施術手順2
心暖の説明でスキルの使用はほぼ不可能であることが決まった。
優里は納得すると同時にすべてのツールを動かす電力を供給する被験者の魔力量に感心した。どんな人物なのか気になりカプセルに顔を寄せてみる。カプセルの蓋と思われる部分は液晶パネルになっていて中にいる被験者の状況を示す数値が表示されている。被験者の顔情報でもないかと探してみたが見つからなかった。だが・・
「ん?」
カプセルの表面に何か文字が書いてある。透かしのような書き方なのでこの角度だとはっきりと見えない。少し移動して角度を変えて見てみるとすぐに分かった。
「メーカー名・・・Fibe-Aってなっているけど・・・いいの?」
カプセルから顔を上げ、心暖に問いかける。ついさっきまで情報を盗みに来ていた連中をけしかけた黒幕の名前。そいつらが作った製品を使う?
だが、心暖はあっさりと
「しようがないのよ。裃より高性能なんだから」
そういってコントロールパネルを触り画面を変える。よく見ると液晶パネルに記載されている文字は全て英語だった。
画面は循環システムのようなグラフィックに切り替わり右上に97%という数字が表示されている。
「裃製だと70%くらいが上限だけど、これはリサイクル変換システムを使っているからほぼ100%魔力を電力に変換できるの」
地球上の素粒子が粒子と波の性質を持つのに対し魔力は粒子と色を持っている。魔力の持つ色から推定される波長をどれだけ波として再現できるかが変換率で現在この分野ではFibe-Aが各機関の中でもダントツの技術を持っていた。
「よく上が許可したわね」と優里
「そりゃ信頼と実績がありますから」
心暖が得意げに言う。それが心暖本人のことを指しているのか、それともFibe-Aの製品のことを指しているのかは優里には分からなかった。
心暖が頭上の、モニターを触り画面を切り替える。タッチパネルになっていたようだ。
「さ、次いくわよ。まだやることはたくさんあるからね」
「やるけどさぁ、やっぱりもう少し説明が欲しいよね」
不満をあらわにして優里は心暖に言う。
「次の課題はこれ。被験者の上腕部8cmを2000の魔法陣に分割する」
「またスルーだよ・・・・・ええ?」
驚きすぎて声が裏返った優里だがここは引けない。
「待って待って待って、えーーーーーなんで?」
モニター画面にはグラフィックが表示されており、そこに具体的な数値も出ていた。
四角形の横上辺に8㎝、下辺に2000と記され、右手に計算式が0.004cm.=40㎛と表示されている。
「魔法陣1枚40マイクロメートル?ねえ、これはさすがに説明してよ!何のためにするの?」
「落ち着きなさい」
慌てる優里に対してどこまでも冷静に対処する心暖。
傍目には心暖が優里の様子を楽しんでいるようにも見える。
心暖が説明を始める。
「飢餓状態にあるドライブは接続された途端に猛烈な勢いで被験者の魔力を食い始める。そのまま放っておくと一気に脳まで駆け上り被験者の意識を支配下に置いてしまう。分かるわよね」
「それは分かる。だからドライブとの接合に時間をかけていたのよね?」
「そういうこと。でも今回は短時間でやるしかない。」
「えぇと、ちょっと待って」
優里は左手で心暖を制し、頭を傾げて眉間に手を当てる。
「上腕部を魔法陣にする、つまりドライブにとってより吸収しやすい形にする。そっちに誘導することで肉体への強引な侵入を防ぐ・・・そういうこと?」
「そう、加えて吸収する魔法陣に被験者の情報を書き込むことで吸収しながらドライブに被験者の情報をフィードバックさせる」
「うーん、悪くはないような気がするけど・・・でもこの方法が有効なら最初から使っていたわよね。何かリスクかデメリットがあるんでしょ?」
有効な方法で、かつ短時間で出来るのに使わなかった・・・つまり有効ではないのでは?
優里の質問の意図は明確だった。心暖も分かっている
「今さら隠しても仕方ないわよね。その通りよ。懸念する点は2つ。ひとつは単純に2000の魔法陣で足りるのかということ。計算では十分ということになっているけど机上の話だから」
「足りないって言われても技術的な問題もあるからこれ以上の魔法陣を用意するのは難しいわね」
「そう。でもこの方法を使わなかった理由は2つ目の方が大きい」
「それは?」
質問しながら優里は頭の中で想定される原因をシミュレーションする。
「色々考えているようだけど、多分どれも違っているわ。そもそもこの理由はドライブの融合についての知識がないと思いつかない話なの」
心暖が見透かしたように優里に話しかける。
「元々ドライブと使用者の融合は意識が肉体を離れ、ドライブの意識、といっていいのか分からないけど、この二つがらせん状に絡み合うと考えられている。現状は理論だけで証明は出来ていないけど過去の事例と照らし合わせて、ほぼ間違いないとされているわ」
「おかしいわよね、それ」
心暖の説明には明らかな矛盾があった。
「その理屈が正しいとすると今のドライブは堅城の腕と繋がっているから、堅城の意識が流れ込んでいることになるんじゃない?」
優里の指摘に心暖は小さく首を振って
「情報が無いからそう考えるのは仕方ないわね」
心暖は優里に向き直ると
「被験者は腕を切断されてから現在に至るまで意識不明。これがどういう意味か分かる?」
「それって・・・ドライブとの融合は終わっているってこと?」
「それは分からない」
「いや、分かるよね?肉体から離れた被験者の意識が今もドライブと一緒にいるってことは・・・もう既にドライブに侵食されている・・・?」
次の言葉を優里はあやうく飲み込んだ。
だが一度浮かんだ疑念はそう簡単に消えない。
(それって手遅れなんじゃない?)
こんな大掛かりな施術の準備をしても意味が無いのでは・・・
優里の心情を読み取ったのか、心暖は少し悲しい顔をして
「そうかもしれない。でもそうじゃないかもしれない。諦めきれないの、どうしても」
その訴えかけるような心暖の表情と言葉に優里は驚いた。
心暖がこんな表情をするのを優里は知らない、見たことがない。
「アンタ達には迷惑かけるかもしれない。でも手を貸してほしいの」
そう言ってから心暖がコントロールパネルを操作するとピッピッピッと音が鳴りだした。
被験者を安全に外に出すためのシークエンスが始まったのだろうか、カプセルの蓋部分にある液晶パネルにはロードマップのような表示が現れ、心暖から見て左から右へ矢印が四角で表示された項目を順に進んでいく。矢印は点滅しながら順調に進んでいきコントロールパネルのある場所まで到達すると液晶パネルに「ALL CLEAR」の文字が浮かび上がった。
するとカプセルから「ブシュー」という空気の抜けるような音がし、続いてパネルが「ガチャ」という音を立ててゆっくりと中央から開き、さらにそれぞれの真ん中が凸型に割れ頭と足の方へ収納されていく。
中から被験者を載せた台がゆっくりとせりあがってくる。
被験者は酸素マスクをしていないので顔はすぐに分かった。
若い、黒髪ロングの少女で、そして優里がよく知っている顔だった。
「・・・朗」
心暖は何も言わずに、その顔を見つめている。
優里はその瞬間、どうして心暖があんな表情をしていたのかすべてに合点がいった。




