厳格と動揺
日が落ちはじめる頃、ほぼ全員の先生に課題や使うテキスト、次にどの教室で自分に授業をしてくれるのかを聴き終えることができた。残り1人。Wilhelm=Faust(ヴィルヘルム=ファウスト)と言う人。序盤に探し始めたもののさっぱり見つからない。聞き込みで話しかけた生徒たちも口を揃えて、「わからない」の一点だった。中には「あの人と関わりの深い人の方が珍しいからなぁ」なんて言う人もいた。自分でもできるだけ多くの場所に足を運び先生らしき人に話しかけてもみんな違う人だった。
学院内でまだ探していない場所は初日に学院長と会った場所だけ。まさかと思いながらもこれだけ探していないのならそこしか考えられないという思いでそこへ向かった。長い長い一本道。その先に大きな人影が見える。学院長だ。侑は学院長に後ろから大きな声であいさつをした。それに反応するように学院長はこちらをみた。
「どうしたの?こんな辺境の地まで。まさか、もうここから出て行っちゃうのかしら。」
「まさか。違いますよ。マーリン先生に出された課題を終わらせるためにヴィルヘルム=ファウスト先生を探しているんです。」
からかってくる学院長に対して、侑は苦笑いしながら答えた。
「奇遇ね。私も彼に会いに来たのよ。」
「え?」
まさかと思った場所に本当にいたことが発覚して侑から拍子抜けした声を漏らした。
「昨日学院長と会った場所にいるんですか?」
「正しくは、これから来るのよ」
学院長の言ったことの意味があまりわからないまま、侑は学院長の後をついて行った。
学院の門についたその直後だった。門の向こうから人影が近づいてくる。
「お帰りなさい。Mr.ファウスト」
眉間に深く皺の刻まれたファウストと呼ばれた男は、その呼びかけに応じるようにその場で立ち止まり、几帳面に礼をした。あの人がヴィルヘルム=ファウストなのか?侑は、まじまじとその男の顔を見た。
ファウストはまたこちらへ進みだし、侑の前で足を止める。
「…学院長」
ファウストの顔が一気に険悪になる。
「なぁに、ファウスト?」
「この少年、閉心術を使っていませんね」
淡々とした指摘。なんのことかわからないからこそ、何に対して顔を顰められているのかわからず、胸が詰まる。
「低学年から学ぶ基礎の閉心術も使っていない。権能者なら基本常に使っているはずの力のはずなのに、なぜです?」
ファウストの視線が、俺を捉える。
「訓練不足か。それとも――意図的に拒んでいるのか」
何も言い返せない。閉心術。初めて聞く言葉に動揺が隠せない。
「ひどい動揺だ。しかも、閉心術を全く知らないようなだ。」
「……やめてあげて」
学院長が、すっとファウストと侑の間に出た。
「この子、数日前に来たばかりなの。閉心術を知らないのにも事情があるし」
声は穏やかだが、顔にはさっきまでの笑みは消えていた。
「事実を述べただけです」
「ええ、分かってる」
学院長は、軽く息を吐く。
「あなたは間違ったことは言ってない。でも“今”じゃない」
ファウストはその言葉を聞き、妥協するかのように一歩後ろに下がった。
「彼、あなたのこと探してたそうよ。そうでしょ侑くん?」
学院長はまた元の笑顔に戻り、侑に向かって優しく声をかけた。
「は、はい!マーリン先生から、ファウスト先生に課題をもらえと言われて、、、」
ファウストは、数秒沈黙した。
「……ついてこい」
そう言って、侑の横を通って足早に学院の中へ入って行った。
「ほら、行かないと。」
学院長は、侑の背中を押してウインクをした。
そんな学院長を横目に侑はファウストの元へと駆けて行った。




