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鍛錬1

【訓練】


裃本家で優里と別れた足で櫂は祖父、信元の家へ向かった。


薄城山市の郊外にある信元の居宅は市の名前の由来にもなっている薄城山の麓にある。駅から『薄城山ケーブルカー行き』のバスに乗るとおよそ40分で到着する。


基本的に日課の鍛錬があるのでほぼ毎日、顔を出しているが今日に限っては裃本家で決定したことの報告も兼ねている。もっとも後者に関しては既に知っている可能性もあると櫂は踏んでいた。


信元の普段の生業(なりわい)は薄城山神社の神主で、(やしろ)はケーブルカーで上がった山の中腹にあるが居宅は山の入口付近の旅館が連なる区画にある。

この神社を継ぐのは信元の実子で、櫂の父親でもある木魂惣一郎・・・ではない。


惣一郎にはランダムに地球とポリゴーンを往復してしまう特異体質がある。


時間は不規則で1週間連続で地球にいることもあれば、逆に1ヶ月不在にすることもある。

統計を取ってみるとおよそ半々になるのだが、規則性のようなものは見つかっていない。


短いバイト程度なら問題はないが、ある程度の勤務時間があり拘束される仕事に就くことは出来ない。


よって周囲には『親の仕事を引き継がない放蕩息子』と認識されており、家にいても出来るだけ姿を見られないようにしている。


代わって神社の運営を実質任されている養子の秋水(しゅうすい)が夫婦で出迎えてくれる。


「こんにちは、秋水さん。爺さんはいる?」

「こんにちは、櫂くん。義父さんなら奥にいるよ」

秋水氏は穏やかな人柄で神社の仕事だけでなく、今では町内会の付き合いなども含めたほぼすべての仕事を信元に代わって執り行っている。


秋水氏自身が地球とポリゴーンの混血であり、信元や櫂、惣一郎の事情にも通じていることから、そういった面でも理解が早く、櫂たちは大いに助けられている。


特に正式な跡取りでありながらほとんどの行事に顔を出さない惣一郎が周囲からあまり悪く言われることが無いのは彼の細やかな配慮あってのものだろう。


「爺さん、来たよ」

秋水氏に案内されて応接に通されると信元がこちらに背を向けてテレビを見ていた。孫とはいえほぼ毎日来るのだから愛想も何もない。


「おお、来たか」

80歳近い年齢のため顔には年相応のしわがあるが、その声には張りがあり、動きも滑らかで全体的な印象は年齢より若い。


「裃はどうだった。上手くいったか?」

いきなり核心について尋ねてきたところをみると、やはり話はついていたらしい。

となると事前に一切の説明が無かったことについて今さら文句を言っても仕方ない。


気持ちを切り替えて、訊かれたことに答える前に、実際に成果があったかをあらためて考えてみた。


「どうかな・・向こうの思惑に乗せられた感じもするから50%くらいってところかな」

「優里はどうした?」

「心暖に捕まって、どこかに連れていかれた。明日の準備があるからとか言っていた気がする」

「向こうも準備万端ということか。結構なことだ」

そう言って口元に手を当ててニヤリとする。


「お前はどう感じた?今のままで対応できると思うか」

この質問は櫂にとって想定していたし、望んだものだった。


「難しいと思う」

少しの迷いもなく櫂が言い切ったことに信元は少し意外な顔をする。

「何が足りない?」

「石を使わせてしまった。明日、優里が戦闘に参加する状況になるのはマズい」

石の話が出たところで信元の眉が少し動いた。


「それは、良くない展開じゃな」

櫂の不手際であるとは言わないが、重たい声からは不機嫌な心の内が見えた。


「それで、お前はどうしたい?」

「親父と組み手をやらせてほしい。今、いるよね」

「具体的に何がしたい?」

「親父に遠距離から打ち抜いてもらいたい。もちろんオレの知らない場所から」

「その戦法を明日、向こうが取ってくると考える根拠は?」

信元は櫂の目を見て訊ねる。櫂の言動が単なる反省のポーズか、それとも内容のあるものかを見極めようとしている。


「言い訳になるけど今日は油断していた。だから明日は最初から本気でやる。本気のオレが近距離戦闘で負けることはない。隙があるとしたら遠距離からの攻撃だ。だから親父に遠距離から撃ってもらう」

