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日常と疾走

ーー10年前




 「もお、やっと出てきた〜! 遅いよ、侑〜!」

玄関を飛び出した瞬間、声が飛んできた。俺の家の前で、佐藤永介と日高小春が並んで立っている。永介は制服をきっちり着こなし、いつもと変わらない、少し眠たげで穏やかな笑顔。一方、小春は頬を膨らませて怒っていた。この二人は、小学校からの幼馴染で、ずっと一緒だ。

「悪い! マジで寝坊しかけた!」

「もお!入学式の日くらい、ちゃんとしてよね!」

「でもまあ、間に合いそうだし〜」

怒りながら俺に注意する小春の言葉の後、永介がのんびり言う。その余裕が、いつも妙に鼻につく。

「……なんでそんな落ち着いてんだよ」

「だって、侑が遅刻しかけるの、予想してたし〜」

「なら起こしに来いよ!」

「それじゃ面白くないでしょ〜」

くすっと笑う永介の隣で、小春はふと時計を見た。

「ちょっと待って! ほら! 走らないと本当に遅れるって!」

「わかってるって!」

俺が駆け出すと、永介もすぐ隣に並んだ。小春は少し遅れて、その後ろから必死についてくる。

「ほら、競争ね〜。駅前の角まで〜」

「は!? 今決めるなよ!」

文句を言いながら、足は自然と速くなる。朝の空気が肺に流れ込み、住宅街を抜ける風が頬を打った。

「ほらほら〜、侑遅いよ〜?」

「うるせえ! 今ギア上げてんだよ!」

肩がぶつかる。永介とは、いつもそうだった。後ろから、小春の声が追いかけてくる。

「ちょっと待って〜! 二人とも速すぎ〜!」

振り返ると、小春が必死な顔で手を伸ばしている。昔から変わらない。できることは少なくても、置いていかれまいと全力で追いかけてくる。息が荒くなってきたころ、永介が並んだまま言った。

「やっぱ侑、走るときは速いね〜」

「当たり前だろ。永介こそ、余裕ぶってんじゃねえよ」

「ふふ、見抜かれてるかあ〜」

そう言いながらも、永介の呼吸は乱れていない。悔しくて、俺はさらにスピードを上げた。信号が見える。青だ。

「勝ったら、部活は中学と同じ剣道部な!」

「え〜? 勝ったら侑が勉強付き合うってことで〜」

「それ、条件重すぎだろ!」

「じゃあ本気出さなきゃ〜」

笑いながら、全力で地面を蹴る。桜の枝が視界を流れていく。

「なあ永介」

「なあに〜?」

「高校でも、負けねえからな」

一瞬、永介がこちらを見た。穏やかな目。でも、逃げない。

「うん。僕もだよ〜」

同じ方向を見て、同じ未来を疑っていない。――そう、思っていた。

 そのときだった。俺の視界は影で覆われ、薄暗くなった。横には、大型のトラックがいた。反射的に、足が前へ出る。勢いのまま、俺は道路へ――一瞬、永介と目が合った気がした。

「侑!」

永介の声が、今までで一番はっきり聞こえた。次の瞬間、背中に強い衝撃。身体が前に投げ出され、視界が大きく揺れる。

「え……?」

空が回転する。影が、視界いっぱいに広がる。地面に倒れ込む直前、見えたのは――俺を突き飛ばした、永介の背中と、立ち止まったまま、声も出せずに固まっている小春の姿。そしてーー金属の塊が、永介を飲み込んでいく光景だった。

明日も公開予定です

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