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Prologue No.6 ~Zora・Baptiste(ゾラ・バティスト)~

 昔から、気になったことがあれば、すぐに実践したり、調べるような性格だった。それが功を奏して、私は生物魔法学の博士号も取れて、学院にも務めることができた。二十歳になった時、ずっと目指していた研究所からインターンのお誘いが来た。喜んでお受けした。毎日が今まで以上に輝いていた1年間だった。次の年も是非と言われ、また、喜んでお受けした。次は就職を視野にしてきませんか?そういわれて、舞い上がっていたのは確かだった。伝えられた住所の場所で住み込みだったため、心を躍らせながら身支度をして、マーリンや他のみんなからお祝いをしてもらい次の日、研究所へ向かった。

 伝えられた住所へ向かうと、黒い車が私を迎えに来た。後部座席には前に同じ研究所で働かせてもらった研究所の所長が乗っていた。車はどんどんと都市部から離れた場所へ行く。田畑の広がる場所からまた更に奥へ。車がやっと通れるほどの狭い森の道を越え、出てきたのは大きなトンネルと、さびれた門だった。ひどい音を立てながら門が開く。車がゆっくりと入っていく。トンネルへ入ると、今まで見たことがないほどの量の呪いや魔物が天井や側面に張り付いたり、飛んだりしている。

「なんでこんなに……。」

 困惑からかつい思ったことが口からこぼれ落ちてしまった。

「これはこの施設を守るためのものですよ。それをするだけの価値のある研究をしているんだよ。」

 所長はいつもの朗らかな顔で私に説明してくれた。トンネルを抜けると中には大きなビルとそれの周りに様々な建物が広がっていた。

「ここ一帯が研究所なんだよ。君にはここで行われている今、一番重要視されている研究に携わってもらおうと思ってね。」

「いいんですか?!そんな大事な研究に学生が関係しても?!」

 驚きと嬉しさが混ざる。それまでのドキドキに加えて、また感情が高ぶっていく。

「君は優秀だからね。……ただ、1つ条件があって、将来、ここで働くことを約束してほしいんだ。」

 思ってもみない言葉だった。

「それって、……ここに就職してもいいってことですか?」

「ああ。そうだよ。」

 私は所長の手を思わず取り、両手で握りしめた。

「喜んで!喜んでお受けします!」

 きっとあの時の私なら、就職じゃなくても、どんな条件でも飲んだと思う。ただただ、小さいころからの夢がかなって嬉しかったのだ。

 ほどなくして、私は研究に手を貸すようになった。研究内容は「適性のない者でも魔法を使えるようにする」というものだった。これが成功すれば権能者でも魔法に適性のないものが魔法を使えるようになる可能性もある。もっと研究を進めれば権能者だけの世界を創造することも夢じゃない。そんな希望に満ちた研究だったはずだった。研究は私が入ったことで明らかに進歩していた。私自身も研究所で自分が役に立っていることを自覚出来て嬉しかった。2年の中盤に入る頃には実際に人間を使った実験に移れることが確定した。方法は人体に魔法適性のある者の骨髄を移植することで、適性を上げる方法だった。被験体の数は最初20人で行われた。私の仕事の多くは理論が多かったため、実際に実験現場に足を運ぶことは少なかった。

 2年の終わりには実験は理論通り、うまくいっていると聞かされた。私は未来のために寄与したのだと興奮した。2年と3年の夏休みの間は学院に一度帰り、研究の手助けになりそうな資料や文書を片っ端からあたったのを今でも覚えている。学院生活で最も学問に集中した時だったと言っても過言ではない。3年が始まると私はまた、同じ研究所へインターンに行った。夏休みの間に一層と研究は進んでいた。研究も順調だと聞いた。

 ある日、私は実際に実験を行っている施設に来て、成果を見てほしいと言われ、期待に胸を躍らせながら、着いて行った。施設まで着くと施設長が出てきて、案内をし始めた。そこには檻のような隔離スペースが何百か所とあった。私はその中を見て、言葉を失った。見たことのない肉の塊たちや、見たことのないような生物たちが一か所一か所の檻の中でうごめいていた。

「これらはもともと人間だったが、実験の末にこうなってしまったんだ。社会に戻すわけには当然いかないからね。こうやって死ぬまで経過観察してるんだよ。早く死んでくれた方が場所とらないんだけどね。」

 施設長は日常会話かのように言った。あまりに非人道的だった。私が知っている被検体はほんの20人だったのに、少なくとも100人以上の人が確実に犠牲になっている。その事実に唖然とした。私は思わず膝から崩れて落ちた。

「……この数は、どういうことですか」

 声が震えていた。施設長は肩をすくめただけだった。

「研究というのはね、失敗の積み重ねなんだよ」

 まるで当然のことのように言う。

「だが成果は出ている。成功例もある」

 成功例。その言葉に、私は思わず顔を上げた。

「成功……?」

「見せてあげよう」

 施設長は奥の区画へと歩き出した。そこは他の檻とは違い、強化結界で何重にも封鎖されていた。中にいたのは、人型だった。だが、完全に人間ではない。髪はストレスからか真っ白になり、身体中に引っ掻き傷と魔法か何かの痕跡のようなものが皮膚に浮き出ていた。その人物は、ゆっくりとこちらを向いた。その瞬間、私は息を呑んだ。

「……え」

ありえない。そんなはずがない。けれど、その顔を私は知っていた。学院で、何度も議論した。研究の話をして、夜遅くまで笑っていた。

「……ジャック?」

 それは間違いなく数年前に失踪した同級生の一人だった。その名前を口にした瞬間、檻の中のそれが動いた。ゆっくりと口が開く。だが、言葉は崩れていた。

「……ゾ…ラ……タス…けて…………」

次の瞬間、檻の結界が激しく揺れる。肉体が歪み、骨が軋み、呪いのような魔力が溢れ出す。私はその場から動けなかった。施設長の声が遠くで聞こえる。

「成功例の一つだよ。人間が詠唱なしで魔法を使える。人格や魔法の暴走は、後で調整すればいい。」

成功。それが、この姿なのか。私はその場に立ち尽くしたまま、ただ一つのことを理解した。これは。これはもう。人間の領域じゃない。

 その夜。研究室で、私は一人ノートを開いた。手は震えていた。それでも、ペンは止まらなかった。私が見た被験体たちの様子。骨髄適性に関する自分の理論の過ち。魔法の暴走の兆候。私はすべてを書き残した。涙が紙に落ちる。それでも書くのをやめなかった。知ってしまった以上。もう。後戻りはできない。

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