二皿目『太陽のオレンジタルト』
◇◇新しい日常◇◇
チュンチュン と窓の外から小鳥の鳴き声がする。カーテン越しに柔らかな日差しを受けて、アシュリーはゆっくりと瞳を開いた。
抱き合うようにして寝ているのは、真っ黒な髪のギル。今日もアシュリーの体をしっかりと抱き込んで グッスリ眠っている。こうやって目を覚ますのも、最早 日常だ。それはやっぱり、日が暮れると呪いによって狼の姿に変わってしまうせいが、大いにあるとアシュリーは思っていた。
小さな子狼となったギルは大変に可愛く、初日に 何となく一緒に風呂へ入り、同じベッドで眠ってしまってから、当然のように それが繰り返された。本来で有れば、臣下と共に同じベッドに入るなんて、飛んでもない事であるが、ギルの境遇を気の毒に思ってか、叱らなければならない筈のエリックも、特に咎めたりはしなかった。元々、平民生まれで傭兵育ちのエリックが、行儀作法に寛大だというのも手伝って、ギルは臣下というよりアシュリーの友として振る舞うようになっていた。
子狼になったギルと暖かなベッドに入り、目が覚めると 少年姿のギルになっている。もし、最初から少年姿だったら、アシュリーは同じベッドに入ろうとは思わなかっただろう。人から狼の姿に変わる時、着ている服は影響を受けないので、当然 裸になってしまう。人から狼になる分にはまだ良いが、狼から人になる時は注意が必要だ。
自分だけ裸、というのが嫌で ギルはアシュリーよりも早く目覚め、エリックと共に使っている部屋へ着替えを取りに行きたいと思っているのだが、日中、このホコリだらけの豪邸を エリックとたった二人で掃除している為、疲れ果てグッスリと眠り込んでしまい、1度としてアシュリーより先に目覚めた事は無かった。
そして本日も、アシュリーはギルより先に起き、重たいギルの腕を解く事から1日がスタートする。
「おはよう、ギル」
細い癖に力の強いギルの腕を外そうと、ゴソゴソしてる内に流石のギルも目を覚ます。薄らと目が開き、真っ白な瞳が現れる。アシュリーから朝の挨拶をされ、ギルは「ん」とひとつ頷くと、パッと体をアシュリーから離しスタスタと隣の部屋へと行ってしまった。
そしてすぐに護衛のエリックがやって来る。
「おはようございます、アシュリー様。今朝も早いですね、」
朝の挨拶をしながら、アシュリーの部屋のカーテンを開けていく。アシュリーは朝が強く、エリックに起こされる前に いつも起きていた。その代わりと言っては何だが、日が暮れ、宵闇が広がると眠くなってしまう。
◇◇オレンジの木◇◇
エリックが作る美味しい朝食を、ついつい お腹いっぱい食べてしまい、アシュリーはボンヤリしていた。ダルトンに釣られたと云うのもある。アシュリーの師であるダルトン・ウォーマー子爵は、アシュリーよりも食べてエリックに冷や汗をかかせていたのに、朝から大食いしたとは思えない様子で研究に没頭していた。
散々と太陽の日差しが入る、積み上がった本に囲まれた研究室。ホコリがキラキラと舞う中、あの細い体のどこに入るのだろう、と観るともなくダルトンの方を向いていると、視線に気がついたダルトンが アシュリーを振り返る。ダルトンは初日に「見て覚えろ」と言った通り、アシュリーに何かを指導する素振りは無かった。元来、社交的で無い上に、元敵国に移住し、周りの人間との交流もさほど無い。友人の頼みで無ければ絶対に引き受け無かっただろう。仕方なくアシュリーを受け入れたが、その扱いは放置に近かった。
しかし、アデルバード王国から逃亡を謀る為だけにやって来たアシュリーとしては、その扱いに何の不満も無かった。むしろ、熱心に勉強しなくて済んで喜んでもいた。
そんな2人は、日がな一日中同じ研究室で過ごして居たが、特に諍いも無く、付かず離れずの関係だった、そして、たまにダルトンの”お願い”を聞くのが、アシュリーの唯一の仕事だ。
「アシュリーくん、この種をお願い出来ますか?」
「ええ、勿論!」
