鍛錬2◆
タイトルに◆がある時は挿絵アリ
「それじゃ、今から惣一郎がお前に攻撃を仕掛ける」
メッセージを打ち終えた信元が櫂に話しかける。
「能力の使用に制限は設けないが、3回目以降は惣一郎もお前の弱点を狙ってくる。それを踏まえて・・」
「分かっている」
信元の言葉を遮るように櫂は短く答える。
惣一郎は自分の能力の弱点を知っている。
だが、この模擬戦は明日の狙撃手を想定してのもの。つまり初対戦なので、どれほどの手練れでも2回目までに弱点に気付くことはないだろうという設定だ。
「2回以内でケリを着ける」
口ではそう言ったが、まだ確たる勝算があるわけではなかった。
櫂は信元から2,3歩離れると左腕を曲げ、胸のあたりに拳を置いてから斜め下に向かって軽く振り下ろす。すると肘の辺りに仕込んであった金属製の細い30センチほどの棒が袖口から滑り出てくる。
滑り出てきた棒をそのまま左手で掴むと『カチッ』と音がして、棒の先端が振動すると細いワイヤーが全方位に展開する。
さらにワイヤーの間を埋めるように膜が広がり、壊れた傘のようだったモノはあっという間に円形の盾になった。
この動きを見ていた信元は少し感心した。
(入れ込みすぎかと思ったが・・以外に冷静だな)
櫂は盾を左腕に固定し竹林に向ける。
(まずは竹林側に盾を構え、これで狙撃手にストレスを与える・・か)
信元は状況を読みながらニヤリと笑う。
(そう、上手くいくかの?)
次の瞬間、空気を切り裂く音とともに櫂の左腕の盾に衝撃が走る。
盾の表面は一見すると布のように見えるが、衝撃音からはかなり固い、金属に近い材質であることがうかがえた。
続いて足元に着弾。
慌てたことで櫂は体制を崩し、盾の位置が左半身からズレて頭が竹林から丸見えとなる。
次の瞬間、この動きを予見していたかのようにヘッドショットが決まる。
ゲームオーバー
「あっけないのう」
倒れた櫂を足元に信元が心底がっかりしたように言う。
「何か考えがあったのかと思ったが、無策とは」
櫂は倒れたままピクリとも動かない。
明らかに危険な状態だと思われる。
だが、信元は地面に伏した相手に手を差し伸べるでもなく、突っ立ったまま、ただ愚痴をこぼす。・・・異様な光景だった。
それでも、やはり孫の様子が気になるのか、膝を折り顔をのぞき込もうとした瞬間だった。
何者かが音もなく信元の背後から現れた。
櫂に似ているが、櫂であるはずのないその人物は、倒れている櫂の傍に近づくと声を掛けるでもなく、そのまま自ら倒れこみ溶けるように消えた。
「痛てて・・」
撃たれた頭の付近をさすりながら何事も無かったように櫂は起き上がった。
目の前で起きた不可思議な出来事にはいっさい触れず、信元は淡々と先ほどの戦闘について語る。
「あれだけ何かありそうなことを言っておいてこのザマか」
辛辣な物言いにさすがにムッとしたのか
「今のはタイミングを測っていたんだ。次だ」
先ほど偉そうに言って失敗したばかりだというのに、櫂はまたしても大口を叩いてきた。
「恥の上塗りにならんといいがの」
信元は櫂から数歩下がってから、ゆっくりと右手を上げる。
どこかに潜んでいる惣一郎への合図なのだろう。
その動きに合わせて櫂は先ほどと同じく盾を用意した。
ただし、今回は2枚、両腕にセッティングして狙撃に備える。
櫂が構えたと思った次の瞬間、ガインという金属音とともに左腕の盾がひしゃげる。
(ここだ!)
前回はここで足元を狙われ体制を崩されたところで頭を打ちぬかれていた。
今回は第2射が来る前に体を左側に回転させながら体制を低くすると、右腕に着けていた盾を左腕の盾と並べるよう前に突き出した。
その直後、第2射が盾を直撃した。
ギィンという鋭い金属音はしたが、盾の曲面が弾丸を滑らせたので第1射ほどの衝撃はない。
櫂は盾の陰に隠れる形で竹林に向かって構えている。両手を防御に使う完全な守備型の体制だ。信元は櫂と惣一郎がこのシチュエーションで戦うのであれば、ある程度こうなると予想はしていた。
ただ、相手は通常の狙撃手ではなく惣一郎である。
(前面だけ防いでも他にいくらでも攻めようはある)
Fibe-Aのエージェント相手でも同じことだろう。
(これではその場しのぎにもならない)
自分が櫂の立場ならどうするか?そう信元が考えを巡らせようとした時『バシュッ』という乾いた音が裏庭に響いた。
それも1回だけでなく2回、3回と立て続けに。
(グレネードランチャーか)
音だけですぐに破壊力まで連想させられる戦場ではお馴染みの武器。
櫂の防御を破る方法は弾丸を曲げて盾の隙間を突くか、盾ごと吹っ飛ばすかのどちらかだったがどうやら惣一郎は後者を選んだらしい。
グレネードランチャーの弾丸が連続して着弾する。
すさまじい爆発音とともに盾が宙に吹き飛ぶ。
通常であれば櫂が爆発に巻き込まれていないかを気にして爆炎の中に姿を探すところだが、信元の目線は
裏庭から竹林の中に櫂の影を追っていた。
櫂が着弾の直前にどこかへ飛んでいることを確信しているからだが。
(着弾の直前?)
信元はそこに思い至り、グレネードランチャーが発射された竹林の一点に目を向ける。
だが既に決着は付いていた。
「チェックメイト」
櫂が左手に持ったナイフを惣一郎の首筋に突き付けながら勝利宣言をする。
「なるほど」
突き付けられた惣一郎はかすかに口元に笑みを浮かべながら敗北を認める。
信元の位置からでは竹林の中までははっきりと見えなかったが決着が付いたことは分かった。
「悪くはない」
と孫の戦術を褒める。
しかし次に口から出たのは
「だが、使えん」
奇しくも惣一郎の口からもほぼ同時に同じ言葉が出ていた。




