第18話 ミスカトニック大の彼女は 20210906・加筆修正
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イネスがニュージーランド沖で外法の儀式を行った翌朝、ジュリア・エリザベスは、母校ミスカトニック大学の学長室にいた。
「学長! 私は確かに研究資金がかさむからという理由で、ゴルトマン氏を紹介してもらいました。ですが、私は結社に席を置く事になるなんて一言も聞いていないかったし了承もしていなかった筈です!」
「ほう、優秀な君が結社の11使徒にまでなって、私は推薦した者として鼻が高いんだがね。一体全体どうしたのだね? 淑女というものはもう少しお淑やかに……」
「話をはぐらかさないでください! だから、不本意に結社の幹部なんかに成っちゃって引くに引けなくなっちゃったんですよ。この所、結社の中がきな臭くなってきてて直ぐにでも辞めたいんですけど……なんとかしてくださいよ~」 ……涙……
「う~ん、そんな事を言っても難しいだろうな~君、有名人だし……。そもそも神秘学科を専攻している学生は君だけだし、他に代わりの人身御供…ゲホンゲホン…我が校から推薦できる優秀な学生は居ないしね~」
「……今、人身御供って聞こえましたけど……」
「なっ、何を言うんだね、可愛い生徒を我が身惜しさに人身御供になどしないさ……」
「……そうですか、私は学長の代わりに差し出された人質だったんですね。……そんな~、他人事だと思って……教え子の生死に関わるんですよ、何とかしてくださいよ~」
「君は有名人だし余程の事が無ければ変な事は、されないさ……。う~ん、それじゃ危なくなったらここに連絡しなさい、彼なら何とかしてくれるだろう。頼りになる人物だから君も気にいると思うよ」
学長は、メモに走り書きをしてジュリアに渡した。
「あっありがとうございます。学長、やっぱり頼りに成るのは学長だけです~!」
ジュリアは、学長からメモを引ったくって学長室を飛び出していったのだった。
……メモに書かれている内容を禄に見もしないで……。
「エリザベス女史は、もう少し落ち着きがあると完璧なんですがね~。彼のところで少しでもお淑やかになると良いのですが……では、私もしばらく身を隠すとしましょう」
◆
ジュリアは、神秘学科の研究室に戻ってイリスに連絡を取っていた。
取り敢えずここに逃げ込んでいれば安全だろうと、先週から女優の仕事を全てキャンセルして転がり込んでいるのだった。
ここは、あつかう物が物だけに結界が張ってあって安全だ……と彼女は信じていた。
その効果が如何程か定かでは無いが、この大学が連綿と伝えてきた神秘学科の研究者が様々な悪意からその被害を免れているのは事実だった。
「イリス、そっちは今どんな感じ~?」
『ジュリア様、こちらは昨晩一度目の儀式が無事終了いたしました』
「その時の映像記録は、見られるかしら?」
『ご覧になる事はお出来になりますが、記録はお撮りにならず即座に消去してください。責任問題に成りますので……』
「分かったわ、送ってもらえる?」
『いま、お使いの携帯端末にお送りいたします。人目のつかないところでご覧ください」
そして、そこに映し出された光景に、ジュリアは震え上がるのだった。
ジュリアは、研究室の資料庫に潜り込み、念入りに鍵を確認してから送られてきた映像を再生した。
映し出される映像には信じられない生贄の儀式が臨場感タップリに映されていた。
ジュリアは、震える手で携帯端末を握りしめ、血の気の引いた顔で震えていた。
「辞めてやる! ……絶対に、ヤメテヤル~~~!!!」
◆
『それで、学長からの紹介者って君なの? ……ティファレト?』
「エッ! エッ! エエェェェェ! どうして……」
『どうして生きてるかって? それは俺が天才だからさ♪』
「……瑛さん、心配したんですよ~、連絡くらいくださいよ~…」 ……涙……
『ま~ま~、冗談はこれくらいにして、本題を進めようか。学長も君に俺の連絡先を教えた時点で雲隠れしているはずだ、命が危ないからね♪ もう君が頼れる人間は……ロバートと竜樹大師くらいだろうな~、どうする?』
「え~、私は守ってくれないんですか? 天才さんは……」
『仕方がネ~な~、今から言うとおりに行動しろよ。分かったな?』
「了解です。待ってますからね♪」
こうして彼女も仲間になるのだった。
だんだん仲間が増えてきましたw