椅子に座ってボンヤリしていたアシュリーは、慌てて パッと立ち上がり、敬礼の仕草をしてダルトンから『種』を受け取った。直ぐにガラスドアを押し開け、外――庭にある畑へと向かう。
外気は暖かかった。寒い冬がようやく終わり、春節が始まっても 上旬はまだまだコートが手放せなかったが、最近は薄手のカーディガンだけで問題無い。キョロキョロと 空いているスペースを見つけると、アシュリーは土を掘り起こし、そこへ種を置いた。軽く土を被せ、詠唱を始める。途端、埋めた場所を中心に金色の魔法円が浮かび上がる。ポカポカ陽気のせいか、朝食を食べ過ぎたせいか、アシュリーはいつもより長く詠唱してしまった。普段はまず、芽出させ、それから膝位の高さまで成長させた後に、ダルトンにどこまで成長させるか聞くのである。
ダルトンは、長くひとりきりで研究を行って来た。種を交配し、その成長を記録する。実や葉、枝にまで注意深く観察し 煮たり焼いたり煎じたりして、人体に影響を与える薬を作る。その事を聞かされていたアシュリーは、祝福である『豊穣』を使えば一瞬で 種を成樹させてしまう為、ダルトンが記録をとれるように、細かく成長させる様にしていた。
しかし、ちょっとボンヤリしている内に、種は 艶々の実をタップリと茂らせる成樹になってしまった。
「あ………」
後悔しても後の祭りである。まあ、こんな事くらいではダルトンは怒らないのだが、唯一の仕事を失敗してしまった気分になったアシュリーは、すごすごと、中に居るダルトンに声を掛けた。
「先生、すみません…。少し、成長し過ぎてしまって…」
アシュリーの声に気付いたダルトンが、ヒョイと外へと目を向ける。
「おお…、これは中々 善いですね。」
しかしダルトンは、思った通りに近かったのか、満足そうな顔をして、アシュリーの側にやって来て、日差しを浴びるオレンジの木を見上げる。
「…記録、録れなくなってしまって すいません」
えへへ、と情けない顔でアシュリーが笑うと、オレンジへと手を伸ばしたダルトンが答える。
「構いませんよ、そりゃ、記録はあるに越した事はありませんが、大事なのは『成功』させる事ですから。」
両手でその実を確かめる。
「私ひとりでは、種ひとつ交配しても、『結果』を得る為には長い永い 時間が必要です。でも今は、アシュリーくんと云う素晴らしい助手に恵まれ、こうして直ぐに成果を得る事が出来る。思った結果にならない事は、当然ながら多いですが、しかし直ぐに対処して新しい試みを行える。こんな素晴らしい事はありません。」
初日、アシュリーの祝福を観た時と同じように、ダルトンはキラキラした瞳でそう言った。いつの間にか、生徒としてやって来た筈なのに 助手になっている。
「へへ…お役に立ててるなら、嬉しいです。」
アシュリーが落馬して前世の記憶、雪里 廻の記憶を取り戻してから、どうやって逃亡するかばかりを 考えて過ごして来た。この先の ”敷かれた路” を自分が歩いて行けるとは思えない。三大公爵家の嫡男としては、だいぶ甘やかされて育ったが、それでもマナー教育や当主教育は大変だった。魔法もよくある属性だし、一目置かれる筈の祝福も『豊穣』と云う、攻撃性の無いものだった。
もし、攻撃特化である火魔法や水魔法で、祝福が攻撃性の強いものであったら、アシュリーは国外に出して貰えなかっただろう。
それ程、アデルバード王国は『強さ』を求める。
幾ら祝福とは言えど、次代当主が 土いじりをするのを良しとされず、アシュリーは祝福を殆ど使わずに生きて来た。まさか、逃亡先で こんなに重宝されるとは思わず、ニヤニヤが止まらなかった。
(僕は、こういう、のんびりした生き方があってるんだ)
「うーん、もう少し、色味が強く出る筈だったんですがね…」
アシュリーの隣でダルトンが独り言を呟く。手にある実は大きく、皮は太陽を浴びて艶々していて、充分そうに見える。食べなくては、甘いか 酸っぱいかは、解らないが。
「美味しそうに見えますけど…」
アシュリーは思わず、そう呟いていた。
