第93話 仕組まれた運命
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「まさか……ブレイク・カーディフか!」
クロガ以外の三人は大声を上げた。当たり前だ、ダークエイジの正体が判明しただけでなく、それがウォーリアーズの裏切り者で巨人襲撃を防いだ、クロガの仲間だったから。
「どうなってんだ、あの時死んだはずじゃ」
「巨人襲撃は偽者じゃなかったの?」
「まさか、全て君だったのか」
少しずつ聴力が戻ってきて、ゆっくりと周りの状況が理解できるようになっていた。
続けて三人はクロガの方を見るも、クロガは俯いてばかりいて何も話さない。それを見かねてか、ブラッドリーが質問する。
「お前、まさか知っていたのか?」
「いいや、知らなかった。まさか、ブレイクが本当に生きていたとは……」
「それは本当か?」
ブラッドリーはクロガを疑っているのか、俯くクロガの前に立って胸倉を掴むも、クロガは否定するように首を振るだけだった。
「へえ、これは面白いことになってきたね」
この状況を一人だけ楽しんでいる奴がいた、それはラーズ。奴は俺の正体を知らなかったはずで、今ここで初めて知ったはずだ。なのに何故か、余裕そうな口調でゆっくりと、身動きの取れない俺に近づいてくる。
「君は本当に、ブレイク・カーディフなのか?」
奴は俺に質問しているのか、俺は答えようにも口元が動かなかった。そりゃそうだ、戦い過ぎたんだ。
「質問に答えてくれないか?」
だから俺は少しだけ頷いた、ここから巻き返すことはできない。そっくりさんだと偽るには、もう手遅れだ。
「ほうほう、彼は本当にウォーリアーズの元メンバー、ブレイク・カーディフだそうだ。これは興味深い。あの時、君を殺せと指示したのは私なんだが、死んでなくて良かったよ」
そうしてラーズは俺から離れ、クロガの前に立つ。
「クロガ、本当に知らなかったのか?」
「はい、まさかダークエイジの正体がブレイクだったとは」
「へえ、まあ疑っても仕方ない。あの時、クロガにブレイクを殺すよう指示したんだけどね。怖くて他の戦闘員に任せたから、こうやって新たな敵が生まれた」
「……申し訳ございません」
クロガは俺を殺すのが怖くて、だから戦闘員に俺の殺害を任せた。その結果、俺は生き残って、こうしてダークエイジとなった。
「まあいい、ちょうどブレイクもいるんだ。ここでひとつ、新事実でも発表しよう。ブレイクもクロガも知らない、隠された秘密をね」
ラーズはクロガから離れ、ブラッドリーとアテナの隣に立つ。ニュークはその秘密とやらを知っているのか、そいつらから離れて壁にもたれかかる。ニュークはどこか、笑みを浮かべているようにも見える。
何なんだ、俺だけじゃなくクロガも知らない秘密って、どうしてクロガは知らないんだ。
「クロガ、お前は順従な部下としては、とても優秀だった。しかし依存性で、精神的に安定していなかった。だから隠していたんだ、アテナとブラッドリーの正体をね」
ラーズの声と同時に、アテナは仮面を外した。
仮面の下の顔には、縫い付けられた跡のような何かが無数に入っており、とても傷ついている。まるで、というか本当に、二人の少女の顔を無理やり組み合わせたかのような、そんなおぞましさを備えていた。
「ま、まさか」
クロガはアテナの顔を見て、その場で崩れ落ちる。俺も意識を集中させて、アテナの輪郭を感じる。
「クロガは気づいたようだね」
すると、どこか見覚えのあるような顔つきが見えた。それも、二人。
「そう、アテナの正体は……”コロネとハルート”だ」
その名前を聞いて俺は、力がフッと抜けるような、そんな感覚に襲われた。コロネとハルートは、ウォーリアーズの女性メンバーだ。彼女らが、アテナだと言うのか。
「コロネとハルートは優秀だったよ、ウォーリアーズのメンバーとしてだけではなく、戦闘員のスパイとして。クロガにも言ってなかったが、ウォーリアーズは全員、戦闘員出身だ。三人は都市の浮浪者じゃない、クロガを監視するためのスパイだよ」
まさか、コロネもハルートも、パニッシュも全員、仕組まれた存在だったのか。クロガという優秀な元戦闘員をどうにか自分の傀儡にするために、スパイを送り込んで討伐パーティーを組ませた。
あの三人は都市の浮浪者で、補助金を貰うためだけにパーティーを結成していた。そんな中、俺とクロガはそのパーティーに加入したのだが、彼らは元からラーズの配下だったのかよ。
クロガは何も知らなかったのか、顔に悲哀の表情を浮かべている。
「コロネとハルートは優秀だが、モンスターとの合成実験で仮死状態となった。その生命力を維持するために仮死状態の二人を合成したら、結果的に実験は成功した。歪められた顔を仮面で隠すことを条件に、彼女ら、アテナは立派な武器となった」
アテナは人と人と、その上にモンスターを合成して生まれた存在ってことなのか。アテナは仮面を着けて、お辞儀してから壁の方に戻った。
「ブラッドリーも、それだ。厳密に言うと、合成実験で亡くなったパニッシュの人格を埋め込んだ、全く別の存在だがね」
ここまで来ると、もう理解が追いつかない。ブラッドリーはパニッシュに体型こそ似ているものの、口調も戦い方も全くの別人だった。そのブラッドリーの中には、パニッシュの人格が埋め込まれている、どういうことだ?
「やめろ……やめてくれ……ああ」
クロガは全てを理解したのか、両耳を塞いで声を上げる。それを見て、ラーズは満面の笑みを浮かべた。
「やっぱりお前は未熟だ、戦闘員なのに子供の命を奪ったくらいで精神を病んだ。だから私はお前に、家族を与えた。だが計画が始まり、私にとって家族は邪魔となった。だから、ブレイクを殺そうとした」
家族というのは、ウォーリアーズのことなんだろうな。モンスター討伐という共通目標に向かってワンチームで戦う時は、みんな一致団結していた。そういうところを、クロガは求めていた。
「あああああ、やめてっ、やめてください」
クロガは怯えたまま、必死に声を上げる。しかしラーズは無視し、更に大きな声で繰り返す。
「ブレイクを部下にしなかった理由を教えてやろう、確かにブレイクも優秀だった。しかしそうすればお前は、ブレイクに嫉妬していただろう。現にお前は、複雑な感情を抱いてた!」
「やめて、ください、やめてください」
「だから私はあえて、ブレイクを蚊帳の外に置いた。そして計画の始動と共に、ブレイクを追放させ殺すつもりだった」
「やめて……あっ、やめ」
「ウォーリアーズのアジトにあった帳簿は、私が偽造したものだ。ウォーリアーズを結成したのも、ブレイクが帳簿を見つけたのも、お前が組織から抜けるタイミングを失ったのも、全て私が仕組んだものなんだよ!」
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