第92話 すまない、ブレイク
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次の瞬間、部屋の隅にいたはずの四天王の奴らは、一瞬にして俺のそばに移動していた。
「だってさ、ダークエイジ」
そして地面に伏せる俺に向かって、ブラッドリーは煽りながらも攻撃を加えてくる。くそ、動こうにも 動けない。ブラッドリーは筋肉を増大させ、頭を殴ってくる。それを俺は腕で受け止めるも、奴の威力が高いために、腕ごと突き飛ばされる。
「久しぶりだな、ダークエイジ。また戦えてワクワクするよ」
俺はナイフを取り出し、奴の腕に刺そうとするも、そのナイフは一瞬にして粉々になった。左を見ると、そこには仮面をつけたアテナが立っていた。
「ふふ、ナイフなんて野蛮な武器は使わせません」
くそ、能力でナイフを粉々にされてしまったようだ。1人だけ仮面を着けているのも、とても不気味だ。続けて腰から別のナイフを取り出すも、すぐにブラッドリーによって止められた。
「俺と拳で殴り合おうぜ!」
そして奴の増大した右腕で、思いっきりラリアットされ、勢いよく後頭部を地面に打ち付けてしまった。ああ、息ができない。そんな中、クロガはゆっくりと俺の周りを歩くだけで、何もしてこない。
「おいおい、いいのか。このままだと俺がリーダーになっちまうぞ?」
「私はリーダーなんて嫌ですわよ」
「ええ、私は回復能力だけが取り柄なので。攻撃力の高い貴方に任せますよ」
何なんだよ、アテナとニュークはリーダーになりたくないのか、あえて攻撃せずに見守っている。
「なら、俺がなっちまうか!」
「……いいや、俺がなる」
突然口を開いたのは、クロガだった。クロガは背中に差していた剣を取り出し、地面に倒れた俺の頭に突き刺そうと逆手に構える。
「おお、クロガ。今までお前がリーダーだっただろ、世代交代した方がいいんじゃないのか?」
「リーダーはお前に任せる。しかし、俺の手でコイツの仮面を外したい。コイツには散々、苦しめられてきたからな」
「ははっ、確かにお前はダークエイジに苦しめられていたな。酒に逃げてばかりで、変な男だったよ。しかし、仮面を外すのは俺だ!」
ブラッドリーはクロガを突き飛ばし、俺の首を掴んで持ち上げる。そして俺の覆面に手をかけようとする。だから俺は抵抗するために、手首に隠していた刃で思いっきり、奴の首に突き刺した。
ブシャッ!!
隠し刃は、アテナには気づかれなかった。そのため、粉々にされる前に使うことができた。ブラッドリーは痛みのあまり、俺を地面に落とす。
「何よ!」
奴らが驚いている隙に、俺はポケットに入れていたナイフを取り出し、すぐにアテナの太ももに向かって投げる。
ザクッ!!
驚きのあまり、とっさのことで能力を使えなかったんだろう。アテナは太ももに刺されたナイフを取ろうとするも、あまりの激痛に耐えきれずに叫んでいる。
「俺を舐めるなよ」
これをラーズは何も手助けせずに、ただニヤニヤするのみ。奴なら俺の攻撃を予測して止めることができたはずだ、まさか奴はこの状況を楽しんでいるのか。
「私の体に傷をつけるなんて」
続けて俺は別のナイフをニュークに向かって投げようとするも、それはアテナによって防がれた。
手元にナイフはもうない、隠し刃はかろうじてあるものの近距離戦となれば俺が不利になる。ここは退却といこう、そう決意して後ろを向いた瞬間、その目の前には剣を持ったクロガが立っていた。
「すまない、ブレイク」
グサッ!!
クロガは俺の耳元でささやいた後、剣を、俺の腹に突き刺した。
「グフッ!!」
俺の体には人生で初めて味わうレベルの激痛が、全身に走っていく。クロガは気配を消していた、そのせいで俺は奴の存在に気づくことができなかった。くそ、くそ、くそ、ああああああ。血はとめどなく口から漏れ出ていく。
クロガは俺を剣で刺したまま、前に歩く。剣を抜こうとするも、俺は動けずに奴に押し出されるようにして退くのみ。
「よくやった、クロガ!」
傷を軽く修復させたブラッドリーは、ゆっくりと俺に近づいてくる。クロガは俺を刺したまま、剣を地面に突き刺した。くそ、絶対に逃げられないようにしやがったな。
「ここからは俺に任せろ」
そうしてブラッドリーは固定された俺の体を、大きくしたその拳で次々と殴っていく。
ボコッ! ボコッ! グチャッ!
ボコッ! ボコッ! グチャッ!
「おいおい、抵抗しないのか?」
ちくしょう、抵抗したいに決まっているだろ。
でも、もう体が動かない。
聴力だって、空間把握能力だって失われてきている。その優れた聴力も、奴らの声しか聞こえなくなってきている。
「あらやだ、醜いケダモノね」
やがて奴らがどこにいるかも、何も分からなくなってきた。
「これは治すのに時間がかかりますよ」
アテナやニュークは遠くから、刺された恨みを返すかのように煽ってくる。
反対にクロガは剣から手を離し、無言で俺から少しずつ離れていっているようだ。場所は分からなくても、遠ざかっていく微かな足音が聞こえる。
「残念だったな」
そうしてブラッドリーは俺の覆面に手をかけた。俺は、何も抵抗できなかった。腕を動かそうにも、脳が動かなかったのだ。
「さあ、顔を見せろ!」
バサッ!
何も抵抗できずに、俺は覆面を剥がされた。奴らは俺の顔を見て、何も反応をしなかった。
しかし、やがて俺が誰なのかを察したのか、クロガ以外の四天王の三人は大声を上げた。
「お前、まさか……ブレイク・カーディフか!」
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