友情と信頼
荷物をひと通り片付えたあと、ケビンは軽く手を叩いた。
「じゃ、行くか」
「……マーリン先生の部屋、ですよね」
「そ。案内する」
「いいんですか」
「いいぜ〜」
軽い返事だった。侑はそのままケビンの後について、部屋を出る。
寮を抜け、学院の主要な通路へ出た瞬間、空気が一気に賑やかになる。広い廊下。天井は高く、左右に分岐がいくつも伸びている。その同じ空間の中に、いくつもの“色”が混ざっていた。声が大きく、笑い合っている集団。体格がよく、動きに無駄がない。肩を組み、冗談を飛ばしながらも、視線は鋭い。
「……人、多いですね」
「この時間帯はな」
ケビンは気にした様子もなく進む。
「ああいうのは、だいたい一緒につるんでる連中だ」
少し先では、壁際に固まって静かに話している生徒たちがいた。声は抑えめで、手元の紙や端末を覗き込みながら、短い言葉を交わしている。目が合っても、すぐに逸らされる。
「雰囲気、全然違いますね」
「まあな。混ざらねえやつは、基本混ざらねえ」
さらに進むと、今度は一目で“整っている”と分かる集団が見えた。姿勢が良く、制服の着こなしも完璧。周囲と適度な距離を保ち、笑顔の裏に余裕がある。
「あっちはだいたい育ちが良い」
「……なんとなく、分かります」
「だろ」
ケビンは小さく笑った。同じ廊下。同じ天井の下。けれど、空気は集団ごとに微妙に違う。その中を歩いていると、不意に周囲の視線がこちらに向く。
「お、ケビンじゃん」
「新入り?」
「隣、誰だよ」
声をかけてくるのは、体格のいい生徒たちだった。どれも悪意はない。距離の詰め方が雑なだけだ。
「俺のルームメイト」
「へえ!」
「よろしくな!」
軽く手を振られ、すぐに別れる。
「……知り合い、多いですね」
「まあな」
ケビンは特に誇るでもなく言う。
「昔から一緒のやつらもいるし、顔見知りも多い」
通路を進むにつれ、ざわめきは徐々に薄れていく。それでも完全に無人になることはない。どこかで誰かがすれ違い、学院が“動いている”気配だけは途切れなかった。やがて、ひときわ落ち着いた雰囲気の場所に出る。ケビンが足を止めた。
「ここから先、先生方の部屋が多い」
正面の扉を見上げる。装飾は控えめだが、妙な存在感がある。
「……マーリン先生の部屋?」
「ああ」
ケビンは一瞬だけ表情を緩めた。
「元々、俺らのトップだった人だ」
深い意味はわからなかったが、それは重みのある言葉だった。
「今は先生だけどな」
いつもの調子に戻り、ノックをする。
「変な人だけど、悪い人じゃねえ」
その言い方には、長年の信頼が滲んでいた。




