裃本家6
「分かっています。それよりオレ達を巻き込んだ理由を教えてください?」
さすがに櫂にも理由までは教えられていなかったのかと思いながら心暖は
「簡単に言えばアンタ達をエサとしてコイツをおびき出したかったということよ」
「エサ?」
櫂が怪訝そうな反応をする傍らで優里は何も言わずただ心暖を見つめている。
その目は心暖の次の手札を待っている。
心暖は右手の人差し指と中指を立てると
「コイツの目的は二つ。ひとつはドライブの奪取。もうひとつはN.A.P.の情報収集。ドライブについては奪取とまではいかなかったけど接触するところまでいけたのである程度の成果は上がったと考えていいでしょう。だけどもうひとつ・・」
中指を折る。
「N.A.P.についてはまったく片鱗にも触れることが出来なかった。では次に何をするか?選択肢はここでもふたつ、継続するか撤退するか」
そこまで黙っていた優里が反応する。
「撤退の可能性が高いと裃は判断したのね」
「そういうこと。でもここで逃げられたらドライブの行方も何も分からないまま、コイツを潜入させた機関を問い詰めることも出来ない。だから拘束に踏み切ることにしたのよ。本当はもう少し泳がせて情報を集めたかったんだけどね」
「ここで拘束しないことで更に得られる情報って何?」
優里がポツリとつぶやく。問い詰める口調ではなく本当に素朴な疑問だった。だが心暖の顔には明らかな動揺の色が浮かぶ。
心暖は統主に目線を送る。櫂たちに話さないまま進めようとしていたが、ちょっとミスをしたのでどうしたものかと問いかけている。
その視線を受けて統主は目を閉じる。瞼を通しても眼球が激しく動いているのが分かる。おそらく話した場合と話さない場合のシミュレーションを頭の中でしているのだろう。やがて結論が出たのかゆっくりと目を開け
「話さなければ無理か。・・・いいだろう、教えてやれ」
ため息交じりに観念したかのように指示を出す。心暖は頷き
「アナタ達は自動発動型のスキルを知っている?」
心暖は優里の質問には答えず、逆に質問してきた。
「所有者の意思とは関係なく発動するスキルのことでしょ。確か剣聖のスキルもそうじゃなかった?」
「さすがによく知っているわね。でもなぜ今、それを訊いたのかと思っているでしょ。それはねネビュラドライブは魔核だけど起動システムから見ると自動発動スキルに近いということを言いたかったのよ」
「魔核だけどスキルに近い・・」優里は心暖を見る。
「それって・・・本来はスキルだけど、調整して魔核として使っているってこと?」
「概ね正しいわ」
そう言うとふたたび心暖は統主に視線を送るが、もはや送られた方は何も言わなかった。
「そもそもネビュラドライブは裃が開発したものではなく、発見したものなの。しかも発見した当初から既に完成していて分からないのは運用方法だけだったのよ。」
「発見?ポリゴーンで?でもそれを他の機関が知らないってことは・・」
「優里!」
心暖の凛と響く声に貫かれ優里の身が固まる。
「そのことについては教えられないし、アナタが知る必要もない。だからこれ以上の詮索は止めなさい」
それは強い警告の言葉で、立ち入ることを許さないという意思の表れでもあった。
「結局、追加で得られる情報って何ですか?」
いやな沈黙が場を覆いかけるのを嫌って櫂が口を開く。
「そうだったわね。つまりドライブは自動発動型なので所有者から切り離すことは原則不可能なのよ。仮に切断しても所有者の魔力を辿って元に戻るはず。それなのに腕は被験者の肘の少し上から切断されていた。そしてドライブは行方不明。どういうことだと思う?」
「ドライブを一時的に停止させた・・という可能性は?」櫂が訊く
「それは無いわ」
櫂の言葉を優里が遮る。
「あくまで心暖の話を信じるということが前提だけど、裃が知らない運用方法を他の機関が知っていたということは理屈に合わない。そうなると知りたい情報というのは『切れないはずのモノをどうやって切り離したか』ということじゃないかな?」
心暖は黙って優里を見つめている。
「質問を質問で返して悪いんだけどアンタならどう考える?」
「ここからは完全にアタシの想像だけど」
優里は大きく息を吸ってから
「『暴走』させたんじゃないかな。方法は被験者以外の人間の魔力を短時間で大量にドライブに注ぎ込むことだと思うの。そもそもの話になるけどコイツを送り込んできた連中も長年研究している裃がいまだ扱えていないモノを簡単に盗めるとはさすがに考えていなかったと思うの。奪うことが出来ればそれに越したことはないけど出来ない場合の次善策として最初から『暴走』させることが計画に組み込まれていたみたいな・・」
最後は話しながらさらに何かに気付いたような口調になっていた。
「じゃあ、偶然『暴走』させたのではなく意図的に『暴走』させたということか?そんなことをする意味があるのか?」
櫂が言わんとするところは『暴走』がバグではなく狙った結果だったということだ。
「研究の妨害でしょうね」
優里があっさりと言う。
「ネビュラドライブの存在は今や裃の公然の秘密といった感じでほとんどの機関が知っている話よ。だけど長年研究をしてきているがこれといった成果を上げることが出来ていないのも事実。それがここに来てどうやら上手くいきそうだという情報が流れてくれば気が気じゃない連中も少なくないでしょう」
「誰かがドライブを排除しようと動いている?」
「今は魔力変換システムが主流なのよ。コンセプトとしてドライブは全くの逆で、しかも推定される出力もはるかに大きい。一般市場には出回らないだろうけど大規模なエネルギーを欲しがっている国や機関があれば、商売相手として無視できない存在になるでしょうね」
優里の話に耳を傾けながら櫂は倒れた簧黄の胴体を見つめる。
「二つの異なる魔力が注ぎ込まれドライブが混乱したところで腕を切断したのか。だけどそれだとドライブは後から侵入してきた方の・・・まさか、こいつの体に?」
「確認してみましょう」
優里が倒れている簧黄の体に近づく。櫂もそれに続くが、心暖と統主はまったく動かない。




