集団と邂逅
投稿遅くなってすみません!
今後、ペースは土曜日に1話から2話つづにしようと思います!
引き続き楽しんでいただけると嬉しいです、
学院の出入り口をくぐった瞬間、空気が変わった。天井の高い広間。石畳の床。行き交う無数の足音と声。笑い声、口笛、怒鳴り声までもが渦を巻いている。制服は同じはずなのに、雰囲気はまるで違う。体格のいい集団、静かに壁際に集まる影、明らかに空気の違う数人。――すごい。圧倒される一方で、胸の奥が、少しだけ浮き立つ。ここから何かが始まる。そんな予感がした。
「はいはい、観光終了」
その期待を、マーリンがあっさり切り捨てる。
「え、もう少し――」
「後で嫌ってほど見る。今は寮」
言い切って、さっさと歩き出す。振り返りもしない。俺は慌てて後を追った。
「……あの、さっきの人たちとか」
「関わるなら勝手にどうぞ。関わらないなら放っとけ」
「雑……」
「ここでは、雑なくらいがちょうどいいだよ」
軽薄な声。けれど、広間のざわめきから距離が離れるにつれ、胸のざわつきも不思議と落ち着いていった。
寮の入り口には、ひとりの青年が立っていた。浅黒い肌。がっしりした体格。遠くからでも分かる、場慣れした立ち方。
「お、来た来た」
マーリンを見るなり、にっと笑う。
「遅ぇぞ、元ボス」
「うるさいな。今は教師」
「はいはい」
軽口。だが、その間にあったのは、明らかな信頼だった。
「この子?」
「そう。常盤侑。今日からお前の相部屋」
「了解!」
青年は勢いよく手を差し出した。
「ケビン・リー。よろしくな」
「……常盤侑です。よろしくお願いします」
「固っ!」
笑い声が弾ける。
「じゃ、俺はここまで」
マーリンが、手をひらひらさせる。
「生活面は全部ケビンに聞け。問題起きたら――」
「俺に言え、だろ?」
「さすが元副長。話が早い」
「やめろ、その言い方」
文句を言いながらも、ケビンはどこか誇らしげだった。マーリンは一瞬だけ俺を見る。
「困ったら、無理すんな。以上」
それだけ言って、背を向けた。拍子抜けするほど、あっさりした別れだった。
「行こうぜ」
ケビンに促され、寮の中へ入る。廊下を進む途中、何度か声をかけられた。
「ケビン、新入り?」
「へえ、細っ」
「大丈夫か?」
どれも遠慮がなく、距離が近い。けれど、敵意はない。
「気にすんな」
ケビンが前を向いたまま言う。
「この辺は声デカいやつ多いだけだ」
「……そうなんですか」
「そうそう」
その軽さに、少しだけ救われた。
部屋の前で立ち止まり、ドアを開ける。室内は思ったより広かった。二段ベッドが1つ、机が並び、大きめのクローゼットまで置かれている。共同生活用に割り切られた造りだが、全く窮屈さはない。
「ベッド、上と下どっち?」
「……下で」
「了解! じゃあ俺が上な!」
即決だった。俺が荷物を下ろし始めると、ケビンはベッドに腰掛け、魔道具らしき端末をいじりながら話しかけてくる。
「ルキウスとここまで来たのか?」
「はい」
「あの人、変な人だろ?」
「……少し」
「ははっ、正直でいい!」
屈託のない笑い。
「でも悪い人じゃねーぞ。めんどくさいけど」
その言い方に、肩の力が抜けた。ほどなくして、ドアがノックされる。
「ケビン、新入り?」
「そうそう! 俺のルームメイト!」
数人の生徒が、ぞろぞろと顔を出す。体格がよく、声が大きい。
「後で歓迎会しようぜ!」
「なら後で食堂集合な!」
戸惑う間もなく、輪に引き込まれた。ケビンが、俺の肩に軽く手を置く。
「大丈夫だって」
軽い声。
「ここ、案外悪くねーぞ」
その言葉は軽い。けれど、不思議と、信じられた。
一時間後。マーリンの部屋へ向かう約束を思い出しながら、俺は気づく。胸の奥が、少しだけ楽になっている。――知らない場所。知らない人間。それでも。ここには、居場所があるかもしれない。そう思えた、その最初の理由が、このやけに明るい同室の男だった。




