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黒幕の黒幕2

「アンタが偽装したって言い切るのはこの娘にヤープの能力があると確信しているってことよね?」

「そういうことになるわね」

「それは従来のヤープと違って3次元人の体を持ちながらヤープの能力を使える、ハイブリッドって言えばいいのかな?突拍子もない話だけど、そういう新種だと考えている・・・違う?」

「見事だ!」

唐突に統主が会話に割って入ってくる。


「分かるか?簧黄のヤツは自分の娘がこんな力を持っていることを知らなかったわけじゃ。知っていれば交換条件として角膜移植手術なんぞ依頼してくるはずがない。ワシらもだがヤツも娘の嘘に振り回されていたんじゃ」

興奮した口調で一気にまくし立てた。


櫂がため息を吐く。

「裃の考えは理解しました。でも格上の相手を護衛って意味あります?」

「もちろん。どんなに強くても中身は子供なんじゃ。経験不足からどんな窮地に陥るかも分からんからの」

「ちなみに対ヤープ用の装備は必要ですか?」

「それも当然、準備しておけ。刺客がヤープの可能性も十分にあるからのう」

「それって護衛対象じゃなくて・・・人質よね?」

優里が心暖に訊ねる。心暖は笑いながら


「人質という点について否定はしないわ。でもよく考えてみて」

そう言いながら背の高さを測るような手つきで右手を顔の高さくらいに置く。

「これがアタシ達だとする、そしてこっちが娘」

そう言って今度は左手を胸より少し低い位置に置く。


「こんな感じで娘がアタシ達より弱い存在なら人質という話しもその通りかもしれない」

すると右手を胸の下まで下げ、逆に左手を頭の上の位置まで持っていく。


「だけど実際の力関係はこんな感じ。娘の方がはるかに高みにいるわけ。ねえ優里、これで人質って成り立つと、思う?」

表情も言い回しもちょっと芝居がかった感じで心暖が訊いてくる。挑発する場面でもないのに優里と話していると心暖は大体こんな感じになる。


「思わない。アタシ達の方がコントロールされているって感じね」

表情は冷静だが声には不満がにじんでいて言い方もぶっきらぼうになっている。


「裃の認識も同じよ。そうなると彼女を敵に回すより味方にする方がいいと思わない?」

味方という想定していなかった言葉に二人が反応する。


「味方?パーティーメンバーとして連れていくってこと?」

優里が食いつく。櫂は無意識に一歩下がってその様子を見守る。


「普通に考えてこれほどの能力を放っておく手はないと思うんだけど」

「そう上手くはいかんぞ」

統主の声が室内に反響するように響く。部屋全体を伝わるその振動に脳と体を揺さぶられ櫂と優里の二人は我に返る。


「お屋形様ぁ」

心暖が残念そうにつぶやく。


「若い連中を嵌めるようなマネはやめておけ」

「ええ、こんなのに引っかかるわけないですよ、ねぇ優里」

優里の顔が引きつっているのが櫂には分かった。反論したいところだが今は何か言葉にすれば文句しか出てこない。そして、それは完全に心暖の口車に乗せられたことを意味する。だから代わりに櫂が


「心暖さん、揶揄(からか)うのはやめてくださいよ。そんな格上の相手と組めるはずないですよね?」

「へぇ、どうしてそう思うの?櫂」

「組む理由がないです。まず、ポリゴーンに行く理由がない。仮に行く理由があったとしてもわざわざ自分より弱いオレ達と組む必要性がない」

少し考えれば分かることだった。それが出来なかったのはハイブリッド、(スーパー)ヤープという新事実が衝撃的すぎて冷静な判断力を失っていたからだ。


「ふうん」

心暖は感情のない相槌を返す。


「まあ、いちおうは及第点をあげるわ。だけど今の回答には間違いがあるの。これはお屋形様から話すのでよく聞いておいてね」


これは心暖のアドリブで統主との段取りには無かったのだろう。急に話を振られ一瞬、驚いたような表情が顔に浮かんだがすぐに消えた。

「あぁ、まだ断定とまではいかないが、おそらく堅城(けんじょう)とその娘はポリゴーンに行くと考えている」


「けんじょう・・って誰ですか?」櫂が訊ねる。

すかさず心暖が


「高岡堅城、エージェント簧黄の日本での名前よ。アタシ達が普段の会話をする時はこっちを使っているからお屋形様もつい出ちゃったのよ」

「どういう字を書くんですか?」

「堅牢の堅にお城で堅城。要塞みたいでしょ?」

櫂は言われた字を頭の中で書いてみる。なるほど堅そうだ。


「ポリゴーンに行く理由はあるってことですか?裃がそう考える理由を教えてもらってもいいですか」

「理由は堅城本人と娘双方の問題じゃ。堅城の方はFibe-Aと裃の両方を相手取って立ち回ったのだから始末されることはないにしても今までより制限された環境での生活になる。それを嫌ってポリゴーンに行こうと考える可能性は十分ある」


