高岡柚月1◆
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◆マークがあるときは挿絵あり。
「高岡落としたぞ」
放課後の人が少ない下駄箱で振り向くとクラスメイトの矢場がいた。
「これ、オマエのだろう」
手には見覚えのある消しゴムを持っている。確かにアタシが使っているのと同じモノだ。
「ほら」
「ありがとう」
そう言って手渡される彼の手と自分の手が触れそうになり、体が強張った。
(同性なら大丈夫だけど、男子はまだ緊張するな)
我ながら自意識過剰だとは思う。
ただ、なぜ今ここで渡す?
落としたとしたら進路指導室を出たあたりだと思うのだけど・・
「矢場ぁー」
「おう、今行く」
友人の声にこたえて矢場は手早く靴を履き替えて出ていく。
アタシに一瞥もせず。
(考えすぎだな)
夕陽に照らされて赤く染まった風景の中で友人たちは駆け寄ってくる矢場と自分を交互に見ながら
「え、高岡じゃん」
「何、話していたんだよ?」
「消しゴム拾っただけだって」
そんな会話が聞こえてきた。
(青春だな)
ああいう友達が欲しかった。
しかし考えるだけじゃ仕方ない。
(帰ろ)
矢場たちとは別方向にあるバス停に向かった。
バスと電車を乗り継いで約1時間の通学。
あえて中学時代の知り合いがいない学校を選んだんだけど。
(失敗したなぁ)
1時間くらいなんてことはないと思っていたけど、毎日はやはりキツイ。
こういう時に友達が一緒にいて無駄話をしていられればいくらかはマシなのだろうけど。
電車のドアにもたれてぼんやりと窓から外を眺める。
10月にもなると6時を回れば薄暗くなるが、まだ川面は見て取れる。
ふと後ろから声が聞こえてきた。
「見ろよ、あの子すげぇ可愛い」
「ばっか!オマエあの制服、晶河だぞ」
「ホントだ!マジか⁉」
高校生男子は本当にガキだ。
電車内という公共の場で声に出して他校の女子生徒に向けて下卑た言葉を投げてくる。
ただこれも今では彼らの言葉の裏にあるものにも気づいたので特段気にもしなくなった。
晶河高校は単なる進学校ではなく理数系が強い。
頭が良くかつ理系の女子というものは男子にとってハードルが高く非常に声を掛けづらい。
だから彼らは直接的なアプローチをせず、遠回しなやり方で餌をまき、こちらから声を掛けてくれるのを待っているのだ。
恐らく
『あなたたち、さっきから何をこそこそと人の悪口を言っているのよ』
『いや、別に悪口言っているわけじゃないよ』
みたいなことを想像しているのだろう。
漫画やラノベにありそうな展開だし、ボーイミーツガールの定番でもある。
ただしあくまでフィクションの話であって、現実世界ではまず起こらないし自分がその当事者になることなどありえない。
だからいくら彼らが餌をまいてもアタシは食いつかないからラブコメの波動は永遠に起きない。
男子高校生はアタシの反応が期待薄だと気づいて興味を失ったのか。代わりとなる話題も見つからないようでそれからは会話も無く静かにスマホをいじっていた。
その光景を見て思わず苦笑いが漏れる。
(現実って、ほんとに何も起こらないな)
スマホを取り出し、彼らと同じように興味のない記事をスクロールして時間をつぶす。
『間もなく○○、お出口は右側です』
ようやく着いた。今日の夕飯は何だろう?




