第95話 真の能力、覚醒
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気づくと、俺はどこかの家で眠っていた。来たことのあるような、来たことのないような、そんな不思議な感覚だ。
腹には包帯が巻かれており、少しでも動くと痛みを感じる。良かった、痛みを感じられるところまで回復したのか。
それにしても、あれから記憶がない。
魔王らしき男が侵入して、クロガ以外の三人を倒した後、光に包まれてからというもの、その後に何があったかは覚えていない。
とりあえずベッドから立とうとして腕に力を込めた時、俺はある違和感に気づいた。すると、
「目覚めたか」
と、どこかからか声がした。意識を集中させると、ベットの横の椅子に老人が座っているのが分かる。何で気づけなかったんだ。いつもなら意識とかじゃなくて、音とか空気の流れで分かるはずなのに。
「無理して起きるな、腹の傷が開く」
声からして、助けてくれた老人は魔王なのか。というよりも、魔王は人間だったのか。不思議な存在だな、魔王って。
「助けてくれて、ありがとうございます」
「礼はいい。それより、能力の調子はどうだ」
「まあ、貴方の存在には気づけませんでした」
「なら大丈夫だ」
そうして魔王らしき老人は水を取りに行った。あの時、視力を失ってすぐの時もあの老人は助けてくれた。その時は心優しい人もいるんだな、とか思ったけど、あの人は能力の存在を知っていた。
やっぱり、あの人は只者ではない。老人は水の入ったコップをベッドの横にある机の上に置き、話を始めた。
「あれから二日間、お前は寝ていた。新聞は読まない主義なんだが、どうやらモンスター大戦が起きた。各国の都市は次々に陥落、しかし、首謀者がマックスフューというのは伏せられている。各国をモンスターが襲う謎の現象として、調査されているらしい」
くそ、モンスター大戦は止められなかったか。しかもマックスフューが全ての元凶ということは伏せられている、となると市民はマックスフューの悪意を何も知らないわけだ。怒りの矛先はモンスターへ向かうことになる。
「レスドラド計画、といったか。モンスター大戦が起きた今、次は器の創造だが、奴は器を作れない。”魔王の石”が手元に無いからだ」
奴はモンスターによる世界の征服ではなく、全ての生命体をひとつにすることを目標としている。だからデビルズオール社の社長やマックスフューの隠された王には黙って、計画を進めていると聞いた。
そもそもとして、俺の中には大きな疑問が残っている。だから俺はレスドラド計画について聞くより先に、その疑問を解消するために、尋ねた。
「あの、貴方は誰なんですか?」
すると老人は、フッと笑って答える。
「俺は魔王だ、とは言っても魔王の本質部分ではない。魔王の契りで、魂と力を受け継いだだけの存在だ。厳密に言えば魔王ではないが、魔王としての記憶もある」
どうやら、老人は魔王らしい。そう言われても、ちゃんとは理解できない。続けて、魔王は説明する。
「俺は百年前、魔王として討伐チームを蹂躙した。しかしその過程で、無実の人間を巻き込んでしまった。彼は死に、俺は悔いた。だから俺は彼を生かすために、彼の体と魔王の精神を一体化させた」
ラーズが言っていた魔王の封印は、この老人を巻き込んでしまったことが関係しているのか。
「あの時、彼はまだ青年だった。魔王の力の影響で老いがゆっくりになっているだけだ。ともかく、俺は自らを封印した。理由は、時代が魔王を必要としなくなったからだ。それでよかった、しかし、この間にラーズが俺の体を研究したようだ。既に持っていた不老不死の能力に加え、新たに魔王の力までコピーした」
ラーズは魔王の力を持っている、それは封印して身動きが取れなくなっている時にコピーしたからなのか。
「そもそも、魔王は”世界の共通敵となる”ことが目的だった。生まれながらにして人類の敵であるモンスターを従えつつ、最強の力を手にした王のすべきことは、全人類の敵となって人類を協力させる。そのために、俺は敵となった」
魔王は、世界滅亡が目的じゃなかったのか。ヒルデヨ部長もラーズも言っていた、魔王を敵にした世界は協力して選抜の討伐チームを作ったと。魔王は、世界を協力させるための共通敵として、自らをその枠組みに落とし込めたようだ。
「しかし、ラーズとマックスフューは愚かで、何も理解していなかった。三十年ほど前、ラーズはモンスター大戦を企てた。それに気づいた俺は封印を一時的に解き、ポータガルグーンを召喚して、マーベラスを襲った。計画を止めるためだったとはいえ、多大なる被害を与えた」
ポータガルグーンの襲撃は魔王によるもので、それも全てラーズのせいだった、ということか。
「その後、俺は倒されたふりをして、この家で暮らしている。モンスターを従えてまた魔王の役割を果たそうとしたが、力が残っていなかった。それに、世界の運命は人類に任せるべきだと思った、だから俺はあえて干渉せずに、隠居していた」
魔王とやらが生きているのに戦わなかったのは、人類に全てを任せてみたかったからなのか。人類が生きていく世界で、魔王の干渉は必要ないと感じていたようだ。
「そして時は流れて数ヶ月前、お前が石に触れた。石は森の奥深くに隠していたのだが、お前は石に辿り着き、力を手にした。いや、石がお前を求めていた。だから俺はお前を助け、能力を覚醒させた」
俺は森の中で何かに触れて、能力を手に入れた。あれはラーズが探していた”魔王の石”だったのか。森の奥深くまで歩いた感覚はないが、それも石が俺を求めていたということか?
「あの時渡した杖は俺の妻の物じゃない、俺のだ。厳密に言えば、俺が巻き込んだ青年の物だった。俺の中にいる青年は、お前に渡してほしいと願っていた、だからお前に渡した」
なるほどな、あの時の杖は妻の形見ではなく、魔王が体を乗っ取った青年の物だった。どちらにせよ、形見であることに変わりはない。
「時間がない、早く大戦を止めなければ」
「魔王の力で、モンスターを止めることはできないんですか?」
「ラーズによって人為的に洗脳されているモンスターだ、俺の力ではどうにもならない。それに石の力が発揮できなくなっている、俺が一体化した人間の生命力も関係している。しかし、お前なら大丈夫、何故ならお前は石に求められし存在だからだ」
そうして魔王は、ポケットから石らしき丸い何かを取り出した。
「魔王の石をお前の体の中に埋め込む、これで計画は破綻するが、奴は何をしてでもお前から石を取ろうとするだろう。だからお前は死ぬ気で戦え、力はその石に備わっている」
「ちょっと、話が急過ぎませんか」
「時間がない、俺じゃ石に耐えられない。すまないな、前も急に追い出して。ともかく、そのコスチュームはボロボロだ、起きたら石に願え、石は夢を叶える力を与えてくれる」
そうして魔王は、俺の腹に手を置いた。
次の瞬間、俺は意識を失った。
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