第3話 黒い影
オーロラの国で呪いにかかった王子を目覚めさせる為に連れてこられた私は、黒猫のジャンさんと一緒に鍵を探し一つ目の鍵を手に入れた。
「次の場所ってどこにあるんですか?」
「さっきの場所は南にある遺跡だったからね。 最初は東、つまり西と北にあると私はふんでいるよ。 そして今向かっているのは西の遺跡さ」
遺跡へ到着し、洞窟の奥へと進むと突然辺りが光り輝く。
「きゃ! 眩しっ!」
眩しさが無くなりそっと目を開くと、また場所が変わっていた。
「ここって……?」
そこは私の家の中。
クリスマスツリーが光り輝き部屋には装飾がされていてこれからパーティーでもするように見える。
「あなた、装飾はそのくらいでこっちを手伝ってくださいな」
「ああ、わかった。 玲子はこれを見たら驚いてくれるかな?」
「そうね、私だって腕によりをかけたんですから」
「そうだな、ママの料理はいつも美味いからな」
「いやですよ、ほらそんな事より玲子が帰ってくる前に」
「そうだな」
私の両親が仲良くクリスマスの準備をしている……。
私は前のめりになりながら知らず知らずのうちに涙を流していた……。
手を伸ばしてもその光景には手が届かない……。
そう……、両親は私が幼い頃に離婚していた。
だからこの光景は嘘の光景だ……。
だけど、だけど…………。
両親がまだ一緒ならこの光景のようになっていたのだろうか?
両親に甘えて、クリスマスを一緒に過ごせていたのだろうか?
私は仲の良い両親の光景が消えるまで見つめていた……。
そして気がつくとジャンさんは普通に私の車椅子を持って背後にいる。
「あの、わたし……」
「鍵を手に入れられましたね」
「え?」
ジャンさんは笑顔で私を見つめていた。
そして私の手にはオーロラのように輝く鍵が握られていた。
「あのジャンさん」
「なんですか?」
「さっきの光景って……? 私の両親が……」
「……そうですね……さて、次の鍵も探しに行きましょう」
ジャンさんはその話題には触れず、ゆっくりと車椅子を押してくれた。
次は北の遺跡だ。
だけど私は怖くなっていた。
またあんな光景を目にするかもしれないからだ。
私の心の奥にしまい込んだ記憶……。
見る光景の私が幸せであればある程、心が痛む……。
行きたくないとジャンさんに言えず北の遺跡へと着いてしまった。
その遺跡に触れると、また私の過去の世界に迷い込んだ。
眩しい日差しに照り付ける太陽。 蝉が激しく鳴り、熱い空気が私の喉を通る。
小さな子供達が元気に走り回っている真夏の公園に私はいた。
見た事ある公園……。
公園なんてどこも似たようなものと思うけど何か気になる公園だ。
「ジャンさん、ここはどこですか?」
場所について聞こうと後ろを見ると、ジャンさんはやはりいない。
公園をキョロキョロしていると、遊んでいた子供達のボールが公園から道路まで飛び、道路の反対側まで転がってしまったボールを追いかけて私の横を走って行く子供に向かって私は叫ぶ!
「あぶないっ!!」
私の叫びに驚いた子供は公園の入口で止まり、その直ぐ前を車が通って行く。
かなりヒヤヒヤした……。
私が叫ばなければぶつかっていたんじゃないか?
車が過ぎ去り、ちゃんと車が来ない事を確認した子供はボールを取りに向かう。
その先には……私?
そう、私が歩いてボールを拾って子供に渡していた……。
そうだ! 思い出した!
私はこの場所で事故に遭っていたんだ!
