裃本家4◆
タイトルに◆がある時は挿絵あり
だが、簧黄の目に映ったのは需袢の最後だった。
何者かに首と頭を抑えられ、そのまま頭から畳に叩きつけられる。破壊音とともに頭は畳だけでなく床板をも突き破り、足だけを出して床に突き刺したような体制となって止まった。畳から出ている両足は少しの間、痙攣したように震えながらまっすぐに伸びていたがやがて震えが収まると糸が切れたように膝から折れ曲がり、それ以後はピクリとも動かなくなった。
衝撃的な光景にその瞬間、脳はオーバーフローとなり簧黄の思考は止まりかけた。
だが彼は踏みとどまり考える『需袢を叩きつけた人間は誰なのか?』と
答えは目の前にあった。不自然に曲がった首の上に黒髪長髪の頭を持つ女が投げたのだ。
簧黄の脳はそれが優里であると瞬時に認識した。だが何が起きたかは理解できない。
そして次の瞬間、理性より本能が、状況の理解を後回しにして『逃げろ』と体に指示を送る。
本能に従い、振り向いた勢いそのままにさらに半回転して脱出。
だが、体は反応しなかった。
正確には反応する体が無かった。
彼の首から下は後方に背を向けたまま立っていた。
認識票を渡そうと需袢の方に振り向いた時には彼の首と胴は離れていたのだ。
代わりに彼の首の下には心暖の手がある。
「心暖さん、これ何を釣ろうとしたんですか?」
特に驚く様子もなく櫂が尋ねる。
「いたた・・」
折れた首をさすりながら優里が立ち上がる。見ればいつの間にか首は元に戻っていた。
「まったく、首が折れたわよ」
「石はどうだ?」
櫂に言われて優里は胸ポケットを探る。
手にはひび割れた石が握られていた。
「割れている」
「『身代わり』・・使っちまったな」
優里の手のひらにある割れた石を見ながら櫂が残念そうにつぶやく。
『身代わりの石』は高純度の魔石を使った術である。持ち主に生命的危機が迫った際に持ち主の魔力の半分を使用し、『身代わり』を作り危機を回避する。
ただし、一定以上の魔力が無いと発動しないうえに使用後は魔力量が半分になるため膨大な魔力を持つ者でも実戦での使用は2回が限度とされている。(この石を多用するほど追い詰められた状況に置かれながら一方で自分を弱体化させていくことは自滅するのと同じことになる)




