第14話 高野山から化け狸が来た 20210905・加筆修正
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小笠原諸島を更に南へ南下して、もうそろそろ硫黄島が視界に入って来るだろう何も無い海上に、凡そ場違いなほど賑やかな船が来ていた。
船が見えなくなる程の大量旗あげて軍艦マーチを高らかに流した大型漁船が一隻、何をするでもなく海上で2時間ほど陣取っている。
んっ、船首に出てきたのは……竜樹の爺さんじゃね~の?
こんな所に何しに来たんだ、あの生臭坊主?
マイクなんか持ち出して……今度は18番の演歌を歌い出しやがった。
宴会で一体何回聞かされたことか……これがプロ並みに上手いから質が悪い、……その一曲にどれだけ金掛けたんだ? 爺さん……。
『東雲の~、そっちが見てるのは分かってるんじゃぞ~い。大人しく出てきてくれんかの~?』
態々こんなとこまでシャシャリ出て来てんじゃネ~よ、まったく~。
シャ~ネェな、無駄足にさせるのも可哀想か。
「ウルズ、ジュエリーズの試作品で確か王冠タイプの在ったよな? ナノマシンのプラント載せる前のヤツ」
「はい、防衛と情報戦に特化したタイプの物ですね」
「あれには、立体映像の投影機能もあったよな? 申し訳ねーがそれもって上の爺さんのとこまで、お使い頼まれてくれね~か?」
「分かりました。行って参ります、10分ほどお待ち下さい」
ウルズが女神タイプのジュエリーズを使い、輝くような女神に変身して海中を上がっていった。
実際に輝いているのは、励起状態に成ったことで絶対領域を周囲に展開しているからだ。
闇の中を飛ぶようにフィールド推進で移動しているが、ここは水深3000メートルの深海である。
普通ならそのままリーフの外になど出たら唯ではすまないのだが、今のウルズなら戦略核の直撃でも微風に吹かれる程度である。
……バッシャ~ンッ……
「ウホッ♪ こりゃまた……別嬪さんのご登場じゃな……」
海中から飛び出したウルズは、空中にふわふわと滞空しながら挨拶を交わした。
「竜樹大師様でございますね。初めてお目にかかります。私は、ウルズと申す者です。我が主・東雲 瑛の使いによりまかりこしました」
「東雲には、女神が付いていると言っておったが真であったのか……」
「うふふふ、瑛様はもうしばらく動くことが出来ませんのでこちらをお使いください」
「これは、頭に乗せればいいのかのう?」
「はい、意識を眉間に集中していただければ思考制御にて使用法も分かるように出来ているものです。瑛様との通信にお使いください」
「ほほう、そりゃ~便利なもんじゃのう…」 ……カポッ……
竜樹大使は、何の用心をする様子もなく無造作に頭にかぶるのだった。
『よう、相変わらず無駄に元気だよな、竜樹の爺さん』
「瑛よ、久しいな……」
『今日は何の用なんだ? こんな何もないとこまでワザワザ出張ってきて……」
「お前さんが生きていると聞いてな、その確認とお前さんの今の考えを聞きに来たのよ。ちょいと爺の世間話に付き合ってくれんか?」
『ま~退屈してた事だし、付き合ってやってもいいぜ……』
「単刀直入に聞くが、まずお前さんの真意を知りたい。見たところ以前のお前さんとは、可成り様変わりしている様じゃが……」
『確かに生き残ったと言うより生き返ったって方が正しいな。新しい体になって、邪神とタメ晴れる位には成ってるらしいんだが実感が沸かね~しよ、実際に俺は文系で体育会系のノリにはいまイチ乗り切れないんだわ。俺はちょっかいさえ掛けられなければ戦争する気もね~んだけど、セフィロスとしては、そうも行かね~んだろ?』
「そうじゃの~、お前には抹殺指令が出ておるんじゃが……実際に見て勝てる気がせんの~……」
『いい勘してるな~爺さんは相変わらず……。放って置いてくれれば俺はゆくゆくは地球から出てゆく予定なんだが、爺さんも一緒に行ってみるか? このままじゃ地球の環境変化について行けない生物から死滅していくぞ、もう兆候はでている」
「なんじゃ、お前さん現代のノアを気取る気か? まあ、お前さんの言っていることは間違ってはおらんのじゃろうがな~」
『今の人類が生きていくのには、もう今の地球では狭いんだよ。人類が減れば地球の寿命が延びるだろう……だが、それをいい事に混沌成る世界を創ってるヤツがいる』
「ダアトじゃな、ヤツが化け物なのは知っておったがナゼそんな事をする? それに何の意味があるんじゃ?」
『ヤツは旧支配者の一画を占める、ナイアルラトホテプの写し身だよ。この世界を混沌に落とすことで旧支配者の封印を弱体化しようとしているのさ』
「ッ! なんじゃと、それは本当なんしゃな?」
『爺さんは、昔からの俺の夢の事は知ってるだろう。惑星開発と金星への移住ってヤツだ。あいつには邪魔だったんだよ俺の頭脳と夢がな……』
「何という事じゃ……、それでは人類は滅びるしか無いというのか……」
『まっ、生かさず殺さずにこのまま奴らの家畜として暮らしていくのが関の山かな……だいたい同種族同士で血みどろの争いを有史以前から続けているような生物は人類くらいじゃね~の。俺は、そんな事させる為に知恵の実を与えた覚えは無いんだがな~』
「んっ、知恵の実じゃと……お前さんはいったい何者なんじゃ?」
『俺は、爺さんも知ってる東雲 瑛だよ。前世ではロキとかルシフェルとか言われてたらしいがな……俺も一回死んで思い出すくらいには驚きの事実なんだがな』
「……たまげて声が出てこんな……、ルシフェルといったらルシファー・魔界の王ではないか、でもお前さんからは邪気は感じられんのじゃが……」
『俺は悪いこと一つもしてね~もん、ダアトの奴が邪魔な俺を悪モンにして、自分を善神に祭り上げてんだよ!』
「……それでお前さんは、地球を見捨てるのかのう? 人類を助けてはくれんのか?」
『俺は自分の好きな様に生きたいだけなんだよ。むかつく奴はぶっ飛ばすし、一緒に遊びたい奴とは仲良くしたい……。自由の意味は、知ってるつもりだから自分のやることには責任も持つさ……』
「ふむっ、相変わらず面白い奴じゃな……」
『ま~、袖すり合うも他生の縁って言うし困ったときには助けてやってもいいぞ。その王冠は爺さんにやるよ。使い方は、もう解っただろ?』
「うむ、有り難く頂いていこう……儂なりに人類の生き残る方策がないもんか模索してみよう、今日は邪魔したのう」
『いや、いい暇つぶしに成った。また暇なときに世間話に付き合ってくれると有り難いかな。兎に角今は、動けね~から退屈なんだよ~』
「ウワハハハ、分かった分かった!」
爺さんは、嵐が過ぎるように帰って行った……結界張ってないみたいだけど良かったのか?
ロバートにも、護身用にジュエリーズを送っておくとしようか……