「…ふふ。『豊穣』を与えられたオレンジですからね。きっと甘いでしょう。――しかし、私は最後のピースが欲しいんですよ。」
「…最後の、ピース…?」
キョトンとしたアシュリーに、いたずらっ子みたいな顔になったダルトンが問いかける。
「私、幾つに見えますか?」
突然、脈絡の無い質問にアシュリーが面食らう。
「え? えーと…、父上と同じくらいに見えますから…30歳前後、くらい…ですか?」
それでもそう答えると、ダルトンは笑みを深くした。
「私は、もう五十を超えています。」
「ええ!」
お世辞では無く、ダルトンは細身で肌ツヤも良く、若々しく見える。下手をしたら二十代でも通りそうな風体だ。
「う、嘘でしょう?とても信じられませんよ!」
「私は昔、全然違う研究をしていたんですけどね。ある時、王政に加わるように言われまして、そこから人体に対する研究をするようになりました。」
ピチチ…、と 小鳥が飛び立った青空へ目を向けながら、懐かしむようにダルトンが言う。
「囚人や死刑囚は、あの頃、沢山居ましたから、実験も捗りました。しかし、学者足る者、自分が作った薬は自分で験さねば気がすみません。」
「え…まさか、それで――せ、先生は『不老不死』なんですかッ?!」
廻だった頃、良く読んだ漫画には、そういう設定もあったし、この世界でも『不老不死』は皆が血眼で探す奇跡だ。
「いいえ、見た目が変わらぬだけですよ。中身は だいぶ、ガタがきてます。惜しい、所までは行ったんですけどね。」
それでも、物凄い事だ。見た目が変わらないのなら、ずっと同じ所に居られないだろう。唖然としてアシュリーがダルトンを見ていると、ポツリと言葉が落ちた。
「まあ、彼女はソコまでは、望まないでしょうけれどね…。」
「先生…」
ザアアと風が吹き、たわわに実ったオレンジを揺らす。それきりダルトンは黙り込み、アシュリーは いくつか実をもいで、エリックに渡した。
◇◇ダルトン・ウォーマー◇◇
服の裾を持ち上げ、袋のようにしていくつも運んで来たアシュリーを見て、「行儀が悪い」と注意したエリックも、瑞々しいオレンジを受け取り ニッコリと笑った。ギルはそのまま齧り、エリックに叱られた。
何となく、あの場から退散してしまったが、ダルトンの側に居た方が良かっただろうかと、アシュリーは気に病んだ。遠い目をするダルトンは、1人になりたい空気を出したような気がして、”エリックに渡してくる”と言い残し、その場をソッと離れた。しかし、あんな事を話すと云う事は、かなりアシュリーに気を許している現れであり、もしかしたら弱音を吐きたかった可能性もある。…決してそんな風には見えなかったが。
後からその可能性に気がついたアシュリーは、続きを促せば良かったのか?と思い悩み、気まずさから 研究室には戻らず、食事の支度をするエリックの後ろの椅子に陣取った。
危惧したような事は無く、いつも通りの顔でダルトンは食事室にやって来た。
ダルトンはこの国、サイラス王国に移住して五年、少なくない使用人を雇って来たが、その誰もが長続きせず この屋敷を去った。他国、元敵国であるダルトンに、良い感情を持っていない事を棚に上げても、ダルトンは気難しく自由で、研究に没頭すれば周囲の意見に耳を貸さない。その振る舞いについていけず、皆 一様に去って行ってから、ダルトンはマトモな食事を摂る事が難しくなった。いつ買ったか分からぬ固くなったパンに、食材のない食料庫、缶詰をチビチビ食べる生活になった。
たまに隣人がお裾分けを持って来てくれるが、毎日という訳にはいかない。自分のせいとはいえ、ほとほと嫌になった頃に、料理人が現れた。
護衛だと云うその男は顔は優しげだが 図体がデカく、筋肉も満遍なくついており、フォークやナイフよりも、大剣やナタの方が良く似合う。紳士的ではあったが、その性根の荒々しさが透けるようで、ダルトンは最初、なんの期待もして居なかった。