「娘の方に何か問題がありますか?」

「問題はない。だがそんな突出した能力を持つ者が次のゲートが発現した時にどうなると思う?このまま地球に残れると思うか?」

「無理ですね」



ゲートは各機関が管理するまさに門で世界中の36地点に存在する。数十年周期でこの36地点のどこかに出現し、高い能力を持った者たちを吸収しポリゴーンに連れ去るが、その理由については未だ解明されていない。


記録にある初期ではこの未知の現象になす術もなく突然人間が消え去るのをただ黙って受け入れるしかなかった。だが、およそ6千年前に古代エジプトの神官が声を上げ、吸い込まれる前に逆に屈強な戦士たちが乗り込むことでランダムに民間から高能力者がゲートに吸い込まれるのを防ぐことが出来ることが分かった。それから長い年月をかけこの手法は洗練され、現在ではゲート近辺に機関を設け、その周囲に『ソード』と呼ばれる訓練を受けた高い能力を持った人間を配置することでほぼコントロール出来るようになっている。


この間に防御面だけでなく観測技術も発達し、次にどの地点でゲートが出現するかもほぼ予測できるようになっていた。

なお、この観測に基づく次のゲート発現地は裃で時期はおよそ1年後と予測されている。



「その娘、高岡柚月の意思が知りたいわね」

優里が顔を上げて心暖を見て言う。


「もちろん。だからアンタ達には明日、この娘に張り付いて受け渡しの現場を抑えるだけじゃなく、意思確認もしてほしいの。パーティーメンバーとまではいかなくても同行を頼むことはできるかもよ」

「アタシ、あんまり話したことないんだけど・・」

「大丈夫でしょ?同級生なんだし」


この発言について心暖にはなんの悪意もないことは櫂には分かっていた。


だが、優里には違った。そもそも優里が学校でまともに話せるのは櫂以外では男子1人、女子が5人しかいない。昔からそうではなかったのだが、ある出来事がきっかけで他人と話すことを極端に警戒するようになってしまった。


だが普段、自分や櫂と話している姿しか知らない心暖にとっては優里の目がなぜかぐるぐると動き、挙動不審となっている理由が本気で分からない。

「分かりました。オレから声をかけてみます」

櫂が助け舟を出す。だがそれに対し心暖は


「アンタ、面識あるの?」

「いや、ないですけど。大丈夫でしょう」

「校内でナンパするの?なんか嫌だわ、それ」

「櫂、浮気しようとしている?」

助けようとした優里にまであらぬ疑いをかけられている。


(いたたまれない)

「いや、クラス同じだから。どこかで話す機会があると思いますよ」

「それで電話番号とLIME訊くの?」

「本気で浮気なの?櫂」

(めんどくせー‼)


すでに心暖はからかいモードに入っている。しかもからかう対象はオレではなく優里で完全に術中にはまっている。さすがは『優里マスター』だ。


「いい加減にせんか!」

ありがたすぎるほどのタイミングで統主の一喝が入る。

優里と心暖がびくっとして押し黙る。

(助かった)


万歳したいくらいうれしいのだが態度には出せないので、せめて感謝の意を伝えようと視線を送る。すると統主もこちらを見ていて目が合った。会釈をしようと思ったら驚いたことに統主の方から小さく頷いてきた。


(すべて理解してオレを助けてくれたのか)

戦場で孤立しているところを救われたような安堵感で心が満たされていくのを感じる。


一方で怒られた二人は何事か話し込んでいた。優里の眉間にしわが寄っているので心暖に何か面倒なことを頼まれているらしい。


自分がこれ以上、ここにいる必要もないだろうと判断し統主に一礼をして部屋を後にする。

裃の家を出たところで時間を確認すると15時を少し回ったところだった。今から帰れば17時前には家に着くだろう。今日、新たに得た情報を元に明日の現場で起こりうる状況を想定した組み手をしておくつもりだった。


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