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第六幕 魔王のスカウト

マドー・マホーは魔術師である。そして、マドーが研究している魔術は実践戦闘。つまり、彼にとって戦闘に対するデータ収集は最優先すべき項目なのだ。


「ふっふ!」


マドー不敵に笑って、グリーアの奇襲を回避して骸骨頭の杖を載せる。


雷撃ライトニングボルト


「うぎゃあああ!」


電撃がグリーアの体を駆け巡る。やってからしまったとマドーは思った。スカウトしに来たのについ条件反射で反撃してしまったのだ。


(しかし、つれていくにしてもでかすぎるな)


確かにグリーアはでかい。これからマドーのオフィスで暫く瘴気の研究を担当してもらおうと考えているわけで、あまりにでかいと邪魔だ。


そう思ったマドーは電撃で苦しんでいるグリーアの骸骨頭をコツンと叩いた。


「う、お、お、お・・・」


グリーアの体のサイズが見る見るうちに小さくなっていく。ちょうどいいサイズになったとマドーは思った。


「お、おのれ!しねい!」


それでもグリーアはめげずにマドーに攻撃を仕掛けるが、もはやマドーは避けることすらしない。完全に無抵抗で好きにさせている。そして、攻撃されながらもグリーアに諭すように語りかけた。


「グリーアくん。私は君をスカウトしに来たのだ。どうだろうか?今のこの状況は。今やこの異世界グランドルは破滅寸前。魔族は全滅。君一人となってしまったではないか?

君はこの世界と心中しようとでもいうのか?それとも、私の創造する新魔界で真の魔王を目指すのか?君が魔王と自認するならば迷う余地はないと思うが?」


「なんだと?」


グリーアは攻撃をやめて聞く姿勢を見せた。確かに目の前の人物は一見人間風だが明らかに自分では想像もつかない超常的な存在に間違いない。

なぜなら、自分の全力の攻撃が効かなかったのだからだと考えたのだ。しかも、実際にグランドルの様子がおかしいことも事実。

破滅するといわれてもそうかもしれないと思い始めていた。だとすれば・・・マドーの提案はグリーアにとってそう悪いものではないということになる。


「ふん。我の世界が滅びるだと・・・。貴様がどんな存在かは知らないが何を根拠に?」


最早力では敵わぬとみてグリーアは問答に応じることにした。その時、世界を粉々にするような音量のラッパの音が響き渡った。終末レクイエムカウントが消失し、最後通達たるギャラルホルンのラッパの音が響き渡ったのだ。


「な、何事だ?」


マドーは、黙って上を指さした。グリーアは釣られて上を見上げる。天から無数の天使たちと炎、雷、氷、光、闇といった様々な魔術が地上へ降り注いできた。

世界を破壊し再生するラグナロクの始まりである。


(時間切れか)


ラグナロクはマドーの同僚が担当している。マドーが業務を離れて、妙な行動しているところをすでに確認されてしまっただろう。


「うおおお!」


天から注がれる災いは容赦なくマドーとグリーアを襲う。グリーアはたまらず咆哮した。魔王の最後の魂の叫びである。といっても叫んでもどうにかなるものでもない。と思ったがなぜか攻撃はグリーアに届く前にかき消された。もちろんマドーの仕業だ。


「それで、どうする?グリーアくん」


マドーが話している間、魔術や天使たちは目の見えない障壁に阻まれてこちらに来れないでいた。文句を言っている天使もいる。


「マドー!これは何の真似だ!障壁をどけろ!」


「魔導ギルドを裏切るつもりか?」


知らない人から見ると、大勢でパントマイムをしているようでちょっと笑える光景だ。

一方で、マドーがこうなってしまっては仕方ないと、諦めてティータイムを楽しむ天使たちも出てきている。


グリーアは、マドーと上空の様子を交互に見つめながら呆気にとられていた。


「すまないが、グリーアくん。早く返答してもらえないか?彼らの業務が遂行できない。拒否するというのなら君は浄化されるし、承諾するなら新しい地で真の魔王を目指せる。

繰り返しになるようだが、迷う余地はないと思うが?」


「う、うむ」


「うむとはなんだね?承諾すると?」


「・・・よかろう」


「では、書類にサインをしてくれ。いや、拇印でいい」


そういって、マドーはグリーアに書類を手渡した。グリーアはぽかんとしながらそれを受け取ったが硬直する。


「ああ、これが朱肉だ」


そういって、マドーは朱肉を渡した。それでもグリーアは動かない。


「どうしたのだ?心変わりか?それとも条件に不満が?」


「い、いやどうすれば?」


「・・・なるほど。いや失敬」


そこで、マドーの心境を代弁すべくきるりがしゃしゃり出てくる。


「とんだ田舎魔王だねえ♪マドーくん!」


いったいいつ生き返ったのだろう。恐らくマドーがキスした時だろう。田舎魔王といわれてグリーアがむっとしたのを見たマドーは慌ててきるりの口を抑えた。


「しー!きるりちゃん。せっかくここまでなだめすかしたんだから!おっほん。気にするな。グリーアくん。この子は頭がちょっとあれで高貴な存在の尊さが分からないのだ。君はぜひとも欲しい人材だよ」


「・・・もうよい。我にどうせよと」


「条件に不満はないかね?」


正直条件に不満どうこういわれても、グリーアは今のこの状況に脳の処理が追い付いていない。ともかく唯々諾々と頷くしかなかった。


「うむ」


そういって、最低限の威厳を示す。最早、魔王としての威厳など粉々に砕け散ってしまっているというのに。


「滑稽だねえ。ま」


きるりの口がまた滑りそうだったので、慌ててマドーはきるりの口を抑える。


「では」


マドーは、きるりの口を抑えたまま魔術で朱肉にグリーアの指をつけ、書類に印を押させた。


「ほう。このようにすればよかったのか・・・」


グリーアのなんとも間の抜けた発言は聞くに堪えないが、ともかく同僚の業務を妨害してしまっている今の状況はまずい。

確かに、マドーが力に訴えれば全て押し通すことができるが、それでは彼の研究に支障が出てしまう。マドーは暴君や破壊者になることを好まない。

グリーアを見ればいい例だろう。もうこの世界グランドルに成長はない。そして、グリーア自身の成長もいつしか止まってしまっただろう。破壊するのは一瞬だ。一瞬で全ての研究材料が無に帰す。


マドーは魔術を解き、グリーアを連れて素早く降下した。まだ最大のやることが残っている。

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