信元は櫂の言葉を黙って聞いてから

「悪くない・・が、根拠にはならんな」

ゆっくりと答える。


「だが、現状で相手の出方をあれこれ考えても仕方ない。まずはやってみるか」

そういって裏庭に向かって歩き出す。櫂もそれについていく。


裏庭と言っても野球場の内野ほどの広さがあり、かなり広い。すぐ後ろには山が迫っていてびっしりと生えそろった竹林が覆っている。


ここは信元や惣一郎、櫂が定期的に模擬戦を行う場所のため防音、認識阻害、物理攻撃に対しての防御等の結界が張られている。多少、派手に暴れても周囲に気付かれることはない。


「今から惣一郎に連絡してお前を攻撃させる。その辺で立って構えていろ」

「え、親父は竹林にいるんでしょ?それじゃ攻撃が一方向になるから簡単に避けられるよ」

すると信元は『何を言っているんだ』という顔をして


「惣一郎の能力は知っておるだろう?竹林の中にいても攻撃は全方向から撃てる」

言われて櫂も気付く。

「確かに」

「今のも油断だ。ワシが言わなかったらお前は竹林ばかり意識していただろうから逆から撃たれれば終わりだったな」

たった今油断しないと言ったばかりでこの指摘をされ、恥かしさで櫂は頭に血が上る。


「自分には隙がないとか、最強だという考え方はダメだと日頃から教えているだろうが」

櫂がはっとする。


「分かっているよ、琉瑠動(るどう)だよね」

「そうだ。流れるように、留まるように。目の前のものにとらわれず臨機応変に形を変えながら、それでいてここ一番では踏みとどまる。これを意識せず繰り返すこと」

厳しい口調で言ってから、ふっと鼻で笑う。


「そうは言ってワシも常時、この心情でいられることはないがな」

琉瑠動は木魂の家に昔から伝わる心のありようについての教えで、決して戦闘に特化したものではない。要は常に自然体で臨機応変に対応しろということである。



裏庭の中央付近に立って櫂は信元からの合図を待つ。


その信元はとえいば櫂から離れた場所で携帯を操作している。惣一郎にメッセージを送っているのだろう。

(さて、どんな感じになるかな)


遠距離からの攻撃に対して櫂は自分が考える戦法が通用するか試してみたかった。


実のところ遠距離攻撃は裃も警戒はしている。

だが、受け渡し場所である晶河高校に厳戒態勢を敷くことはできない。

受け渡し自体が中止になる可能性があるからだ。


そうなると自分を含めた3人で何とかするしかないが心暖は盾役で動けない。

優里も魔力が半減している以上、出来るだけ戦闘はさせたくない。

狙撃手を攻撃できるのは自分しかいない。


信元は惣一郎へのメッセージの中で明日、奪還作戦が行われることについても触れておく。


具体的な作戦内容については統主よりファイルが送られてきていたのでそのまま添付して転送した。


他に今回の両陣営の動きについて自分なりの考えを書き込んで意見を求める。


惣一郎に送った信元の疑問は以下のとおり。

①堅城はなぜFibe-Aに寝返り、ドライブを裃から盗むことになったのか?

②日本に帰ってきて娘が既にヤープの力に覚醒していることを知ってなおFibe-Aに従う理由は何か?

③この受け渡し自体、もはや不要ではないか?


惣一郎から返信が来た。

①の答え:Fibe-Aがヤープとのハーフである娘に手を出すことを恐れたため

②の答え:彼が従わなかった場合、Fibe-Aが娘に接触を試みる可能性がある

③の答え:受け渡しの場を設けるのは裃に奪還のチャンスを与えるため


メッセージを確認して信元は小さくうなずく。


ほぼ自分の考えていることと同じだった。

(問題は③について高岡親子がどこまで協力的か・・だな)


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