高岡柚月2
「ただいまー」
「おかえり」
ドアを開け、出来るだけ元気な感じでただいまの挨拶をする。すると母親も明るい声で迎えてくれる。
実際にはあまり元気でなくても出来る限り明るく振る舞う。これが我が家のルールだ。
「遅かったわね」
幾分トーンを落とした声で母が話しかけてくる。時計を見れば18時30分を回っている。それほど遅くもないだろうがいつもと比べれば確かに少し遅い。
「うん、ちょっと」
「何かあったの?」
「後でね」
「そう。ご飯できているから、早く着替えてきなさい」
「はぁい」
必要以上に明るい声で返事をして部屋に行く。
明かりをつけ上着を脱ぎながら机の上の写真立てに向かって
「ただいま、お父さん」と声をかける。
家族3人で写った写真の中の父は笑っていた。
「今日、担任の先生と文理選択のことでちょっと話し込んでね。それで遅くなったの」
「何それ?」
「この前、学校からの案内、渡したよね?」
生徒だけでなく保護者面談もあるので学校から文書が配布されていたのをすっかり忘れていたようだ。
「あったわね、そんな話。あたし、自分が理系なんて考えたことが無かったから完全に抜けていたわ」
「だと思ったよ。でもね、これかなり重要なんだ。就職にも影響してくるんだよ」
重要云々は教師の受け売りだが、さも自分が知っていたかのように話す。
母はジッと私の顔を見た後、ため息交じりに言う。
「高校に入学して1年も経たないうちに就職のことを考えるのって、なんか世知辛いわねぇ」
その言い方が妙におかしてく、思わず吹き出してしまった。
「お母さん、年寄り臭いよ」
「だってねぇ、女子高生ってもっとこうキャピキャピしたものじゃないの?」
「キャピキャピって何?今どき誰も言わないよ、そんなの」
ふと、帰りの電車にいた男子高校生のことを思い出した。
あの時、彼らの目に自分はどう映っていたのだろう?
彼らと話したいとも思わなかったから当然、声を掛けたりはしない。
ただ彼らにしてみても無表情で窓の外を見ている人間には話しかけづらいだろう。
キャピキャピとまではいかなくても
「可愛い方がいいのかな?」
「なに?可愛くなりたいの、もしかして・・」
声に出ていた。すかさず食いついてくる母に
「違うよ。もう!すぐそうやって恋愛に結び付けるんだから」
何というか大人は年頃の女の子が着飾る=異性を意識してのことと考えすぎだと思う。
「お母さんが言ったんじゃない。女子高生は可愛い方がいいって」
「だって柚月、買い物に行ってアタシが可愛い服選んでもヤダって言って着てくれないじゃない」
それは確かに。
「でもいい事だと思う。やっぱり可愛いのって若い頃が一番似合うと思うのよ」
「アタシが可愛いの着て似合うと思う?」
「もちろん!今度の休み服観に行こうか?」
どうしたものか。母と一緒に行けば洋服代は浮く。ただ母の好みのモノを選ぶことになる。
「フリフリとかは嫌よ」
釘を刺しておこう。
「分かってるって」
即答すぎて不安になる。




