再会と喧騒
マーリンの部屋の前に着いたとき、俺は一度、深く息を吸った。扉にはMerlinと書いた表札がある。ノックをしようとした、その瞬間。
「いいじゃんマーリン!その資料かしてよお!一生のお願い!!」
「やだよ自分で許可とって来いよ」
中から、明るい女性の弾んだ声とマーリンの声が飛び出した。ノックしようとしたその瞬間。目の前のドアが勢いよく開き、俺の顔面を殴打した。その反動で俺は後ろに倒れた。
「え、なに!?今すごい音したけど⁉」
開いた扉からマーリンと見知らぬ女性教員が出てきた。その女性教員はあたふたしながらこちらへ近づいてきた。やたらとテンションが高い。視線が落ち着かない。すべての動作がとても大きい。
「……ゾラ」
マーリンが、露骨に嫌そうな顔をした。
「ごめんね‼頭打ったよね?医務室行かなくても大丈夫??」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。侑くん先生のところ回ってきた?」
「そんなことないよ。大事な生徒の脳みそなんだから!!」
目の前でマーリンと女性教員のせわしない会話が繰り広げられる。……ほぼ口喧嘩だ。
俺は立ち上がり、菫の隣まで下がった。
「というか、マーリンが思いっきり扉あけるからじゃん‼」
「ゾラが資料貸してってうるさいからだろ」
「それでも扉あけるときは気をつけなきゃだめだよお」
激しい言い合いが続く。
「マーリン先生に課題を提出に来ました。」
菫さんが割って入った。一瞬、空気が止まり、口喧嘩がすっと止まった。
「ごめんねぇ。この馬鹿女がずっと騒いでて!」
「え、アタシ!?」
「そうだよ」
マーリンは菫さんから課題を受け取った。
「それでは、私は失礼します。」
菫は軽やかに向きを変え、課題を渡すとすぐに帰っていった。菫がいなくなったマーリンの部屋の前では数秒の沈黙が走った。
「えっと……初めまして。君は常盤侑くんだよね?私はゾラ。ゾラ・バティスト。」
マーリンがゾラと名乗った女性教員の肩に肘を置く。
「ゾラは俺の同じ学院での同級生なんだ。」
「腐れ縁とも言う!」
「まあ、間違いではないね。」
ゾラがまっすぐこちらを見てくる。一歩、距離を詰められる。近い。
「いい目をしてる。きっと君は強くなるよお。」
そう言って、俺のことを犬をわしゃわしゃとなでるように頭を撫でた。
「私はまだ侑くんの授業を持つことはないけど、いずれきっと担当することになるからよろしくね!」
「よろしくお願いします。」
なんだか、とても話しやすい人だ。ずっとにこにこしていて、何というか、とても一緒にいて落ち着く。マーリンが、咳払いをする。
「……今ゾラ言った通り、ゾラはまだ授業を持たないし……あと、変人だけど……。能力は確かだから、困ったことがあったら頼るといいよ。」
「中間あたり、なんかひどくない?!」
「事実だろう」
ゾラは肩をすくめ、いつもの調子に戻る。
「まあ、よろしく!そのうち、嫌でも関わることになるから!」
俺はただうなずいた。この学院には――癖?のある先生が多い気がする。




