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Prologue No.4 〜Wilhelm=Faust(ヴィルヘルム=ファウスト)〜

 その日、私は初めて「正しい選択」という言葉を信用しなくなった。

 会議室は無駄に広く、無駄に静かだった。重厚な長机、磨き上げられた床、壁に掲げられた紋章。世界の秩序と安寧のために作られたこの場所で語られていたのは、秩序でも正義でもない。ただの大人の欲望だった。――あの子は「適任」だ。淡々と告げられたその言葉に、異論はなかった。才能、資質、血統、耐性。どの数値を取っても、対象となった少年は条件を満たしていた。だから私は否定しなかった。否定できなかった。呪いは完成すれば、計り知れない力をもたらす。権能者の頂点に立ち、世界の構造そのものを書き換え得る力だ。その代償として、肉体と精神には甚大な負荷がかかる。途中で壊れる可能性も高い。だが、「成功すれば」全ては正当化される。そういう計算だった。私は資料に挟まれていた、まだ赤子の彼の写真を見た。まだ生まれたばかりの、何も知らない子だ。

 「拒否権は?」

私がそう尋ねると、上座の人物は一瞬だけ眉を動かした。その表情だけで十分だった。拒否権は、存在しない。私は理解した。ここで声を荒げても結果は変わらない。私が職を失うだけだ。そして、代わりの誰かが同じ説明を、もっと丁寧に、もっと冷酷に行う。それが“大人の合理性”というものだ。――だから私は、黙った。沈黙は同意と同義であり、同意は加担と同義である。理屈は単純だった。否定の余地はない。

 儀式の日、私は立ち会った。呪式陣は完璧で、術式は理論通りに稼働し、観測値も想定内だった。何一つ、失敗はなかった。赤子が泣き叫んでも、誰も助けようとはしなかった。その瞬間、私は理解した。この呪いが完成しようと失敗しようと、あの子の人生はもう“元には戻らない”。それでも私は術式を止めなかった。止める権限がなかったからではない。止める覚悟が、なかった。

 すべてが終わったあと、会議室で拍手が起きた。「新時代への着実な一歩」という評価だった。私は拍手をしなかった。感情が動かなかったからではない。動いた感情を、処理できなかった。

 その夜、私は一人で報告書を書いた。客観的事実。成功率の推移。今後の管理方針。どこにも嘘は書いていない。ただし、どこにも「後悔」も書いていない。報告書を提出した帰り道、私は足を止めた。自分がこのまま生きれば、同じ選択を何度でも繰り返すだろうと理解したからだ。合理性を盾にして。責任を分散させて。「自分一人が声を上げても意味はない」と言い聞かせて。――それは、逃げだ。私は感情で動く人間ではない。だが、論理だけで生きることが正しいとも思っていない。

だから私は決めた。

 あの日、呪いを受けたあの子を、最後まで見届けると。世界があの子を怪物と呼ぶ日が来ても。あの子自身が、自分を正当化するために世界を壊そうとする日が来ても。その責任は、私にもある。ならば私は、あの子の隣に立つ。守るためではない。許してもらうためでも、止めるためでもない。――私が逃げなかったと証明するために。それが、私にできる唯一の償いだった。

受験がもう少しで終わる(泣)

はよ終わってくれーーーー

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