第98話 魔王の石の力
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俺は曲がり角を曲がって、狭い通りの向こう側にいるアンチャードの兵士の前に立つ。
「おい、誰だ?」
「もしかして、ダークエイジか?」
「姿が違う、模倣犯か?」
「どうだっていい、市民は全て捕らえろとの命令だ、コイツも早く捕まえるぞ」
奴らはショットガンを構えて、狭い通りからジリジリと向かってくる。奥にはレジスタンスやモンタージュの捜査官らが、障害物に隠れながらも他のアンチャードの兵士と戦っている。
もう少しで彼らは負けてしまう、弾もなければ食糧もない。でも大丈夫だ、何故なら、俺が来たから。
俺は両手首に意識を向けて、力を込める。カービージャンクで手に入れたあの武器をもう一度作り出してやる。
すると両手に、刃渡りの長いナックルダスターが装着された。そう、これは武器屋のマーティンから貰ったものだが、ニュークとの戦いで紛失した。二度と使えないと思っていたが、たった今、魔王の石の力で新たに作り出した。
ジャキン!!
俺は両方のナックルダスターを展開し、力を込めて構える。すると、騒ぎを聞いて何人かの兵士がこの狭い通りに駆けつけてきた。
「まさか、お前は!」
「俺の名前はダークエイジ。街の邪魔者を全て殺しに来た」
「くそ、う、撃て!」
隊長らしき男が発砲を許可した瞬間に、俺は真正面に向かって走り出す。そしてすぐさま、その男の顔面に展開したナックルダスターの刃を突き刺す。
ブシャッ!
奴は叫び声ひとつも上げれずに、即死した。俺は刃を脳天から抜き、左にいた兵士を睨みつける。
「ああ、悪魔だ」
「ふん、それがどうした」
急いでショットガンを撃とうとしても、遅い。俺はそいつの腹に刃を突き刺し、一気に奴の体ごと持ち上げた。そして力いっぱいに地面に叩きつける。
グシャッ!
内臓の破裂する音が体の外側にまで聞こえた。その音を聞いた兵士は怯え、ショットガンの引き金に指をかけるも、何もかもが遅すぎた。俺は背中から剣を取り出し、前にいた兵士の肩をスパッと切る。
そしてグリップで兵士を突き飛ばし、左手で腰に差していたナイフを取り出してから、剣を落として素早くナイフを持ち替え、前に立つ兵士2人に向かって思いっきり投げる。
ザクッ! ザクッ!
投げたナイフは同時に、奴らの眉間に深く刺さったようで、奴らはそのまま倒れた。俺は地面に落とした剣を拾い、高く飛び跳ね壁を蹴って奴らの真上で宙返りしてから、突き刺す。
ブシャッ!
残るは1人、その兵士はとても怯えており、ガタガタと震えている。俺は倒れた兵士からナイフを抜き取り、ショットガンの銃口に突き刺す。そして兵士から離れると、兵士は怖くなってショットガンを発砲しようと引き金に指をかける。
ドンッ!
案の定、出口を塞がれた弾は勢いを失うことができずに内側で爆発し、兵士の頭を巻き込んで暴発してしまった。
爆発音や発砲音を近くで聞くと、以前なら強化された聴力のせいで耳鳴りがしたが、今は何も起こらない。やっぱり力のおかげで、意識をどう集中させるかが上手くなったようだ。
狭い通りを抜けると、開けたところに同じ形状をしたヘルメットを着けた数多くの兵士が、俺に向けてハンドガンを構えていた。そして障害物の奥には、レジスタンスやモンタージュの捜査官が隠れていた。彼らは、隙間から俺のことを見ている。
「だ、誰だ!」
アンチャードのリーダー格の男はスナイパーライフルに弾を込めながら、急いで本部らしき家から出てきた。反対にモンタージュの人々は俺を見て、次々に叫んだ。
「みんな! ダークエイジが帰ってきたぞ!」
俺はトントンとその場で飛び跳ね、肩を回しながらもゆっくりと近づいていく。奴らは撃てばいいのに、怖いからか動けずにいた。やはりな、恐怖心は全てに勝る。
スナイパーライフルを構えたリーダー格の男は、俺に問いかける。
「何しに来た?」
「この街を解放しに来た」
「何を言っている、お前がこの街を地獄に変えた。治安部隊でどうにもできなかったこの街をより良くするには、こうするしかないんだよ」
「お前らがやっているのは、紛れもなきジェノサイドだ。俺はお前らとは違って、この街を救う」
バンッ!
