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裃本家2

張り詰めた気が一瞬ではじけ飛び、そしてゆっくりと場が落ち着きを取り戻す。

冷静さを欠いた振る舞いであると気づいたのか面着きの男からは殺気が消えていく。だが櫂は身動き一つせず心暖を見つめていた。

彼の心裡(こころうち)では『止めさえしなければ、この男を始末できたのに』と思っていたのか、目には抗議するような色が浮かんでいた。

その視線を気にするそぶりも見せず心暖は優里に向き、

「男の方は(した)()、女は需袢(じゅはん)。これでいいでしょ?」

心暖がまさか自分たちの名前を明かすと思っていなかったのか左手の二人、面着きの男:簧黄とソバージュ風:需袢は苦い顔をしている。

「それと、お屋形様」

心暖がお屋形様に向かって促す。

「そうじゃな、これはワシの口から伝えた方が良いか」

少しあごを突き出すような、見下ろすような角度でお屋形様は優里を見る。

態度はかなり高圧的だが、その目に場を乱された怒りのようなものは無かった。

「優里、貴様はこの件に関わることで自分たちが裃に組み込まれることを警戒しているな」

「実際、そのつもりでしょ?」

「否定はせんよ。信元を裃に取り込むことは今やワシらにとって悲願とも言えるからのう」

優里の不躾とも言える態度にも淡々とお屋形様は返す。

「じゃがな」

ここで空気が変わる。

先ほどまではただの距離だったものが一瞬にして間合いに変わった。

「ワシを甘く見るなよ、小娘!」

間合いの中でお屋形様の一撃が優里を貫く。もちろんイメージの話だが優里の体はその攻撃に反応し心拍数が一気に上がった。

「積年の思いを果たすために、このワシがガキを罠に嵌める?仮にも36機関のひとつ、裃の統主であるこのワシが、そんな三流のチンピラまがいのことをすると⁉」

裃本家統主の額には血管が浮き出ており、ひと言発するたびに生き物のように脈打つ。その強すぎる脈動につられて優里の心拍数もさらに跳ね上がる。

「お屋形様!」

先ほどとは違い、今度は鈴の音のように軽やかな心暖の声が響く。

「話の趣旨が違っております」

「お、おう」

先ほど優里と簧黄のいざこざに介入した時もそうだったが、心暖の言葉には不思議な貫通力のようなものがあり、興奮して我を忘れかけていた統主の心にも届いた。額から血管が消え顔色も肌色に戻っていく。

「それと殺気を飛ばしすぎです」

心暖の口調が少し変わって

「あのように昏倒する者が出ます」

注意をされた。

「あ・・・」

心暖が示す方に目を向けると倒れた女を介抱する簧黄がいた。


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