第94話 さらば、ダークエイジ
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「全て私が仕組んだものなんだよ」
すべての真実を知ったクロガは、耳を押さえてうずくまっている。
倉庫で帳簿を見つけたのも、ウォーリアーズを結成したのも、それも全てラーズに仕組まれていたものだったとは。もちろん、考えたこともなかった、ここまで他人の人生に奴が関わっていたとはな。
あの時、俺は倉庫で帳簿を見つけて、その帳簿をクロガの前に叩きつけて、追放された。あの行為は全て、ラーズによって仕組まれていたことだった。
帳簿は俺が見つけるために倉庫に隠しておいたものだったし、追放するというセリフを書いたのもラーズだし、襲ってきたチンピラもラーズの部下だった。
「そういう訳だ、勝手に巻き込んですまなかったね、ブレイク。本来のシナリオなら、君は既に死んでいたと言うのに」
俺だって怒りが湧いている。この状況だから殴りに行けないだけで、本来なら何も考えずにラーズの顔面を拳で殴りつけている。
だが今の俺は動くことができない、腹を剣で貫通されているから。それに、俺以上に苦しんでいる奴が目の前にいる。それは、クロガ。
クロガはラーズの部下にして、精神を病んでいたためか何も教えられなかった。自分が悪に加担していること以外は、無知だった。
「君を巻き込んだことは謝罪しておこう。いや、謝るのは私ではないな。クロガだ、彼が君を巻き込んだ。だから怒りは私ではなく、彼にぶつけてくれ」
はっ、何なんだよお前は、何様なんだよ。お前がクロガを巻き込んだ、それだけの話だ。俺はクロガに巻き込まれたとか思ってない、というか、お前ら好きだな、こうやって巻き込んだとか言って、相手に罪悪感を抱かせるの、流行ってるのか?
「しかしまあ、君ももう終わりだ。計画は最終段階に入る、じきにモンスターが他国を侵略する。後は器さえ手に入れば、計画は完全に果たされる」
待てよ、その計画の最終段階で、生命を全てひとつの器に入れるとか言っていたが、その器はまだ手に入っていないのか。
俺は口元を気合いで動かし、尋ねる。
「器は、ないのか?」
「おっと、話せたのか。ああそうだ、器となる”魔王の石”があるんだ。魔王がモンスターを従えるために使っていたとされる、魔法のような力が。ただ、手元に無くてね。居場所は掴めている、だから安心してくれ、計画は無事に遂行される」
そんなことだろうと思った、コイツらが何も考えずに計画を立てるわけがない。ラーズはウォーリアーズにスパイを送り込んでいたくらい用意周到な人間だ、石がまだ手元になくても、モンスター大戦中に見つけ出すつもりなんだろう。
「さてと、もういいか?」
ラーズは、俺の腹に刺さる剣に手をかける。
残念ながら、もう痛みは感じなくなってきている、腹に剣が刺さっているのも、血が出ているのも、よく分からなくなっている。
「剣を引き抜けば君は死ぬ、最期に言いたいことはあるか?」
「……ない」
「そうか、最後まで面白い奴だな。やっぱり仲間にしたかったよ、うん、君とは違う出会い方をしたかった。ただ君がクロガの親友だったばかりに、敵として戦うことになってしまった」
それはどうかな、クロガ関係なしにお前と出会っていたとしても、俺はお前と戦っていただろう。モンスター大戦を引き起こすような奴に協力したいとは、いつどんな俺でも思わない。
「クロガ、ブレイクに伝えたいことはあるか?」
「……ないです」
「薄情な男だ、かつては親友だっただろ?」
「……いいえ」
「ふん、素直じゃないね」
そうしてラーズは、剣のグリップを強く握った。
「さらばだ、ダークエイジ」
その瞬間、地面が大きく揺れた。
どこかからゴオオ、ゴオオと轟音が聞こえる。
「どうした、地震か?」
ラーズは剣から手を離し、扉の近くへ向かう。
「お前ら、早くここから出るぞ」
ガシャン!!
あまりの地面の揺れに、窓ガラスが一気に全て割れる。破片は粉々となり、地面にサラサラと落ちていく。
「どうなっているんだ、開かない」
ラーズは扉を開けようとするも開かなかったのか、少し怯えた様子を見せている。そして俺にだけ、ある音が聞こえた。それは、遠くから何かが飛んでやって来る音。
「何の光だ!」
やがて光によって辺りが暗く染まった。光なのに、暗い。そして、遠くから飛んできた男が窓から中に入ってくるのが分かった。しかし、光のせいで誰かは分からない。けれども、人の形をしているのは感じ取れる。
「何者だ?」
少しすると、光が消えて明かりが戻った。ラーズは、空から侵入してきた男を見て問いかけるも、その顔を見てすぐに口を閉じた。
「待たせたな、青年」
男は俺に話しかける。そこで俺は分かった、この男が誰なのかを。
「今すぐ計画を止めろ」
その男の正体は、以前俺を助けてくれた老人だ。視力を失って森をさまよっていた俺を助けてくれたうえに、妻の杖をくれた。それに、どこか俺の能力を理解しているようにも見えた、そんな不思議な存在だった。
まさか、こんな能力を持っているなんて。彼は空を飛び、地震を起こした。それに、俺のことを覚えていた。
彼は、扉の前に立つラーズの方へゆっくりと歩いていく。
「ラーズ・フェイスといったか、随分と魔王を崇めているようだな」
「誰だ、貴様は」
「俺の顔を見ても分からないか、しかし無理もない。今の俺は人間だからな」
「……何を言っている?」
「戦いの果てに、俺は人間に魂を込めた。しかしお前は、人間を捨ててモンスターとなった。いつまでも、俺とお前は対極に位置する存在だ」
「……戦いの果てに、まさか」
そうして彼は、ラーズの前に立つ。
「そうだ、俺は”魔王”。お前の崇拝する相手であり、お前の敵だ」
その言葉を聞いて、ラーズは震え出した。どうなっているんだ、俺を助けてくれた老人が、魔王だったのか。ラーズの崇拝していたあの魔王が、今やラーズの敵となっている。
「ラーズ様から離れろ!」
ブラッドリーは魔王に向かって、その増大させた拳を振るうも片手で止められた。
「弱いな」
魔王はブラッドリーを片手でヒョイっと軽く持ち上げ、勢いよく壁まで吹き飛ばした。続けてアテナも立ち向かおうとするも、軽く蹴られて扉に叩きつけられる。
「所詮はモンスターの力を無理やり掛け合わせただけの存在だ、力を何も理解していない」
そしてニュークの背後に瞬間移動し、顔面を地面に叩きつける。その間もクロガはうずくまるだけで、何も抵抗しなかった。それを見兼ねたのか魔王は、クロガには何もせず、俺のそばに来た。
「ラーズ、石を追い求めるのはよせ。お前の望みは果たされない」
「お前は偽者だ、魔王なんかじゃない。魔王は私を求めている、偽者が口出しをするな」
ラーズは壊れた扉の先にいた兵士からショットガンを奪い取り、俺たちに向けて構える。しかし魔王は怖がる様子を見せずに、ラーズのことを睨む。
「勝手に疑え、お前の計画は誰も幸せにしない」
「うるさい、静かにしろ」
そうしてラーズが引き金に手をかけたその瞬間、俺は光に包まれ、辺りの様子が何も分からなくなった。
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