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二日目

翌朝。校門をくぐったアヤは、昨日の出来事を頭の隅に押しやろうと深呼吸した。

「今日こそは普通でありますように……」

そう願った矢先、視線の先に異様な光景が飛び込んできた。

ベンチに腰掛けていたのは、学校一の美少女キョウコ。

モデル活動もしていて、容姿だけでなく誰にでも分け隔てなく接する性格の良さでも知られる人格者だ。

だが今朝の彼女は、スカートの中が丸見えになるほど足を広げ、

片手で鼻をほじりながら退屈そうに空を眺めていた。

アヤは目を疑い、胸がざわついた。

「……あの、キョウコさん……恥ずかしいって思ったりは……しない?」

キョウコは鼻をほじったまま、ふっと笑みを浮かべる。

「あら?アヤちゃん、恥ずかしいって新しい流行語?どんな意味か教えて?」

そう言って、指先から取れた鼻くそをその場でぽいっと捨てた。

その仕草は、まるで何の特別さもない日常の一部のように自然だった。

アヤは顔を赤らめ、慌てて首を振る。

「あ、いえ……ごめんなさい、なんでもなかったです!」

言葉を残すや否や、そそくさと教室へ駆け込んでいった。


午前の授業は、昨日とは違い普段と変わらず進んでいった。

黒板に文字が並び、ノートを取る音が響く。

アヤは少しだけ安堵しながら、昼休みを迎えた。

食堂。ざわめきの中、アヤはユイと並んで昼食をとっていた。

ふと、昨日の光景が頭をよぎり、箸を止める。

「ねえ、ユイ……昨日、あなた外で裸になったけど……なんでここではそんな人いないの?」

ユイは口にしていたパンを飲み込み、目を丸くしたあと、ケラケラと笑った。

「え?だって校則で決まってるからじゃんw」

アヤは瞬きを繰り返す。

「校則……?」

ユイは肩をすくめ、楽しそうに続けた。

「そうそう。学校内では制服着用って決まりがあるでしょ?ここエアコン弱いから本当は脱ぎたいんだけどね~」

その無邪気さに、アヤの胸はさらにざわめいた。

羞恥心は存在しないのに、規則は現実と同じように守られている

――脳が理解を拒み、アヤの頭を混乱させていった。


放課後。

ユイに誘われ、アヤは町へと足を運んだ。

夕暮れの街並みは人々で賑わい、買い物袋を提げた主婦や制服姿の学生が行き交っている。

ふと視線の先に、若い男女の姿があった。

二人は人目もはばからず、歩道脇で体を重ねていた。

周囲には通行人がいるのに、誰一人として足を止めない。

視線を向ける者も、驚く者もいない。

まるでそれが日常の一部であるかのように、街は流れていた。

アヤは思わず立ち止まり、声を震わせた。

「ちょ、ちょっと……あの人たち、やばいっしょ!?」

ユイは振り返り、きょとんとしたあと、ケラケラと笑った。

「何で?ホテル代節約してるだけでしょ?なんか最近のアヤ、大げさすぎw」

そして、肩をすくめながら続けた。

「でも、通行の邪魔になるから別の所でやってほしいよねw」

その無邪気な笑顔に、アヤの背筋に冷たいものが走った。


二人はゲームセンターへ入った。

中はエアコンが強く効いていて、アヤは少し肌寒さを覚える。

やがて、急にトイレへ行きたくなり、ユイに断りを入れて奥へ向かった。

扉を開けると、仕切りのない広いトイレが広がっていた。

そこでは一人の男性が、何のためらいもなく用を足していた。

隣の便器は空いている。

アヤは一瞬ためらった。

「……どうしよう……」

羞恥心が胸を締め付ける。

だが、もう我慢できそうにない。

意を決して便器に腰を下ろすと、隣の男性はちらりとも視線を向けない。

淡々と自分の用を済ませ、尻を拭き、流し、手を洗ってそのまま出て行った。

「……なんで、こんなことになってるの……」

アヤは頭を抱え、便器に座ったまま小さく震える。

トイレから出てきたアヤは、まだ胸のざわめきを抑えきれずにいた。

ユイのもとへ戻ると、強い調子で言った。

「ユイ……ここを出て、ファミレスに行こう。話したいことがあるの」

その声はいつになく硬く、半ば強引にユイの腕を引いた。

驚いたユイは「え、なに急に?」と笑いながらも、抵抗せずについていく。


二人はファミレスに入り、窓際の席へ腰を下ろした。注文を済ませると、

アヤは深く息を吸い込み、これまでの出来事を一気に語り始めた。

昨日の授業での出来事、プールでの話、ユイが突然服を脱ぎだしたこと、

今日見たキョウコの姿、街で見た男女、そして仕切りのないトイレでの体験――。

どれも自分には理解できないということ。

ユイは最初、口元を押さえて笑った。

「アヤってば、私をからかってるんでしょ?そんな真面目な顔して冗談言うなんて珍しいねw」

だが、アヤの表情は冗談を言う時のそれとはまるで違っていた。

眉を寄せ、唇を震わせ、必死に言葉を紡ぐ姿は、からかいとは程遠い。

「……私の中の常識では、人前で裸になったり下着を見せつけたりなんてしないの。

恥ずかしいって気持ちがあって、そういうことは出来ないし……見たくもないんだよ」

ユイはスプーンを持ったまま、しばらく黙ってアヤを見つめていた。

やがて、少し困ったように笑みを浮かべる。

「恥ずかしいって気持ちは……正直、分かんない。でも、アヤが真剣に悩んでるのはわかるよ」

その声は、からかいではなく真剣な響きを帯びていた。

「だからさ、明日お医者さんに相談してみたらどうかな?アヤが安心できるなら、それが一番だと思う」

アヤの胸に温かいものが広がった。

自分の言葉を笑い飛ばすのではなく、真剣に受け止めてくれた――その事実が、心に深く染み込んでいく。

「……ありがとう、ユイ……」

気づけば、アヤの目から涙がこぼれていた。

友人が自分を信じてくれたことに、どうしようもなく感謝の気持ちが込み上げてきたのだ。

ユイは少し慌てながらも、優しく笑った。

「泣かなくてもいいじゃん。大丈夫、私も一緒に考えるから」

ファミレスのざわめきの中、二人の間だけが静かに切り取られたように感じられた。


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