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夢幻と喪失

4話目突入です!

ますます面白くなる予定なので、ぜひ引き続き呼んでいただけると幸いです!

 「侑!」

……誰かが呼んでいる。

「侑!起きて!」

……アイツだ。永介だ。

「っ……永介!高校、高校は!?」

「高校かあ……もう間に合わないなあ……」

「んなことないって!!走れば、まだ間に合う!!」

永介は、優しく微笑んでいた。その笑顔は、すべてを物語るようで――残酷なほどに温かかった。

「笑うなよ……なんで……一緒の部活入って、カワイイ彼女作って、ダブルデートとか……」

泣きそうな俺を、永介はぎゅっと抱きしめる。

「俺が巻き込んだんだ、侑」

その言葉の意味が理解できず、頭が混乱する。

「落ち着いて聞いてくれ。このあと侑が起きたとき、きっと侑の身に異変が起こる……そして、その全てが俺のせいなんだ。ごめん……」

「何言ってんだよ、永介……」

「でも、俺は絶対に侑の力になる。侑を守るから……」

永介の手を握ろうとする。抱きしめようとする。――でも、掴めない。まるで煙のように、消えていく。

「待ってくれ!永介!意味わかんねえよ!!」

「永介!!!永介……!」


 次の瞬間、肺が勝手に大きく息を吸い込み、俺は――

「っ……!」

飛び起きた。白い天井。蛍光灯。乾いた空気。救急車の揺れも、サイレンのうねりも、すべて消えた。代わりに、淡々と規則的な電子音が耳に刺さる。ここは――病院だ。喉は焼けるように乾き、胸は荒く痛む。シーツを握る手のひらが、汗でしっとりと濡れていることに気づく。点滴のチューブが揺れ、かすかな音を立てた。夢じゃない。さっきの光景が、あまりにも鮮明に脳裏に蘇る。

「……永介……?」

名前を呼ぶと、胸がぎゅっと締めつけられた。声はかすれ、ほとんど音にならないのに、病室の静けさの中では鋭く響いた。永介――確かにいた。一緒に高校に向かっていた、あの入学式の日。笑っていたはずなのに――なのに……。あの瞬間、永介の姿だけが霧のように曖昧で、手を伸ばしても掴めない。気づいたときには――

「……永介は、どこだ……」

胸の奥がざわざわして、落ち着かない。

病室には誰もいない。カーテンの向こうの静寂だけが、やけに深く広がる。それでも、耳の奥に残る――永介の声の残像。胸は早鐘のように、止まることなく打ち続けた。

 慌ただしい足音が、カーテンの向こうで聞こえた。次の瞬間、カーテンが勢いよく引かれる。

「侑!」

母さんの声だった。肩で呼吸し、コートは乱れ、髪も乱れていた。急いで来たことが、一目でわかる。

「侑……わかる?母さんだよ!」

ベッド脇に駆け寄り、両肩を握る。力が強すぎて少し痛い。それでも離そうとしない。

「……母さん」

声を出した途端、喉がひきつった。一拍遅れて父さんが入ってくる。無言で病室の扉を閉める。その音が、重く響いた。父さんの顔は硬く、眉間に深い皺が刻まれている。視線が一度、俺から逸れた。その仕草で、胸がざわつく。

「……永介は?」

考えるより先に口が動いた。

「永介も、ここにいるんだろ……?」

母さんの動きが、ぴたりと止まった。肩に置かれた手が、わずかに震える。

「……侑」

名前を呼ぶ声は、遠く、かすかで。父さんがゆっくりと前に出る。深く息を吸い、吐く。その一連の動作が、あまりにも長く感じられた。

「侑、落ち着いて聞け」

低く、押し殺した声だった。その瞬間、心臓が一段、強く脈を打つ。――落ち着け、なんて言葉は、いい知らせの前には使われない。

「永介くんは……」

母さんが言いかけ、言葉を失う。唇を噛みしめ、首を横に振った。沈黙。電子音。自分の呼吸が耳障りに響く。父さんが、目を伏せたまま告げた。

「……亡くなった」

一瞬、世界の音が消えた。

「……は?」

声が出たのか、自分でもわからない。

「事故で、運転手も死んでしまうほどの衝撃だった……その衝撃で永介くんは……」

父さんの声を、俺は聞けなかった。

「ちょっと……待ってくれよ……」

胸が締めつけられ、空気が入ってこない。霧の中で笑っていた永介の顔。抱きしめて、「守る」って言った声。耳に残っている。

「……嘘だろ……」

喉が震え、言葉が崩れた。

「だって……あいつは俺に……」

母さんが、耐えきれずに顔を覆う。嗚咽が漏れ、押さえきれない。

「……ごめんね……」

その一言が、胸に刺さる。逃げ場が、なくなる。

「……そっか」

不思議なくらい、声は静かだった。世界が一段下に落ちたような感覚。父さんは何も言わず、ただ立っていた。その背中は大きく、そして遠かった。病室には三人分の呼吸音。それでも、永介は、どこにもいなかった。

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