第一幕 遅れてきた最強魔術師
何もないまっさらの荒野のど真ん中に、どす黒い気配を纏った魔方陣が設置されている。その周りを取り囲むように、人間や獣人、サキュバスといった種々雑多な面々が仏頂面を下げて愚痴っていた。
「おい!ギルドマスター!マドー・マホーはまだこないのか?」
語気強めに詰め寄ってきたのは、偉大なる馬族の男「ヒヒン」。馬の顔に筋肉隆々。斧を片手にすごんでいる。
「あの野郎、逃げたんじゃねえか?それか俺たちが生誕因子だから馬鹿にしてるに違いねえや」
続いて凄むのは、偉大なる犬族の男「ワンコー」。忍者風の格好をしており腕を組んで威圧している。
ギルドマスターといわれた男、五月雨武光は、三翼の天使の翼をもっている。しかし、彼は普通の人間であるらしい。
ともかく、部下たちに詰められどうにかしなければと焦っていた。
「まあ、もう少し待て」
しかし、出てきた言葉は芸のない一言。その一言にさすがの偉大なる一族たちも堪忍袋の緒が切れる思いだった。
「もう何度目だ!いい加減にしろ!」
「俺たちを馬鹿にしているのか?」
正直、武光は俺に言われてもと思わないでもなかった。彼らは、最強の魔術師マドー・マホーの要請でこうして集まって、異世界攻略を行おうと魔法陣の前に集合しているのだが、肝心のマホーがまだ来ていない。
「もう俺たちだけで行っちまわねえか?」
ワンコーは武光にそう提案した。
「いや、それは・・・」
無理に決まっているだろうと武光は思った。魔法陣がにじみ出る瘴気は地面を侵食しており、黒ずんでいる。こんな異世界に自分たちだけで行ってしまったら即地獄行きに決まっている。
事態を冷静に見ていたこのギルド【自由の翼】きっての切れ者サキュバスのサキュンが口をはさんだ。サキュバスの癖に露出度が極端に低く、スーツにズボン、眼鏡をかけているのが特徴だ。胸も大きくないため一見男に見えなくもない。
「私たちだけでこの異世界【グランドル】に行くのは死と同義だ。ここはマドー・マホーに違約金を取ることで収めようではないか」
その言葉にヒヒンもワンコーも渋々納得した。
「まあ、てめえがそういうならもう少し待つか」
ヒヒンとワンコーがまだぶつぶつ言いながらその場を離れたので、すかさず武光はサキュンに耳打ちした。
「マドーに払う金があると思うか?」
「さあな。とりあえずこの場は収まった。ところであれはマドーではないのか?」
「ん?」
サキュンが指さす方法を見てみると、確かにマドーらしき人物が飛行している。武光は仲間たちに向かって咆哮した。
「うおおおお!最強の魔術師マドー・マホーがやってきたぞ!どうじゃい!やっぱりマドーは来ただろうがよ!」
その物言いにギルドメンバーたちは顔をしかめた。散々待たせておいてなんていい草だと思ったからだ。
「なに?」
息まいて武光に詰め寄ろうとしたが、突然突風が起こり、ギルドメンバーたちは蹴散らされ吹き飛んでしまった。
「ぐあああ!なんだあ?」
もちろん犯人は最強の魔術師マドー・マホー、その人。禍々しい魔方陣に手を触れつつ、皆を叱った。
「何をしている!さっさとグランドルに行くぞ!」
「なに?」
その物言いにギルドメンバーたちは顔を真っ赤にして怒った。その怒り具合はギルドマスター武光に対するものよりも、数倍高い激怒だったのだ。