それが、エリックが作った食事をひと口食べて、雷に撃たれたような衝撃が走った。ダルトンは産まれもっての学者気質であり、寝食よりも読書や実験を優先する。食事にもあまり興味が無く、大富豪である子爵家の食卓には 毎日素晴らしい料理が並べられたが、「おいしいな」くらいの感想しか持っていなかった。
子爵家から離れ、食べたり食べなかったりの食事のせいで、味覚が飢えていたのを差し引いても、エリックの料理はダルトンに衝撃を与えた。以来、呼ばれる前に食卓につき、ティータイムすらも楽しみにしている。それ程 エリックの料理に入れ込んでいると知らないアシュリーは、時間通りに食事室に現れたダルトンを見て、ホッと息をついた。
食後は いつも通りダルトンが温かい珈琲を淹れてくれて、それを飲んでから研究室に二人で戻った。続きの話をする素振りは無く、その後、ティータイムになるまでダルトンは研究に没頭していた。
「わあ、綺麗!」
ギルがホコリだらけになりながら、数日かけて使えるようにしたサンルームで、二人は向かいあってテーブルについた。そこには大きめにカットされたオレンジタルトが高そうなお皿に 堂々と乗っていた。
サクサクのパイ生地に外壁を包まれ、上部には蜜がタップリ浸かったオレンジが黄金色をして敷き詰められている。日差しを受けてキラキラと輝くそれに、アシュリーは感嘆の声を上げた。
公爵家に居た時は、浅からぬ因果があるエリックでも、その他大勢の兵士のひとりでしかなかった。兵士の仕事は外敵から主人を護る事だ。警備やお供の護衛以外の時間は 殆ど鍛錬に費やし、食事は公爵家のシェフが作る。その為、エリックの料理をアシュリーは食べた事が無かった。
旅路では宿屋で食事をしたし、ダルトンの屋敷には何人かシェフも居ると 当然ながらそう思っていたので、まさか本当にひとりきりで住んでいるとは思わなかった。そして直ぐに気になったのは食事をどうするのか 、という問題だ。
半分、子狼であるギルがご飯を作れるとは思えないし、アシュリーは昔も今も、湯を沸かすくらいの事しか出来ない。しかし食べる事は好きだった。祝福が影響しているのかも知れないが、廻の趣味も食べ歩きだったので、関係無く 食いしん坊なだけかも知れなが。
エリックが「自分が――」と言い出した時も、疑念は消えなかった。エリックは元傭兵だ。それをどうこう言うつもりは無いが、鍛錬に明け暮れるエリックに美味しい料理が作れるとは、とても思えない。最初の食事は、ダルトンと云う知り合ったばかりの他人に気を取られ、良く味わう暇が無かった。どんなに不味い料理が出ても、アシュリーは絶対に「美味しいよ!」と言ってやる覚悟を固めていたのに。
結果、それは全くの杞憂だったのだ。
エリックは素晴らしい食事を作り続けた。
今ではこうして、ティータイムのケーキまで作るようになっている。
サクリ、とフォークを入れるとパリパリと音を立ててパイ生地が崩れる。宝石のようなオレンジの果肉の下の層にはカスタードクリームが見え、甘い香りに期待が膨らむ。
ぱく。
口の中いっぱいに優しい甘さと、オレンジのフレッシュな香りが広がる。果肉の食感と、皮の少しの苦味。美味しい!丁度良く焼けたパイ生地は サクサクで芳ばしく、オレンジを浮かべた紅茶にも良く合う。
ニコニコしながらアシュリーがオレンジタルトを頬張って居ると、ダルトンはオレンジタルトを前に拝んでいた。心からの感謝を神に祈って居るのかも知れない。
「これは、まだありますか?」
欠片ひとつ残さず食べ、丁寧にナプキンで口を拭いながら、側に控えるエリックに ダルトンが問いかけた。
「お代わりですか? ええ、勿論ありますよ」
最初、線の細いダルトンが、想像以上に食べる事を知り、驚いたエリックだったが、今ではちゃんと多めに用意してある。しかし、たまに、それでも足りなくなり顔色を失う事もあるが。
「お代わりは――勿論、貰いますが。そうではなくて、これを友人に食べさせてやりたいのです。」
使用人にすら見限られるダルトンの口から『友人』のワードが出た事に、アシュリーだけでは無くエリックですら驚いた。
(お友達、居るんだ!)
