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快活と興味

 しばらくマーリンとゾラのわちゃわちゃを見ていた。俺の中ではマーリン先生も割とテンションが高かったけど、ゾラ先生はその上を行く存在だった。

「俺、会議あるからもう行くよ。」

「行ってらっしゃーい!」

 マーリンがそう切り出すとゾラはやっと話題を切り上げ、解放するかのように数歩後ろに下がった。ゾラ先生と俺だけの空間になる。……ちょっと気まずい。

「よかったら一緒に行かない?私はこのまま授業の教室まで行くんだけど、侑くんは部屋戻るでしょ!」

 はきはきとしゃべる姿に圧倒されながらも俺はうなずいた。マーリンの部屋を後にすると、ゾラはそのまま廊下をずんずん歩き出した。俺がついてきているか確認する様子もない。歩幅がやたら大きい。俺もそれに合わせようと小走りになった。ゾラ先生に近づくと、ガッと肩をつかまれ、近くに引き寄せられた。

「ねえねえ侑くん!学院どう?楽しい?まだ混乱してる?してるよね!?普通するよね!」

 一気に質問が飛んできた。

「……えっと、そうですね。」

「だよねぇ!!最初みんなそう言うんだよ!私も初日は三回迷子になったし!」

 誇らしげに言うことじゃない気がする。

「ずっと君のことは気になってたんだよ!遅すぎる転入生ってみんなの話題の的なんだよ!」

 なんだか不名誉だけど、事実だ。距離が近い。目がきらきらしている。観察されている感じがすごい。

「マーリンが直々に連れてきた子って珍しいんだよ?あの人、基本誰にも等しく興味ないからね。あ、でも前に食堂で出た魚のフライの中身が食べてもわからなくてもやもやするってすごい調べてたことあったなあ」

「俺は魚のフライと同等ってことですか……。」

「かもね!」

 否定してほしかった。外へ出ると、寮の前庭に冷たい風が流れていた。ゾラは独特の癖のある髪を押さえるでもなく、そのまま歩きながら話し続ける。

「でねでね、侑くん。さっき頭ぶつけたでしょ?あれ結構いい反応だったよ!」

「いい反応?」

「人ってね、予想外の衝撃受けたとき本性出るの。怒る人、固まる人、泣く人、笑う人。君は状況確認したあと周囲見てた。要するに君はよく観察する癖や習性があるってこと!観察型ってことだね!ちなみに、私の教えてる分野は生物魔法学なの。だから、こういうことはよく見てる。」

指をびしっと突きつけられた。

「観察型は伸びるんだよねぇ。特にこの学院だと」

「……そんなので分かるものなんですか」

「分かる分かる!この学院に生徒としてだけど、5歳の時からいるからだいたい分かる!」

 ゾラは満足そうにうなずいたあと、急に声のトーンを少しだけ落とした。

「でもさ」

 歩みがほんの少し緩む。

「無理しなくていいからね。この学院、“何かしなきゃ”って思いすぎる子、多いんだ」

 さっきまでの勢いとは違う声音だった。けれど次の瞬間、ぱっと顔を上げる。

「まあ君は大丈夫そうだけど!」

 結局テンションは戻る。寮の入口とは別の通路を指差した。

「生徒用区域はあっち!食堂、談話室、訓練場、あと夜中に先生に見つかると怒られる秘密の近道もあるよ!」

「秘密じゃないですよね、それ」

「みんな知ってる秘密だからセーフ!」

 基準が分からない。入口の前でゾラがぴたりと止まった。

「はい、ここから先は生徒の世界。私は立ち入り禁止!」

 敬礼のような仕草をする。

「侑くん」

 名前を呼ばれて顔を上げると、さっきより少しだけ真面目な目をしていた。

「いろんな人を頼って、ゆっくりでいいから自分を見つけな。もちろん私のところもいつでも歓迎!マーリンの愚痴とか弱みを見つけたらすぐに来な!それもいつでも大歓迎だから!」

 そう言って、また頭をわしゃわしゃ撫でられた。

「……ありがとうございます」

「よし!いい返事!じゃあまたね未来の問題児候補!」

「候補なんですか……」

「大丈夫大丈夫、この学院で普通のまま終わる子いないから!」

 ゾラは満面の笑みを残して手を振り、教師棟の方へ軽い足取りで去っていった。嵐みたいな人だった。静かになった通路に一人立ちながら、俺は小さく息を吐く。――本当に、この学院には癖のある大人しかいないらしい。

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