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裃本家9

まもなく番衆がやってきて簧黄と需袢、そして破壊された畳をみると速やかに撤去作業が始まった。結局ドローンは来なかったが、それが最初からすべて仕組まれていたからなのか、元々ドローンは配置されていないからなのかは分からなかった。


ただ誰も何も言わずテキパキと動く姿を見るとここまでの出来事はほぼ想定の範囲内という印象は受ける。


なお需袢の遺体は片づけたがどういうわけか簧黄の胴体部分は残して番衆は引き上げていった。


簧黄の首なし胴体を除けばほぼ最初の状態に戻った部屋で心暖が口を開く。

「内定はしていたけどコイツがヤープである以上、下手に捕らえようとすれば逃げられてしまう。だからアンタ達をエサに使ったのよ」

心暖が説明を続ける。いいことを言った後に櫂達のことを『エサ』扱いするのは実に心暖らしい。


「コイツの目的はドライブの奪取とN.A.P.関連の情報収集。だけどN.A.P.についてはまったく掴めないから仕方なくドライブだけ確保して終わりにする。これはプラン1」

心暖が『1』を意味するように人差し指を立てる。続いて中指を立て


「そしてもうひとつプラン2。これは情報収集のターゲットをアタシ達、裃からアンタ達に変えるということ。元々、コイツに依頼した機関からは情報収集の対象としてアンタ達も入っていたの。これはコイツの動向を調査して得た結果だから間違いないわ」

優里が右手を小さく上げる。


「さっきからハッキリ言っていないけど、他の機関ってFibe(ファイブ)A(アー)のことよね?」

心暖はちらりと統主を見る。統主は優里をギロリと睨むと


「中心はFibe(ファイブ)A(アー)じゃろう。だが、それだけではない。心暖、教えてやれ」

「はい」

統主が心暖に目で合図を送る。


「お屋形様の言う通り、N.A.P.の情報を欲しがっているのはFibe-Aだけじゃないの。むしろ複数の機関がクライアントとしてFibe-Aに裃からN.A.P.の情報を盗み出すよう依頼している感じかしらね」

「Fibe-Aはビジネスで受けたってこと?」と優里

「ビジネスなら報酬は何ですか?金じゃないですよね」と櫂


二人の反応を受けて心暖は

「直接的なお金ではないけど長い目で見れば経済的な効果を狙ってのモノとも言えるわね。N.A.P.の情報を使った新しいビジネスモデルの構築とその中心に自分たちがいるってところかしら。実際Fibe-A以外の機関が情報を手に入れても持て余すだけで恐らく上手く使うことは出来ないでしょうからね。でも、それ以上に厄介なのはFibe-Aが裃にケンカを売ることになってもいいと考えていること」


「それって・・・」

「N.A.P.の情報にそれだけの価値があると知っているということになるわね」

「・・・かなり核心に迫っている?」

優里が重い口調で尋ねる。


これに対して心暖はさらりと

「N.A.P.が現実であることを認識しているというレベルで、個別に何が起きたかを知っているわけじゃないと思う。だからそんなに警戒する必要はないわ。とは言ってもコイツの頭の中にチップが埋め込まれていてこの会話もリアルタイムでFibe-Aに伝わっている可能性が高いと考えているからアタシ達は機関名を伏せているの。こんな感じでいい?」

あきれるほどあっさりと情報が筒抜けであると言って心暖は笑う。


そして『話を戻すけど』と言ってから

「コイツはプラン1を考えていたと思うの。だけどこっちとしてはこのまま逃げられたらドライブの行方も分からないし、Fibe-Aを問い詰めることも出来ないのだから逃がすわけにはいかない。そこでプラン2に誘い込んだというわけ」


櫂は生首の簧黄を見てから少し声のトーンを落として

「どおりで爺さんから今日はどうしても行けとしつこく言われたわけだ」

「そういうこと。そしてアタシはコイツらに今日の会合にアンタ達が来ることを知らせた上で招集する。とある機関もアンタ達が来るなら招集に応じろと指示を出す。そしてやってきたコイツらはまんまと捕まったというわけ」


Fibe-Aの名前を出しておきながら今さらとある機関もないものだと櫂は思ったが、無言で自分たちの会話を見つめる生首の目を見ると意味はないのだろうが実名を出すのは確かに(はばか)られる気はする。


「少なくともコイツとさっきの女の二人も潜入されている現状でこれ以上、裃本家の人間を使ってドライブの捜索をすることは出来ない。そういう意味でもアンタ達に手伝ってもらいたいの」

そう言うと心暖は生首の簧黄に向かってニッコリと笑いかける。


盗聴している可能性がある相手に向かって櫂と優里が手伝うと宣言したのである。冷静に考えればとんでもないことを言っている。


だが、櫂も優里も何も言わない。二人には前もって信元から伝えられていたことがあった。

それは裃の窮状についてだった。


N.A.P.の情報を得るために裃に潜入している連中の中にはあまりにも情報が得られないことから強引な手段に出る(やから)も少なからずいる。100%知るはずのない末端の人間を(さら)って人質とし、引き換えに情報を寄越せというやり口だ。


もちろん裃はこんな交渉には応じない。だが、その結果人質となった人間が無事解放されるかといえば多くの場合そうはならない。しかも近年、この手の事案は増えてきている。


N.A.P.についての責任の所在は裃本家よりも信元や櫂、優里の方が重いことは間違いない。


また信元からは裃の負担が出来るだけ少なくなるよう立ち回ってくれとも言われていた。積極的に自分たちをターゲットにするような言動をする必要はないが、今回のようなN.A.P.関連でない案件であっても裃から相手の目を逸らすことに繋がるのであれば特に二人が否定する理由もなかった。



「場所を変えましょう」

統主に目で合図を送ると心暖は櫂と優里を促して和室を出ていく。


促されるままに歩を進め部屋の敷居を跨ごうとするとき優里は何か壁を通過したような感じを覚えた。入る時は気づかなかったがおそらくヤープの能力を封じる結界の類が施されているのだろう。振り返って生首の後頭部を見る。誰も部屋に残らずとも生首には何も出来ない、だから問題はない・・・


(だけど何故、番衆は簧黄の体を回収せずに残していったのだろう?)


心暖は首を斬られ分離した肉体はただの死体だと言った。

そのあと、優里が生首に触れようとしたときに妙に優しい言い方で諭した。


だが、本当の理由は別にあるとしたら・・・・

優里は前を歩く心暖の後ろ姿を見る。櫂はそれほど警戒していないようだが心暖の言うことの半分は嘘なので簡単には信用できない。しかも自分との会話のときにはその傾向が強くなる。それに加えて嘘を見破れるような伏線をあちこちにバラまいて会話を組み立てているから内容を随時フィードバックして進めなければならない。


正直言って・・・疲れる。


優里は考えるのは好きだがあくまで論理的な思考のことであって、詐欺師の思考は好みではない。


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