カンッ!
奴らは俺めがけてハンドガンを撃つも、弾は全て鎧によって防がれてしまった。全弾命中、しかし俺に効果はない。俺はその場で高く跳ね、宙返りして奴らの背後に入り込み、後ろから拳を振るう。
グシャッ!
その兵士はヘルメットを着けていたはずなのに、たった一撃のパンチによって頭部が破裂した。おっと、ここまで拳も強くなっているとはな。ヘルメットも鉄の塊だというのに、グシャグシャになっている。
バンッ! バンッ!
カンッカンッカンッ!
遠距離攻撃が効かないと悟った奴らは、ナイフを取り出して立ち向かってくる。対して俺はナックルダスターを起動させ、突進する。
「うおおおおおお!!」
グチャッ!
声を上げて立ち向かう兵士の頭に、刃を思いっきり突き刺す。そしてすぐに抜き、もう片方の刃で突進してくる兵士の胸を刺す。
ガタッ!
別の兵士の頭を蹴ると、あまりの威力に壁まで吹き飛ばされ、更に脳天までもが潰れていた。ヘルメットも割れている、蹴りもここまで強化されているとはな。俺はナックルダスターをしまって、次々に奴らを殴っていく。
ブシャッ! グチャッ! ボゴッ!
バギッ! グシャッ! ボゴッ!
果敢にも立ち向かってくる奴らは、たった一撃で次々に死んでいく。ひと殴りで、ヘルメットは耐えきれずに割れる。腹に打てば、内臓が破裂してその場で倒れる。足を蹴れば骨折し、背中を踏み潰せば、脊髄が粉々に割れる。
新たにハンドガンを構えて撃っても、俺には効かない、この鎧が全ての攻撃を無効化してくれるから。
「ああ、たすけてくれ!」
俺はハンドガンを構える兵士に近づいていき、軽く手首をへし折ってから、頭を鷲掴みにして地面に叩きつける。
グチャッ!
あまりの威力に、頭は粉々となり肉片が辺りに飛び散ってしまった。これを見たリーダー格の男は、そのスナイパーライフルで俺を遠くから狙って撃ってきた。
バンッ!
でも、その弾はどこかゆっくりに見えた。俺はサッと横に避け、ナイフを取り出し、奴の腹に投げる。
ザクッ!
腹にナイフを刺された奴は、腹を押さえながら苦しんでいた。俺は奴のそばに駆け寄り、ヘルメットを外して頭にハンドガンを突きつける。
「くそ、モンスターに魂を売りやがって!」
「そうだな、お前らの負けだ」
「モンスターを使うなんて、悪魔の所業だ!」
「お前の雇い主、ラーズも同じだがな」
「……えっ」
コイツは何も知らなかったようだな、雇い主であるラーズがモンスター大戦を起こしていることも、レスドラド計画を遂行していることも。
ガンッ!!
俺はハンドガンでコイツの頭を叩きつけ、気絶させる。そして障害物に隠れるヒルデヨ部長に、コイツの身柄を受け渡す。
「ご苦労でした、ダークエイジ。姿は変わっても、不思議な力を使っても、目的とその使命は何も変わらないようですね」
「ええ、この男は証拠に使えるはずだ。コイツはナラティブ出身の治安部隊の隊員で、ラーズが国際的な犯罪に手を染めていることくらいは証言できる」
「ありがとう、どうやら各国は”レスドラド現象”によって苦しめられているらしい。しかし、マックスフューだけ何もないのはおかしいことですよね」
「それも全てラーズに聞いた、ただ今は真相追求よりもカービージャンクの解放が先だ。俺が兵士を倒す、市民の保護は任せる」
「……ああ、最後のひと仕事だ。暴動を焚きつけたのは私の仕業だ、全てが終わったら引退することとしよう」
それを聞き、俺は馬に乗って収容所に向かった。
「まさか、ハンドガンの弾を跳ね返すとはな。あの男は使えるぞ、全てが終わったら、次は私の番だ」
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