嫌悪と対抗
ファウストは、侑の方を一度も振り返らずに進み続けた。それの後を追うように侑も後を追った。
学院の中でも、彼の部屋は端にあった。人通りが少なく、静かだった。扉が開く。中は――整然としていた。書架、机、資料棚。装飾はほとんどなく、色も少ない。“生活感”より“作業場”という印象が強い。沢山の本がきれいに本棚に並んでいる。1つの乱れもなく、すべてが規則的に美しく並んでいる。逆にこの静寂さがうるさかった。
「そこに座って待っていなさい」
言われるまま、椅子に腰を下ろす。ファウストは上着を脱ぎ、棚の引き出しを開けた。紙束を一枚、二枚、三枚。――どさり。机の上に積まれたそれを見て、言葉を失った。
「……これ、全部?」
「当たり前だ」
即答。
「閉心術の基礎もできないやつが文句を言える立場なのか?」
淡々と、読み上げる。
「それから、毎週小テストをする。これが毎回の範囲表だ。」
範囲表を見て喉が鳴った。
「1回の範囲、多すぎませんか……」
気づけば、そう口にしていた。ファウストは、初めてこちらを見た。この顔は眉間に皺を寄せ、こちらを睨んでいた。
「多い?」
眉1つ動かさない。
「もう一度言おう。君は、閉心術を使えない。学院の低学年でもできる程後の術ができない君に“多い”と感じる権利があると思うのなら、まだ危機感が足りないのではないか?」
胸に、ずしりと重たいものが落ちる。言い返す言葉がまた見当たらない。口惜しさが握った手ににじむ。これまで、永介と一緒に文武両道を目指して頑張ってきた。その結果、成績はいつもよかったし、部活でもいつも活躍してきた。努力も何もはじめていない状態で自分の値打ちを決められているようで腹が立った。そんな侑の姿を反対の椅子に深く腰掛け、肘をついたファウストがじっとこちらを見ていた。
「わかったらさっさと出て行け。そこでぼーっとしてる時間があったら課題に取り掛かる時間を作るため行動してはどうだ?」
俺はファウストを強く睨んだ。
「……分かりました」
そう答えるしかなかった。侑は一瞥もせずにファウストの部屋を去った。




