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裃本家7◆

タイトルに◆があるときは挿絵あり

首のない体は仰向けの状態で左側を手前にして倒れている。歩み寄ってまず近い方にある左袖をめくる。特にドライブらしき痕跡はない。

次に反対側に移動して右袖をめくってみる。一見すると何もない。だが

「この右腕、作り物だな」

「ええ、かなり精巧な作りだけど」

「この中にドライブがあるのか?」

「多分、無いと思う。」

そう言ってからも優里は右腕をじっと見つめたまま動かなかった。櫂は黙って見守る。昔から見慣れた光景だった。こういう時の優里の頭の中では結論に向けて最後の論理の構成が行われており決して邪魔をしてはならない。

挿絵(By みてみん)

1分ほど経っただろうか、優里はおもむろに立ち上がり、心暖に向かって言う。

「ねえ、心暖アタシと賭けをしない?」

「賭け?急に何を言い出すの」

「いいじゃない、しましょうよ。因みに負けた方はスカートをめくって下着を見せるってことでどうかしら?」

勝利を確信した上でのゲスな提案。櫂は小さくため息を吐く。

だが心暖も言われっ放しではない。優里の提案を聞くと小さく「ふうん」と言い、頬に手を置きながらニヤリと笑う。

「面白いわね。いいわよ、何を賭けるの?」

「今からアタシ達の間で一切の嘘は禁止。嘘を言った方が負けってのはどう?」

「それ、誰が正しいか嘘かを判断するの?キリがないわよ」

「そうね、じゃあ制限を付けようか。ドライブに関することに限定するっていうのは?」

「例えば?」

「アンタ達はドライブが『暴走』していたのを実は最初から知っていた・・なんていうのはどうかしら?」

「『その通り』とアタシが言うと?」

「今までアンタ達が言っていたことが嘘になるわね」

「『暴走』を知っていたならその原因も知っていたことになる・・か。『違う』と言ったら?」

優里はニヤリと笑いながら右手の人差し指を立てて口元に持っていく。

「もし、コイツがドライブを持っていたらアンタはそう言ったかもしれない。でも今はもう『違う』と言うことは出来ない。だってそれを言ったらアンタ達はドライブの件でこれ以上アタシ達を引き留めておくことは出来ないでしょ?」

「・・・」

心暖は何も言わずに優里を見つめる。

「ドライブの状況がまったく分かっていないということは対応策も取れない。となると方針が決まるまでしばらく様子見ってことになるわよね。でもそれだと手遅れになる可能性がある」

「手遅れ?」

不穏な言葉に櫂が反応する。その言葉を受け優里は手元の生首を指し

「コイツのミッションの進行度は、ほぼ最終フェーズまで来ていると見ていいと思う。その場合早ければ今日か、遅くとも明日にはドライブは回収されることになる。つまり、ここで解散して改めてあとで連絡するなんて呑気なことをしている時間的余裕は無いってこと」

「緊急事態じゃねえか」

「そういうこと。アタシ達を巻き込んだ理由って『エサ』だけじゃないんでしょ?ね♡こ・こ・の」

優里の顔が歪んで邪悪な笑みを浮かべている。

日頃から心暖は優里をからかうのが好きで、それを優里は苦手としているところがある。周りから見ればマジメな優里の反応が面白くていたずら好きな先輩がちょっかいをかけているだけなのだが、いじられている方にとっては結構なストレスなのかもしれない。

心暖の口角が上がる。だが、作り笑いの類ではない。

「あーあ、はいはい、アタシの負けです」

(勝った)

心の中で優里は快哉を叫んだ。

だが、次の瞬間、快哉の倍速くらいの勢いで驚き、思わず声が出た。

「えーーーーーー」

心暖はスカートの両端をつまむとそのまま勢いよく両手を上げた。当然スカートの中身も丸見えになる。

こんなにきれいに(めく)れるものかと思うくらいに勢いよく跳ね上がったスカートはふわふわとしばらく空中で漂うとゆっくりと下に降りてくる。

時間にして2秒あったかどうかという短さだったが、細部に至るまで優里の目に焼き付いた。

(・・・Tバックだ)

それ以外何も考えられなかった。

やがてスカートは浮力を失い、フィルムをまき戻したかのようにゆっくりといつも通りのポジションに落ち着いた。

すると心暖は再度スカートの両端をつまみ、頭を軽く下げながら右足を引き、腰を少しかがめて優里に向かってカーテシーをした。

流れるような美しい所作だった。たった今、自分でスカートめくりをした女性とは思えないほどの・・・。

優里は固まって動けない。だがそれ以上に隣にいた櫂の方が衝撃を受けていた。

おそらく優里のシナリオでは

心暖:スカートをめくることを恥ずかしがる

優里:どうしようかなという感じで少しいじる

心暖:今までのことも含めてごめんなさい

優里:仕方ない、じゃあ許してあげる

みたいな展開を予想していたのだろう。

だが、心暖がスカートを捲るくらいでビビったりするはずがないのだ。

案の定、この勝負はどっちが勝ったのか分からなくなってしまった。

ふとこの訳の分からないやり取りをどう思っているのか気になり、統主の方を見る。

腕を組んで身じろぎもしない様子はやはりこの茶番に怒りを感じているようだ。

震えるように唇が動く・・

「Tバックか・・・」

櫂はゆっくりと目を閉じた。

(人の心を推し量るのは難しいな)


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