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ヤープの女王3◆

タイトルに◆がある時は挿絵アリ

彼女、高岡柚月と出会ったのは彼女がまだ2歳の時だった。


当時の彼女は私が近くにいても何の反応も示さなかった。


最初は、多くの人間と同じように私のことが見えないだろうと思っていたが、そのうちときどき視線をこちらに向けてジッと見つめていることに気が付いた。

単なる偶然かとも思ったがある時、私を指さして


「お母さん、あそこにモヤモヤがいる」

と母親に告げたのだ。


幼い子供が、しばらくの間は私のことが見えることはこれまでにもあったし、成長するにつれて見えなくなるのも知っていた。


だから彼女が幼稚園に入ってもまだ私のことが見えていることを知った時は驚いた。

それまで私は彼女の私生活に踏み込むことはせず、たまにどこかで会っても『いるな』と認識する程度だったが、幼稚園に入る年齢になってもまだ私のことが見えるという彼女に俄然、興味がわき家まで付いていった。



私はヤープが3次元の体に入り込むときに切り捨てた切れ端の寄せ集めだ。


だから実際には『私』という単独ではなく『私たち』というべき存在だ。


ただ、今は融合が進み、別々だったものたちは『私』という一つに統合されている。

ちなみに私以外にも寄せ集めはいるが、完全に一つの『個』になったケースは今まで出会ったことはない。


根本的に精神エネルギー状態のヤープに欲望らしい欲望はない。かろうじてあるとすれば3次元人の肉体が欲しいくらいのことで、それすらも肉体を手に入れた本体が持っていたものだから、切れ端には何の欲望も残っていない。

だから寄せ集まっても自分が前に出たいとは誰も思わず、いつしか誰かの意思に溶け込んで一つに統合されていく。


一方で能力面において寄せ集めはなかなかに侮れない。


ヤープは3次元人の体に入り込むとき眼と他にいくつかの能力を持っていくが、大半の能力は切り捨てていく。


例えば、伸びたり縮んだりする変形能力は形を持たない精神エネルギー体ならではのもので、固定された3次元人の体で使えるはずがないから必要ないと捨てていかれる。


だが、実は変形の能力はマクロだけでなくミクロの世界で分子や原子をいじることも出来る汎用性の高い能力なのだ。


欲望と言うほどのものではないが、こういうことを考えるのは楽しいし、もし私が何かの偶然で肉体を持つことが出来たら試してみたいとも思っていた。



彼女に私のことを告げられた両親の反応は・・予想した通りのものだった。


だが、私を驚かせたのは彼女の父親に私のことが見えていたことだ。


彼女の父親はヤープだった。ヤープの眼であれば私を見ることも出来る。


私の記憶の中に彼の記憶を持つ切れ端はいない。

彼と私は完全な別個体であるが、今のところ敵意のようなものは感じられなかった。


だが、このまま彼女と接触を続けることは危ういのではないか。

3次元人になり、うまく生活しているだけでなく子供までいる彼の前に突然現れた切れ端の寄せ集め。


もちろん彼自身がヤープである以上、私がどういうものであるかも知っている。

しかし、娘に接触を図ろうとしており、その理由は私が娘の体を奪おうとしているのではないかと考える可能性はある。


そうなるとよろしくない。


あらゆる能力を持つ私だが、ヤープ最大の武器であり、能力である眼を持っていない。


彼が眼を使い、視界を奪った直後に何かしらの方法で私を数千、数万に切り刻むことは容易だろう。

その状態になった私が、今の状態にまで戻るにはいったいどれだけの時間がかかることだろうか。


ならば彼女の傍に近寄らなければいいだけのこと。

だが、もはやそれも出来ない。


なぜなら今の私には明らかに彼女の傍にいたいという欲望が生まれてしまった。


失って久しいこの感情に抗うことは出来そうにない。


(彼女の傍にいながら、彼に認識されない方法を見つける)

これが、長らく欲望というモノを持っていなかった私の目標となっていった。

挿絵(By みてみん)


「ねえ、柚月。聞いてる?」

友達に話しかけられても、まだボンヤリしている。


「ちょっと、平気?」

そう言って初芝清子が私の肩に手を掛けて揺らす。


そこでようやく目が覚めた。

「あ、うん、大丈夫」

「えー、なんか朝からおかしいよ、今日の柚月」

「・・・そうかな」


おかしい理由は昨日のモヤモヤのせいだ。


洗面所から部屋に戻ったあと考えをまとめようとしてベッドに寝ころんだら、結局寝てしまった。

習い事が無い日だったので夕飯の時間まで眠ってしまい、その頃には半分くらい鏡のアタシについては忘れかけていた。


思い出したのはお風呂から出て洗面台に立って髪を乾かしていたら

『さっきは危なかったね』

と鏡の中のアタシが声にならない声で話しかけてきたときだ。


例によって自分の口も鏡の中と同じように動いている。


「ねえ、アンタってここでしか話せないの?」

母親に見つかるリスクが高い洗面所ではなく、部屋でコンタクトが取れればと軽い気持ちで訊いてみた。


『鏡があればどこでも会えるよ』

何をいまさらくらいの感じでさらっと返してきた。その態度にイラっとして


「そういうのは最初に言うもんでしょうが」

鏡に顔を近づけて押し殺すような声で文句を言った。


それから部屋に戻って早速、手鏡を使って呼び出すと確かに出てきて洗面所と同じように話すことが出来た。


そうなればもう止まらない。そのまま延々と話をしていたら、気づけば夜中の1時になっていた。

こんな時間まで起きていれば絶対に携帯を見ていると叱られるので、今日はここまでと一旦寝ることにしたのだが、結局気になって布団の中に鏡を持ち込んで、ほぼ朝まで話し続けてしまった。


子供は元気だが、体が大きくなる時期には成人以上に睡眠が必要なので、徹夜なんかした日の翌日は起きていられない。


ふと窓ガラスを見るとアタシがいて小さく口を動かしている。


『替わってあげようか?』


腹話術の人形のようにほぼ閉じたままの口から、今の自分にとってこれ以上ない魅力的な提案がされてきた。


「よろしく」

それだけ言うとアタシの意識は夢の中へ落ちていった。


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