「アシュリーくん、顔に出ていますよ。」
ジロリと睨みながら、「私にだって友人のひとり2人くらい…」とブツブツ零す。
「ヤダなぁ、先生。そんな事思っていませんよぅ」
アハハとアシュリーが苦笑いを浮かべる。
「フォルマー様、いつ必要ですか?それまでに また焼いて置きますよ。」
執り成すようにエリックがダルトンに問いかける。
「――今日。今から向かうつもりです。」
思い立ったが吉日――アシュリーは心の中で廻だった頃のことわざを思い出していた。
「…今からですか?タルトはもうひとホール有りますが…、日暮れの移動は危険ですよ。」
どこまで行くつもりか解らないが、宵闇は盗賊や狼が彷徨く時間帯だ。ただでさえ、他国の人間であるダルトンが「ちょっとそこまで」と出掛けて良い時間では無い。
しかし、人の注言を聞かぬ事に定評のあるダルトンは、こうと思ったら誰の言葉も届かない。瞬間移動出来る魔法円を、互いの家の庭に設置してあるので、問題無いと言ってエリックにオレンジタルトの用意をさせた。
接続してある魔法円同士は、確かに瞬間移動出来るが、それには大量の魔力を使ってしまい、下手をすれば数日動けなくなるほど、魔力枯渇を引き起こしてしまう。その為、専属の魔術士が数名待機している場でしか使わないのが暗黙のルールだった。
間違いなく、思い立った散歩で使っていいものでは無い。
「電石…ですか?」
心配するアシュリーに、「秘密ですよ」と他言しないように約束させてダルトンは説明しだした。
「ええ。ここは魔法使いの国アデルバードとは違い、魔法の無いサイラス王国です。この国は魔法の代わりに『錬金学』が進歩しました。それはまた後々 お教えしますが…」
そこまで言って、今まで何一つ アシュリーに授業をした覚えが無い事に思い至り、ダルトンは苦い顔になった。
「――サイラス王国では魔力の代わりに『電気』が使われています。魔肝のように生まれ持った体内の器官では無く、物質を変化させ、機械によって作られた、まあ、外付けの魔肝みたいなものです。それは雷石と呼ばれ、電気を貯めておく容器なんですよ。そこに私は毎日少しずつ魔力を貯めていました。それを魔法円に組み込むので、魔力枯渇の心配は有りません。」
淡々と説明するダルトンに、アシュリーは(電気なら解るけど…)と心の中で思いつつも、”魔力が貯めて置ける” と云う言葉は信じられなかった。
魔肝は体の器官のひとつで、骨髄が血を作るように、魔肝が魔力を作り、それを詠唱する事により体外へ取り出して使う。
『貯める』と云う発想が、そもそもアデルバード人には無い。
「そ、そんな事、可能なんですか?」
「私もここに来るまでは思いもしませんでした。ですが、雷石を観ているうちに思いついたのですよ、私 天才なので。」
どこかのドラマのセリフみたいだと思いながらも、アシュリーは頷く事しか出来なかった。心配な気持ちは嘘では無いが、正直、その雷石を使って瞬間移動してるサマを観たい気持ちもある。しかし、庭の隅に頑丈な建物を立てて隠してある魔法円は見せて貰えなかった。
「これは友人との約束なので。」
そう言って、まだ温かいオレンジタルトを抱え、ダルトンは扉の向こうへと消えた。




