第6話 明日の私
マカロニさんの作ったオーロラの道を通り病院へ向かっている。
ジャンさんはいないから自分で車椅子を動かしている。
「マカロニさん、この道落ちませんよね?」
「もちろんでぐぁ。 端に寄っても落ちないので安心して下さいぐぁ」
よかった……。
「もう直ぐ到着ぐぁ。 玲子さんにはお世話になったぐぁ」
「私の方こそマカロニさんやサラさんにお世話になりました」
「とんでもないぐぁ! 国だけでなく王子様まで助けていただけて……感激ですぐぁ」
「泣かないでよ、マカロニさん」
「いやあ、嬉しくて嬉しくて……グス……」
マカロニさんは泣きながら道を作って進んでいく。
「到着しましたぐぁ」
「ありがとうございます……、それよりどうやって部屋に入ればいいんですか?」
「……」
私は車椅子……。
窓から入るには車椅子を持ち上げないといけない。
ジャンさんなら魔法で出来たけど、今はマカロニさんと私だけ……。
マカロニさんもちょっと困り顔……。
すると、鍵が現れ光りが私を車椅子ごと浮き上がらせて病室へ入ることが出来た。
「え!? どう言うこと?」
「そうでした! 忘れていましたぐぁ! その鍵がある内は魔法が使えますぐぁ」
「私が魔法を?」
「そうですぐぁ。 しかし、鍵は消えかかっているぐぁ。 早く魔法でお願いを言うぐぁ!」
「え!? お願い!?」
「そうぐぁ! 女王様が言っていたぐぁ、魔法の鍵がある内は、玲子さんの願いが叶えられるって言ってたぐぁ!」
「そんな! いま言われたって思いつかないよ〜!」
鍵の光りが消え始めていた。
何をお願いすればいい? 必死に考える。
両親の離婚をなくす? 車に轢かれるのをなくす? 公園から飛び出す子供を助ける?
頭が混乱してわからないよーー!
そうだ! 足! 私の足を治せば!
「決まったわ! 私の足を治して!」
願い事を叫ぶ直前、光りは消えて鍵は消えてしまった……。
そんな……、……私のお願いは叶わなかったの……?
「玲子さん、残念ですぐぁ……。 しかし鍵が消えてしまった以上もう魔法は使えないぐぁ……」
「そっか……仕方ないよね……」
「玲子さん申し訳ないぐぁ……。 私が遅かったばっかりに……」
マカロニさんは土下座をして謝ってきた。
「マカロニさんのせいじゃないよ。 大変な旅だったけど、楽しかったし」
「そう言っていただけると……ありがとうございますぐぁ……、……鍵が消えてしまったので、オーロラの国との繋がりがそろそろ無くなってしまいますぐぁ……私はそろそろ私も戻りますぐぁ」
「また会えるかな?」
「それはわからないぐぁ……でもそうなるといいぐぁ」
「うん!」
マカロニさんは手を振ってオーロラの道を戻って行く。
そのオーロラの道は時間と共に消えていった。
これで私の冒険は終わった。
ベッドに戻り、冒険やジャンさん、マカロニさんなどお世話になった人を思い出しながら眠った……。
「おはようございます。 朝の健診の時間ですよ」
看護師さんが入ってきて朝の健診をおこなう。
異常は無し。
今日もいつもと同じ毎日が始まる。 そう思っていたけど今日は違った。
病室の扉がノックされる。
親が面会に来るのはまだ早い時間のはずだし、健診はさっき終わったばっかり……誰だろ?
「どうぞ」
扉はゆっくりと開き、入って来たのは知らない男性……。
「え? どちらさま?」
「あ、ご、ごめんなさい。 僕は……、……貴女を轢いてしまった者です……」
なんと今までお見舞いには来てくれていたけど、顔は一度も見たことの無い……私を轢いた人。
「面会にはまだ早いと思いますけど?」
「……本当に申し訳ない!」
その男性は深々と頭を下げ、ひたすらに謝ってきていた。
「大丈夫です。 気にしないでください。 顔は初めて見ましたけど良くお見舞いには来ていただいていたようですし、そんなに思い詰めないでくださいね」
「あ、ありがとうございます。 あの、これを……」
その男性は梨の入った果物のカゴ、そして黒猫のぬいぐるみを渡してきた。
そのぬいぐるみはシルクハットをかぶり、杖を持っている猫のぬいぐるみ……。
私はこのぬいぐるみを知っている。
「あの、このぬいぐるみは?」
「えと、黒猫は福や魔除けの象徴とされているらしいので……、早く足が治りますようにと思いまして……」
「そうなんですね、ありがとうございます」
「それでは早くから失礼しました。 またお見舞いに来ます」
「今度はペンギンのぬいぐるみがいいです」
「ペンギンですか? わ!わかりました」
「クス、冗談ですよ。 ぬいぐるみありがとうございます。 大切にします」
その男性は会釈をして病室を出て行く。
あ!名前聞くのを忘れちゃった……。
今度来たらいきなり話しかけてみようかな? 多分合ってると思うし……。
それからその男性はちょくちょく顔を見せてくれるようになり、思ったより早く足が完治してお医者さんを驚かしていた。
あの願いは叶っていたのかも知れない。
退院の日、前日によく振った雨は止み、退院日よりとなった。
晴れてよかった。
そして男性が気を遣ってくれて車で家まで送ってくれると言うのでお言葉に甘えさせてもらった。
親は先に車まで行く、その車に向かって自分の足で歩いていると、陽の光に反射した輝く水たまりは空を映し出し、オーロラの国を映し出した……ような気がするな。
私は空を見上げて一夜の夢を思い出していた……。
読んでいただきありがとうございます。
これで最終話となります。