さっきの車がもしかしたら……。
私は普通に友達と楽しそうに歩いて行く自分の後ろ姿をジッと見つめていた……。
その時ふと上空で黒い影が消えるのを見た気がする。
あれは……ジャンさん? 似てるような気がしたけど……。
自分が見えなくなると周りの景色が薄くなり始め、遺跡へと戻っていた。
「お帰りなさい。 よく戻られましたね」
ジャンさんはそこにいて、車椅子を引いていた。
「あの、ジャンさん」
「なんですか?」
「さっきあの場所にいませんでしたか?」
「おや? 何か見えましたか?」
「はい。 空中に浮かぶジャンさんに似ている黒い影が……」
「そうですか……見えてしまいましたか……」
ジャンさんは車椅子からそっと離れ、私の前に回って来た。
「あれは私であって私ではない存在です」
「ジャンさんであってジャンさんではない?」
「そうです」
「それじゃあれはなに?」
「あれは……、玲子さんの心です」
「私の心?」
「はい。 玲子さんの負の心とでも言えばいいでしょうか……、……玲子さんがこうなって欲しい、こうだったらいいな……そう言う心が生んだ光景です」
「私の負の心……」
確かにそう思った事もあった……。
でも今はもう大丈夫なはず……はずなのに……。
手には勝手に力が入り、頬を伝う涙が全然大丈夫では無いと物語っていた……。
「これで鍵はそろいました。 お城に参りましょう」
ジャンさんはまだうつむいてしまっている私を連れて一言も話す事なくお城へ向かった……。
「これで王子様の呪いは解けるの?」
鍵を集めたのだから王子の呪いを解いて私の役目も終わり……、マカロニさん、サラさん、それにジャンさんに会えなくなっちゃうのかな……?
1人でまたあの病室へ戻るのかと思うと……少し寂しい……。
「そうですね……、解けるといいですが……」
歯切れの悪い言い方。
「玲子さんはこちらで少しお待ちください。 準備をして来ます」
「わかりました……」
1人ポツンと置いて行かれてしまった……、……1人になると幸せそうな自分を思い出してしまう……。
私自身はもう過去の事として吹っ切れていた……と思っていたのになあ……。
私って本当はあんな風に思っていたのかしら……。
1人思い詰めていると、パタパタと走ってくる足音が聞こえてくる。
「玲子さ~ん! ここにいましたぐぁ!?」
「マカロニさん!? どうしてここに?」
「ジャンから鍵を集め終わったと聞きましたぐぁ! それで玲子さんがここで待っていると聞いて来たんぐぁ」
「そうでしたか、それでジャンさんは? 何か準備があるとかでどこかに行っちゃいましたけど?」
「……ジャンは今、女王様と話してるはずぐぁ……、……王子様が目覚めることはこの国の願いぐぁ……、でも……」
「でも?」
「……これ以上は私の口から話す事じゃ無いぐぁ。 玲子さんは王子様の呪いを解くために祠に来て欲しいぐぁ」
「わかりました」
マカロニさんのあとについて広くて大きな地下にある部屋へと通された。
その部屋の床には何やら幾何学模様のような魔法陣が描かれ、その真ん中に誰かが眠っている。
「マカロニさん、あの人がもしかして?」
振り向いてマカロニさんに質問しようとするが、一緒に来ていたマカロニさんは私を部屋に案内したあと、部屋には入らず部屋の扉の前にいる。
「この部屋は王族と鍵を持っている者しか入っちゃいけないんだ」
後ろから声がすると、そこにはすでにジャンさんが立っていた。
「ジャンさん! いつの間に……、……あそこで眠っている人がもしかして王子様?」
「そうです」
魔法陣の前には女王様がいる。
「玲子さん、鍵を集めてくださってありがとうございます……ジャン……」
「はい……」
女王様にお辞儀をされ、ジャンさんが私を眠っている王子様の元へ連れて行く。
部屋が暗いので眠っている王子様の顔は遠くからだとよく見えなかった……でも近づいて見ると……。
「顔が……!」
「そうです……これも呪いです」
王子様の顔というか、服以外が真っ黒だった。
まるで影に服を着せているようだ。
「この鍵があれば元に戻せるんですよね?」
「そうです……、ですがまだ足りません」
「足りない? これで全部じゃないの?」
「あと一つ……」
「それなら取ってこなきゃ……、……どこにあるの?」
鍵を手に入れるために、あの光景を見るのかと思うと正直怖い……。 でもあと一つで呪いが解けるなら……。
「……玲子さん、君は強いですね……、あんな光景を見ていながら心の傷を掘り起こされながらも他人のために頑張れる……、……僕には出来なかった……」
「ジャンさん?」
うつむいて話すジャンさん……一人称が僕になってる……。
「玲子さん……絶対に戻って来てください」
ジャンさんの体から黒い影が出てくると、どんどん膨らみ私を飲み込んだ……。
読んでいただきありがとうございます。
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