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Fibe-A1◆

タイトルに◆がある時は挿絵アリ

【裃本家でのヤープ捕獲から1時間後】


薄城山市の中心にある本町通り。かつては小規模な店舗が並び人通りも多く賑わっていたが今ではいわゆるシャッター街となり閑散としている。


だが、表通りから一本裏手に入ると飲み屋や風俗店が多く軒を並べ、夜はそれなりに繁盛していた。ただ、そういった店で働いている人間はほぼ全員がここに住んではおらず、どこか別の町から来ている。新しく移住してくる人間はいない一方で、今までいた住民は年齢やその他の事情で減っていくこの町の昼間は夜のように(くら)く、逆に夜は輝いていた。


そんな薄暗い路地を男が歩いていく。背が高く、彫りの深い顔立ちは間違いなく外国人で、それだけなら(かえ)ってこういった場所にお似合いにも思える。しかし男の服装は遠めに見ても仕立ての良いスーツで、加えてカウボーイハットを被っているとなれば場違い感がすさまじい。もし巡回している警察官がいれば100%職務質問を受けていただろう。


スマホを片手に歩いているところを見ると不慣れな場所らしく時折、周囲を確認するように見渡している。そのたびに


「もっと分かりやすいところにしろよ」

「くそ」

「なんなんだよ」

と毒づいている。どうも機嫌がよくないようだ。


そのあともしばらく徘徊してようやく路地裏の比較的新しい雑居ビルの前まで来て男は足を止める。


見上げて窓に書かれている文字を読もうとしているようだ。今にも雨が降り出しそうな空が嫌でも目に入ってくる。グレーのビルと合わせてコントラストの効いていない風景は塗り固めた油絵のようで見ているだけで気持ちが沈んできそうだ。


窓には『砂羽法律事務所』と書かれていた。


「英語で書いとけよ。読めるわけねぇだろ」

またしても毒づくとビル正面のガラスドアを押して中に入っていった。


挿絵(By みてみん)


「なんだ?急に呼び出して」


事務所に入るなり男は懐中からタバコを取り出しマッチで火を点けた。最近はどこも禁煙が多いがこの事務所はOKらしい。


男の声に気付いて奥から女が出てきた。右手にはタバコを持っている。


何も言わずタバコを口元に持っていくとひと息吸って、煙を吐き出す。そしておもむろに


「明日の回収、アンタじゃなくてうちのガキどもにやらせる」

それだけ言うとふたたびタバコを口元に持っていき、深く吸い込む。


「は?」

男は何を言われているのか分からない。

「そういうわけだから、アンタもう本国に帰っていいわよ」


女にはまったく説明する気がないのは男にも分かった。


ここにたどり着くまで散々苦労させておいて、この対応。男の忍耐は限界に来ていた。


(だったら俺も自分の流儀でやらせてもらう)


男は腰の後ろに手をまわしホルスターから拳銃を引き抜くと女の額に押し当てた。淀みのない、流れるような動きは瞬きも出来ないほどの速さだった。


「この業界、舐められたら終わりだ。だから俺はお前を撃つ。詫びも弁解も聞かねぇ」


銃口を額に押し付けられても女はまったく動揺を見せなかった。抵抗する気が無いのか観念したかのように瞼を閉じ、ふっと息を吐いた。


次の瞬間、女は男の後ろにいた。


「そう言わずに聞きなさいって」


自分がまったく説明をしようとしていなかったことを棚に上げ、女が耳元でささやく。


「固定か・・厄介な能力だぜ」

冷静になったのか男は銃をホルスターに戻す。


「で?何を聞けって」

「ヤープが捕まった」

「嘘だろ?」

衝撃的な一言に男はそれ以上、言葉が継げなかった。


「残念ながら事実なのよ」

「なるほどな。それで本国から撤退の命令が来たってわけか」

さっきまでの女の態度の理由が分かった。


「撤退じゃないわ。機関の人間が直接この案件にタッチすることが不可になったのよ。だからうちのガキどもにやらせるわ」

「おいおい、わざわざ俺を呼ぶような仕事がガキどもに出来るってのか?」

やはり舐められている?だが女からはそんな雰囲気は感じられない。


「そのガキどもには協力者がいるのよ」

「協力者?」

「誰かは知らないけど相当な実力者らしいわ。そいつが手を貸すならガキどもでも上手くやれるからあたし達はいらないって。これAから直接のお達し」

「そいつはどうも。わざわざここまで来て何もしないで帰って来いってか」

「面白くないのは分かるけど、決定事項だから」

「砂羽弁護士に訊きたいんだが、こういうのは契約不履行で異議申し立てが出来ねぇのか?」

「駄々こねないで」

「とんだ無駄足だぜ」

男は悪態をつくと踵を返し、たった今入ってきたドアに向かおうとする。


「あー、そうそう」

男がポールハンガーに掛けた帽子に手を伸ばしたところで砂羽が思いついたように話しかけてくる。


「明日、あたしがあなたを空港まで送るわ。飛行機の手配もするから今日はこの店で飲んでゆっくりしていって」

そう言って一枚の名刺を渡す。


「俺は日本語が読めねぇんだよ」

「裏に英語で書いてあるわ」

そう言われてひっくり返すと確かに英語で書かれていた。


「料金もあたしにツケておいてもらっていいわ。店の子には『Charge it to Sawa』で通じるから」

「それは至れり尽くせりなことで」

「それと・・」

「まだ何かあるのか?」

「回収の日程について変更はないわ」

男が名刺から視線を上げて砂羽を見る。


「明日の空港までのルートだけどちょうど回収場所が見えるパーキングで休憩を取るつもりなのよね」

「何のために?」

砂羽はニヤリと笑うと


「ガキどもに任せておけると思う?監視は必要でしょ」

その言葉に男も口元を緩ませ


「それは、当然だな。責任ある対応ってやつだ」

「そういうこと。そこで緊急事態が起きた場合、臨機応変に対応することは悪いことだと思う?」

思わず男は笑いを声に出してしまう。


「いいや、一流っていうのはそれが出来て当たり前だろう」

だが、すぐに真顔になって


「だが、お前は大丈夫なのかよ?それで上が黙っているか?」

「天下のウエスト様にはるばるお越しいただいたうえに一発も撃たせないで帰す方が失礼じゃないかしら?それに報告書には『不満が溜まっていたので、このまま帰すと機内で発砲しかねないので緊急避難でした』って書いておくから」


「俺はシリアルキラーじゃねぇぞ」

そう言うと今度こそ帽子を手に取り

「それじゃ明日、よろしく」

「こちらこそ。そうだ、言い忘れていたけど回収場所までの距離は4kmだから、その準備をしておいてね」

「了解」


ドアノブに手を掛けて部屋を出ていこうとした瞬間、ウエストは自分が上機嫌になっていることに気付いた。


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