裃本家1◆
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G県の南東に位置する薄城山市。
この地域は戦後の殖産興業政策が実施された頃には絹織物関連事業が盛んで経済的にも栄えていたが化学繊維の台頭により製糸業全体が衰退し、かつてのような賑わいはない。替わって現在では大手自動車会社の下請けが中心となっているが、これも近年の世界的なEV化の流れで新たな局面を迎えようとしている。
裃本家は古くよりこの地にあり産業、文化の中心を担ってきた名門である。
表向きは自動車、病院、学校などの幅広いビジネスを展開しているが、もうひとつ裏の顔を持っている。
それが『機関』と呼ばれる裏の顔である。
そして今まさに裃本家の旧宅である日本家屋内の一室に機関に関連する者が集められていた。
部屋の広さは10畳程の和室で6人の男女がいる。
上座に老齢の男とメイド服姿の女。
向かって左右にそれぞれ男女一人ずつ。
上座から見て右手の二人は服装や顔立ちから見て高校生のように見える。
左手の二人のうち男は40後半から50歳前半。顔には「封」と書かれた面を着けていて素顔が分からない。女の方はソバージュ風で20代か、もしかしたら30代といったところか。
高校生の男女に向かって上座の男が口を開く。
「珍しいな、お前たちが参加するとは」
高校生の男女は何も語らず上座からの視線を受け止める。
「ふん、おおかた信元に言われて来たのじゃろう?良い心がけじゃ。人にものを頼むときは、まず相手の要望を聞いてから頼むのが筋というもの」
上座の男は高校生の話を聞くこともなく独りで納得すると
「全員そろったな、では・・」
「お屋形様」
左手の面着きの男が右手を挙げて上座の男に語り掛ける。質問があるようだがタイミングが悪い。
「話の腰を折るな!うつけが‼」
一喝されて話しかけた男は慌てて右手を引っ込めるが
「まあ、いいわい。貴様が言いたいことは何故ここに部外者である櫂たちがいるのかと訊きたいのじゃろう?」
面着きの男は右手にいる高校生風の二人がこの場にいることに対して不満があるらしい。自分の意図を理解されたと知り満足そうに頷く。
「心暖、説明してやれ」
お屋形様と呼ばれた上座の男が右手にいるメイド、心暖に説明するよう促す。
「かしこまりました。それでは私の方からご説明いたします」
金髪、碧眼のメイドは見た目からは想像できないほどの流ちょうな日本語で話し始める。
「あなた方は裃が研究、開発しているネビュラドライブという名前を聞いたことがありますか?」
「あるわ」
右手にいた高校生風二人のうち女の子が反応した。
「さすがね、優里」
メイドが優里と呼んだ娘は長い黒髪にヘアバンドを付けている。一見日本人のようだが顔の彫りは深く、瞳の色も日本人にしては薄い。
優里はもう一人の高校生男子の前に歩み出ながら尋ねる。
「ちょっと待って。それ極秘事項よね?」
「そうだけど。それが何か?」
「この話はここまで!帰るわよ、櫂」
櫂と呼ばれた男子は慌てて優里の肩を抑える。
「おい、優里」
お屋形様の言葉から察するに高校生たちには依頼を受けなければならない何かしらの事情があると見える。
それが開始早々退場とは本末転倒どころの話ではない。櫂は優里をなんとか押しとどめ彼女に冷静さを取り戻させようとしている。
そこに間髪入れず左手の男女から声が上がる。
「おう、さっさと帰れ」
と面着きの男
「最初から部外者なんていらないのよ」
とソバージュ風の女
この二人はよほど部外者である櫂と優里がいることに納得がいかないのだろう。
あからさまな敵意をぶつけられて既に沸点が上がっていた優里も黙っていない。
「アンタ達、名前は?」
顔に似合わぬドスの効いた声で尋ねる。
「ああ、なんだぁ⁉」
若い娘を小ばかにするくらいの気持ちで発した言葉に本気の殺意を返されたことで面着きの男は動揺し、体制を立て直そうとケンカ腰になった。それだけでは足りず威圧しながら一歩前へ出る。元より狭い室内であり、最初から間合いの内である中でさらに歩を進めることは牽制ではなく明確な殺意を示したことになる。
対して高校生の男子:櫂は音もなく滑るように優里の前に移動する。圧縮された殺意の気の塊が二人の間でゆらゆらと揺れた。
「やめろ!」
閃光が走るような心暖の一喝。




