Prologue No.3 〜Kevin Lee(ケビン・リー)〜
受験が近づいてきたので少し投稿頻度を落とさせていただきたいと思っています。
共テ・私大入試が終わり次第、また投稿頻度を戻そうと思います。
ご理解のほどよろしくお願いします!
腹が減っていると、頭より先に体が動く。考える前に、走る。奪う。殴る。それが、十歳の頃のケビン・リーの生き方だった。夕暮れの路地裏。濡れた石畳に、古いネオンの残光がにじんでいる。ケビンは壁を蹴って跳び、男の背後に回り込んだ。
「悪いな、おっさん」
一瞬だけ笑って、次の瞬間には財布を奪っていた。逃げる。追われる。喧嘩になる。それでも負けなかった。――自分には“力”がある。殴られても、倒れても、立ち上がれる。相手の動きが、少しだけ遅く見える。それが普通じゃないことだと、ケビンはちゃんと分かっていた。だから群れない。誰にも教えない。信じるのは自分だけ。
「……あ?」
その日も、いつも通りのはずだった。路地の奥に、ひとり、立っている影を見るまでは。白いシャツ。乱れた金髪。年上――十代半ばくらいだろうか。不思議なくらい、隙だらけに見えた。
「そこ、どけよ」
ケビンは挑発するように言った。いつも通りの、軽口。けれど、相手は眉ひとつ動かさない。
「へえ。じゃあ、通行料でも取る?」
声は穏やかだった。なのに――ぞくり、と背中が冷えた。
「……舐めんなよ」
先に動いたのはケビンだった。地面を蹴り、全力で間合いを詰める。拳を振るう。確実に当たるはずの一撃。――当たらなかった。
「……は?」
視界が反転する。気づいた時には、背中が石畳に叩きつけられていた。息が、詰まる。何が起きたのか、分からない。
「君も“持ってる”んだろ」
見下ろす影。その目は、驚くほど真っ直ぐだった。
「……俺と同じだ」
ケビンは歯を食いしばった。悔しい。怖い。でも、それ以上に――初めてだった。負けたのは。
「……殺すなら、さっさとやれよ」
強がって吐き捨てる。それでも、体は動かなかった。少年――マーリンは、小さく息を吐いた。
「殺さないよ」
「は?」
「そんな目じゃない」
差し出された手。ケビンは一瞬、意味が分からなかった。
「学院に来ないか」
「……はあ?」
「君みたいな子が、路地で消えるのは惜しい」
綺麗事だ、とケビンは思った。信じる理由なんて、どこにもない。それでも。――この人は、俺を“力”じゃなく、“人”として見てる。その感覚だけは、はっきりと分かった。
「……勝ったからって、調子乗んなよ」
ぶっきらぼうに言いながら、ケビンは手を取った。その手は、思ったよりも温かかった。
あの日。路地裏で敗北を知ったあの日から。ケビン・リーは、誰かの背中を信じて歩くことを覚えたのだ。
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