれ」
サ~、準備は整った。
今夜は、祭りだ!
攻勢に出ようじゃないか……。