現実と慟哭
母さんと父さんは俺の容態について医者に聞くために部屋を出た。病室のドアが静かに閉まり、足音が遠ざかっていく。さっきまで張りつめていた空気が、嘘みたいにほどけた。白いカーテンの向こうから、控えめなノック音がした。
「……入って、いい?」
その声に、胸の奥がひくりと震える。日高小春だった。ゆっくりと扉が開き、彼女は花束も持たず、ただ制服のまま立っていた。赤く腫れた目だけが、ここに来るまでの時間を物語っている。――瞬間でわかった。彼女の感情が、流れ込んでこない。俺に向けられた悪意も、責める気配も、ひとつもない。それだけで、気が楽になった。
「……侑」
名前を呼ばれただけなのに、喉の奥が熱くなる。
「来てくれてありがとう……」
そう言うと、小春は首を振った。
「ありがとうじゃ……ないよ……来たかっただけ」
ベッドの横に立ったまま、しばらく二人とも言葉を失っていた。沈黙の中心にあるのは、はっきりとした不在――佐藤永介という名前。
「……ねえ」
小春が、震える声で続ける。
「まだ、実感がなくて。明日になったら、また『おはよう』って2人に向けて言いそうで……」
そこで、声が詰まった。俺も同じだった。同じ景色を、同じ時間を、生きてきたから。
「……俺も」
それ以上、言葉にできなかった。小春の肩が、小さく揺れ始める。必死にこらえていた涙が、ぽろりと床に落ちた。
「永介、さ……優しかったよね」
その一言で、堤防が崩れた。胸の奥に溜め込んでいたものが、一気に溢れ出す。俺は顔を覆い、嗚咽を噛み殺そうとしたが、無理だった。小春はベッドの縁に手をつき、声を上げて泣いた。俺も、同じように泣いた。責める言葉も、慰める言葉もいらなかった。ただ二人で、永介の死を噛み締めるように、何度も名前を心の中で呼んだ。――失った事実だけが、静かに、確かに、ここにあった。そしてその痛みを、分かち合える人が、目の前にいる。それが、少しだけ救いだった。
実は受験生なのでドタバタしてます。
それでも小説は書きたい!!




