崩壊と暗転
ウゥゥゥ——ウゥウゥ……。
サイレンが鼓膜の内側までじんじん響いて、頭の奥をかき混ぜるように揺れていた。救急車の車体がきしむたび、視界の白い天井灯がぶれる。息が浅い。身体は自分のものじゃないみたいで、指先に力を込めようとしても、ふわりと空気を掴んで消えてしまう。
「聞こえますか?聞こえますか?」
救急隊員の声が、遠く、水の底から響いてくるようだった。言葉の意味は頭に届くのに、その音が本当に自分に向けられているのか確かめる余裕がない。まぶたが重くて仕方がない。閉じたら戻れない気がして、必死に開け続けようとするけれど、黒い影が視界の端からじわりと侵食してくる。俺はどうしてこうなったんだ?
「……永介……永介は……」
そうだ、入学式があって、永介と高校に向かってたんだ。かろうじて声を出したつもりだった。けれど喉は砂を詰められたみたいに動かず、息だけがかすれて漏れた。
救急車が大きく跳ねた。誰かの手が肩を支えてくれる。その温もりだけが、まだ自分が世界に繋がっている証みたいだった。金属が触れ合う乾いた音。無線の慌ただしい声。短く切迫した指示。全部が遠ざかっていく。厚い霧のむこうで繰り返されている、他人の世界の出来事みたいだ。
永介はどこに行ったんだ。アイツも近くにいるはずなのに……。
「……っっ」
最後に見たのは、さっきまで永介がいたはずの場所の隣にあった壁を突き破って、大きく歪んだ大型のトラックと、その車体の先に広がる血溜まりだった。




