第七幕 異世界を手に入れろ!
マドーは魔術を使い、グリーアと共に足元の水の膜に突っ込む。いまだにマドーが放った魔術終焉の雨の魔神の影響で、この世界はあちこち水だらけだ。
上空で待機していた天使たちはようやく障壁が解除されたので、とってつけたように再びラッパを吹き、やれやれと言わんばかりに緩慢な動きで業務を再開しようとしたが、今度は水の膜に阻まれてしまいやる気が失せている。
マドーが何か企んでいるということは、彼らも感じていたが、彼らの業務はマドーの監視ではない。知らぬ存ぜぬを決め込むつもりだった。
とはいえ、一部のマドーを排除したい過激派は精力的に仕事を行おうと張り切っていた。
「おのれ!逃がさん!マドー・マホー!」
「神の鉄槌受けるがいい!」
マドーを追って、終焉の雨の魔神の水の膜に突っ込む。一方地上では、ギルド自由の翼の五月雨武光たちが、ナンバーズの襲撃を受けていた。
みんなで円陣を組み頑張って結界を張っているが、一人また一人と倒れていく。
「ぐわああ!マドーはまだこないのか?」
「もう逃げよう!ギルマス!」
偉大なる馬族の戦士ヒヒンと偉大なる犬族の戦士ワンコーは泣きが入っていた。もう仲間はサキュンを含めて、4人だけで後はみな死んでしまった。
「ダメだ!この場所を死守しないとマドーが管理室に入れない!」
「何言ってんだ!そのマドーとかいう間抜けはいつ来るんだ?」
「あいつは肝心な時にいつもいない!」
(ぬう・・・)
武光は内心士気が下がるようなことを言うな!と叱咤したかったが、確かにマドーはいつになったら来るのだと彼自身も疑い始めていた。そこで、武光はちらりとサキュンを見た。サキュンは頷いた。
「もう少しだけ頑張ってみよう。ここでやめたら仲間は死に損だ」
「ぐぐぐ。そこまで言うのならもう少し頑張るか」
「いやしかし・・・」
二人はサキュンの言うことには一目置くので、多少折れる。とはいえ状況はよくならない。しかし、その時は来た。上空で光るものが見えたのだ。それこそが最強の魔術師マドー・マホーだった。
「破滅の光」
上空から地上へ光が降り注ぎナンバーズを一掃する。それを見た武光が歓喜した。
「どうじゃい!最強の魔術師、マドー・マホーはきたじゃろがい!」
と咆哮したが、辺りを見渡して唖然とした。その場にいたのは彼一人だったからだ。
「あ、あれ?ヒヒン?ワンコー?サキュン!どこにいった?」
そこへマドーたちが降り立ってきた。
「どうした?武光」
武光はその言葉に怒りをにじませつつゆっくりと振り返った。
「・・・マドー。まさかとは思うがヒヒンたちを殺したんじゃないだろうな?」
「いや?」
「じゃあ何で奴らがここにいないんだ?」
武光の顔を見たマドーはここはうまく返答しないとまずいと危機感を持った。実際のところマドーは彼らを殺したかどうか覚えていない。
しかし、この場にいないということは自分が殺した可能性は高い。
とはいえ、馬鹿正直にそんなことを言ってしまったら、武光の協力を得られなくなってしまうだろう。
マドーと武光は生来の友人であり、ただでさえ仲間の少ないマドーは武光に気を遣うことにした。
「・・・安心しろ。彼らは避難させている」
「本当か?」
「本当だ。武光、世界の核を手に入れるまでここを守れるか?」
「・・・分かった。行ってこい」
武光は何か言いたそうだったが、諦めた。マドーはもしかしたら自分たちのことなど眼中にないのかもしれない。しかし、本当にせよ嘘にせよ。彼は嘘をも本当にできる力を持っている。
マドーが避難させているというのだから、それが本当にせよ嘘にせよ、避難させているのだろう。なら、自分はやることをやるだけだと思った。
マドーはグリーアたちを霊体化させて地中へ潜っていく。
「世界の中心までひとっ飛びだ。どうやらこの異世界の崩壊も近づいている。急がねば」
確かに辺りが崩壊を始めていた。天使たちが真面目に仕事をしだしたらしい。
一向は深く深く地中を移動し、星の中心へ向かった。
やがて管理室に行きつくと、そこにいた天使が突然現れたマドー達にびっくりした。彼女こそがこの異世界の管理者である。
「な、なんだお前たちは!」
マドーは天使が声を上げている間にすでに天使の目前まで近づいており、天使の頭を杖でこつんと叩いた。天使は小さな玉になってしまった。
あっという間の出来事でだった。マドーは天使を封印したことに関して何も感じなかったかのように感想を述べた。
「どうやらこの世界はこの天使がワンオペで頑張っていたようだな」
その言葉に、グリーアは魔王の誇りが傷ついた。
「ならば我がこの世界の王となったのは神々側が大したことなかったからだといいたいのか?」
マドーはその言葉を聞き、グリーアは何か勘違いしていると思った。彼はもう魔王ではなくマドーの部下なのだ。もう勧誘してしまったのだからマドーが気を使う必要もない。
「要因の1つではある。間違いはないだろう?」
確かに理屈ではマドーの言うとおりだが、グリーアも楽して魔王になったわけではない。言わないでもいいのに、ことさらに自分の功績を主張したくなった。
「我は時間をかけて神々の種や武具を封印してきたのだ」
「ご立派!」
マドーは手をパンと一拍子叩く。話はもう終わりだと言わんばかりにそっぽを向いた。
グリーアの必死の抗弁も、マドーにとっては戯言に等しいようだ。そもそもマドーからしたらグリーアとこんな馬鹿なやり取りをしている時間もない。
「おのれ………!」
と一蹴されたグリーアは目を光らせて凄むが、視界にちょうど玉にされた天使が入り、息をのんで引き下がった。
だが、それに我慢ならなかった者がいた。グリーアがマドーに頼んで生き返してもらった四天王パメロアだ。
「貴様!魔王様を!」
しかし、グリーアは自分も巻き込まれてはたまらないと思い、目を光らしてパメロアを威圧した。
「貴様は黙っていろ」
「は、ははっ………!」
その間に、きるりはきるりシリーズを呼び出し作業を終わらせた。魔法陣や水晶、機械を操作して、世界の核ワールドコアを抽出させたのだ。
「うまくいったな」
「そうだね~♪」
マドーときるりは顔を見合わせてにっこりと笑った。マドーはどや顔でうまくいったななどといっているが、大半きるりのおかげである。マドーはグリーアと馬鹿な問答をしていただけだ。
最もきるりはそんなこと気にしていないが。
そんな2人の空気を割くような轟音が響き渡った。
「貴様いい加減にせぬか!」
辺りが光に包まれ、マドー一行は強制的に空間転移させられた。




