遭遇と開拓
式が終わり、参列者たちは少しずつ外へ出ていく。中学の時のクラスメイトたちが、言葉少なに頭を下げて去っていく。教師たちも、形式的な挨拶を残して帰っていった。やがて、式場には静けさが戻る。そのときだった。永介の父親が、誰かに気づいたように立ち上がった。深く、深く、頭を下げる。相手は――あの黒いコートの男。やはりその男は場違いなほど、飄々と立っていた。
「……本当に、来てしまったんですね」
永介の母親の声は、震えていた。黒いコートの男は、軽く肩をすくめる。
「俺の家でもうまく隠してたし、君らもうまく誤魔化してた。でも……理由はなんであれ、どうやら、向こうが思った以上に君らに執着しているらしい」
二人は、俺から少し距離を取った場所へ移動する。声は抑えられていて、内容は聞き取れない。永介の両親の表情は重く、何か重大な決断をしているように見えた。永介の父親が、何度も首を振る。
(……やっぱり、偶然じゃない)
その確信の奥に、「何かに永介も永介の両親も見つかったんだ」という諦観が混じっていた。
やがて、話が終わったのかあの黒いコートの男が、こちらに視線を向け、近づいてきた。その目は、常に軽さを保ったまま、ほんの一瞬だけ、鋭く遠くを見ていた。永介の両親も、最後に一度だけ、俺を見る。
その目にあったのは――謝罪。後悔。そして、――硬い決意。悪意は、どこにもなかった。
「君が侑くんだね。」
男が、軽い調子で声をかけてくる。
「不運が重なっていて君も大変だろう?」
「さっきの話……」
「聞こえなくていい」
即答だった。
「これは、君が背負う話じゃない。大人が引き受ける因果だ」
一拍置いて、続ける。
「でも、巻き込まれた以上、君は無関係じゃない。今君はそれまで感じることのなかった何かを感じているだろう?例えば――君自身に向けられている悪意とか……。」
「なんでそれを……。」
確信を突いた言葉だった。――一体この男はなんなんだ?
男は遺影を一瞥する。
「自己紹介が遅れたね。俺の名前はルキウス・マーリン。
この世界には、君みたいに――特別な力を持つ人間がいる。俺たちは、そういう人間を権能者と呼んでいる。俺の仕事は、その権能者たちを守り、育て、正しい方向へ導くことだ。そのための場所として、俺は東京魔法・魔術学院で教員をしている。常盤侑くん。学院へ来なさい。君を守るためでもあるし、その力をより知るためでもある。何より――」
ほんの一瞬、視線が鋭くなる。
「誰も失わないためでもある」
俺は、深く息を吸い、ゆっくり頷いた。
「……行きます」
マーリンは、満足そうに笑う。
「よし。じゃあまずは、力を制御するところからだ」
軽い背中。だが、その一歩一歩は、確実だった。
永介の死は、終わりじゃない。そう信じられるだけの理由が、そこにはあった。




