団欒と幸先
マーリンの部屋を出ると、廊下の少し先に人だかりがあった。
「お、出てきた」
最初に気づいたのはケビンだった。壁にもたれ、腕を組んだままこちらを見る。背後では、何人かの生徒が適当に談笑している。誰もかしこまった様子はなく、教師の部屋の前だというのに妙に気楽だった。
「ちょうどいい時間だし、飯行こうぜ」
「もう夕食?」
思わず聞き返すと、ケビンは肩をすくめる。
「学院の食堂、ピーク逃すと地獄だからな」
「遅れると席がない」
「料理も冷める」
口々に文句が飛び交う。
「それでも行く価値はあるけど」
誰かがそう言って、楽しそうに笑った。流れに押されるようにして、侑も一緒に歩き出す。食堂へ向かう通路は広く、行き交う生徒の数も多かった。さっき見たのとはまた違う雰囲気の集団が、あちこちに固まっている。
「みんな似たもの同士で固まってるんだよ。別に派閥ってほどじゃない。ただ、気が合うやつ同士で集まってるだけ」
ケビンの言い方が、妙に自然だった。
「強い弱いとか、才能とか、あんま気にすんな」
「ここじゃ、好きなことやってるやつが一番楽しそうだから」
食堂に足を踏み入れた瞬間、空気が一気に変わった。湯気。香ばしい匂い。食器の音と、重なり合う笑い声。
「うわ……」
「最高の空間だろ?」
ケビンが少し誇らしげに笑う。
「飯だけは外せない、断言する」
長いカウンターには料理がずらりと並び、生徒たちは思い思いに皿を取っている。
「今日のシチュー当たり」
「パン焼きたてだぞ」
「デザート残しておけよ」
学生らしい会話が飛び交い、誰もが楽しそうだった。席に着くと、自然と話題は学院のことになる。
「明日の集会、どうせ長い」
「学院長の話、眠くなる」
「でも終わった後が本番だろ」
「この時期に新入生来てるって話だぜ」
ちら、と視線が侑に向く。
「大丈夫。すぐ慣れる」
ケビンは緊張する侑をフォローするように言った。
「最初はみんなそうだから」
そう言われて、胸の奥に溜まっていたものが、少しだけ軽くなる。
不安が消えたわけじゃない。けれど――笑っている人たちがいて、冗談を言って、飯を食って。それだけのことが、やけに大きく感じられた。……大丈夫かもしれない。漠然とそう感じられた。新しい環境。知らない世界。それでも、ここなら。侑はスプーンを手に取り、静かに息を吐いた。賑やかな食堂の中で、その音は誰にも気づかれずに溶けていった。




