第91話 レスドラド計画
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「なら、ヨシオ社長についても知っているな?」
ヨシオ社長とは、デビルズオール社の社長のことだ。奴こそ治安部隊を買収した張本人であり、マックスフューの治安を悪化させている。
「ああ、名前だけならな」
「そうか、なら隠された王・マクガフィンの存在も知っているか?」
「それも、名前だけならな」
「そうか、彼らはレスドラド計画の最終段階を知らない。第三段階”マックスフューの世界完全掌握”で終わると思っている。だから最終段階の話は、ここだけの秘密だ。これを知っているのは、六人と実験に参加している研究者だけだぞ」
まさか、ラーズは身内も騙して計画を推し進めているのか。確かに計画のうちに、マックスフューの世界完全掌握も入っている。しかしそれはあくまでも通過点で、その先に世界の統一が最終段階として残っている。
マクガフィンは世界のフィクサーと聞いていたが、ラーズはそのフィクサーをも上回っているのか、とても厄介な存在だ。
「現在のアンチャードや治安部隊は、もう私の手を離れている。だからレジスタンスとの戦いは、私が命じたものではない。すまない、同情するよ」
「ふざけやがって」
「そうだ、本題に入ろう。君を呼び込むための囮に使った三人のことだが、ボルト捜査官は森に返してあげたよ。しかし二人は返さない、彼女たちはね、能力が素晴らしかった」
能力、何のことだ。
「ロナとリリーといったか、彼女たちはマリノには劣るものの、モンスターの洗脳能力に長けていてな。特にリリー、やはりキャプロー村産の小娘となれば能力も素晴らしいのか」
「キャプロー村はカービージャンクじゃないだろ、何でキャプロー村で生まれ育ったリリーやマリノに能力があるんだ?」
「ああ、君は能力の詳細を知らなかったね。カービージャンクで生まれ育った子供たちにモンスターを洗脳する能力がある、と聞かされていたか。真実は少し異なる、そもそも彼女たちは病気なんだよ」
病気、どういうことだ。
「カービージャンクの子供たちは”南部地方特殊依存性”を患っているんだ。名前の通り、南部でしか流行っていない病気でね。これが南部の子供しかかからないんだよ。体が弱くなるくらいで、特に支障はない。ただ、そのウイルスの中に、モンスターの遺伝子情報に関する成分があって、私たちはそれを応用してるんだ」
南部地方特殊依存性も初めて聞いたし、カービージャンクのみんながこの病気にかかっているのも初めて聞いた。
「この病は南部地方の子供しかかからない、だから私たちはカービージャンクに絞って誘拐していた。しかし十年前くらいか、一気に高品質の子供たちを誘拐しようと思ってね、そこで起こしたのが、”ポータガルグーンの再襲撃”だ」
再襲撃の方は、奴らが起こしたものだったのかよ。
「擬似的に再現したポータガルグーンを試したくて、かつ最も海に近い地方の子供を誘拐したかった。結果は大成功、目撃者も少ないため、闇に葬ることができた。しかし、あの村の討伐者には悪いことをしたな」
マリノが小さくはあるがポータガルグーンになった理由、それはキャプロー村で生まれ、病気にかかっていたからなのか。街よりも南にある村で、より強い能力を手にしていた、ということか?
「あっ、ちなみに君の仲間はもう捕らえた。カグタといったな、マリノの父親は今頃、ボルト捜査官と同じところにいるよ」
はっ、何でだ。距離も遠くて、絶対に見つからない場所だと思ったのに。
「安心したまえ、もう解放した。ハード・ブランドンも興味ないから、まとめて森に帰したよ。今頃、カービージャンクに向けて出発しているはずだ」
ああ、一応これで良かったのか。ラーズは俺と、能力を持つロナとリリーにしか興味がない。そして俺を誘い出した今、囮となっていた彼らには興味がなく、だから街に帰したんだろう。
「あ、でも治安部隊とアンチャードは私の管轄外だ。きっと今頃、彼らに射殺されてるかもね」
その言葉を聞いた瞬間、俺は怒りを抑えきれなくなった。勢いそのままに足を思いっきり上にあげ、縄を切る。そして椅子に縛りつけられたまま、奴の座る椅子に向かって突進する。
「おっと、闘牛みたいだ」
奴は椅子から飛び降り、俺の突進を軽くかわす。
今の衝撃で椅子が壊れたようで、俺は縄から解放された。近くに落ちた椅子の破片を手にして、奴の目の前に立つ。
「元気だね、君は……私は大丈夫だ、四天王のみんな、今は手出しをするな。こんな奴、私ひとりで何とかなるよ」
奴は俺のことを舐めている、なら、この手で奴を倒してやる。俺は椅子の破片を両手に構えたまま、奴の方へ向かう。
そして心臓に破片を突き刺そうとするも、簡単に避けられてしまった。それどころか、奴は俺のその右手の上に立っている。妙なことに、重さを感じない。
「不思議か、私の能力が」
「うるさい!」
俺は右手を払い、奴の降り立つところに向かってすぐに破片を投げる。
しかし、奴の体に破片は刺さらなかった。奴が、その破片をキャッチしたからだ。
「素晴らしい投擲能力だね」
俺はすぐに飛び跳ね、壁を蹴って奴のキャッチした破片をグッと押し込む。しかし奴の力は強く、思うように刺さらない。
「私と戦うのはこれが初めてだろう、どうだ、楽しいか?」
奴の首に押し込む破片は、一瞬にして粉となった。これはまさか、アテナの能力をラーズも持っているということか。
「質問するな!」
間髪入れずに左手で奴の顔面を殴ろうとしたが、何故かその手は空中で止められた。力を込めても、手が動かない。続けて右手で殴ろうにも、その手も止められた。何だ、どうなっている。
「私の能力は、魔王の能力。魔王はモンスターの王にして、最高神。私は魔王の能力をコピーしたの、だから何だってできる。君の攻撃を止めることも、無効化することもね」
そうして奴は、俺の額を人差し指で軽く触れる。
すると俺は、謎の力で奥の壁まで吹き飛ばされた。
ガンッ!
何という力だ、これじゃ歯が立たない。それでも、戦うしかないけどな!
「ウォオオオオオオオ!!」
俺はすぐに起き上がり、奴に向かって突進するも、時間が止まったかのように、俺の体は空中で完全に静止した。何なんだよ、さっきから。
「君には随分と助けられた。計画に邪魔なギャングの殲滅、共通敵としてのダークエイジの存在、君のおかげで計画を進められたよ。治安部隊もアンチャードも、マックスフューも協力してくれた」
奴は空中で止まった俺に近づき、耳元でささやく。
「しかし、これも今日で終わりだ。既に計画は第三段階に入っている、最後のピースが揃ったからね。第三段階、モンスター世界大戦の始まりだ」
そうして奴は、俺を地面に叩き落とした。
あまりの衝撃に耐えられず、俺は血を吐く。
「リリーとロナ、二人は優秀だ。そして何より、計画の最後のピースとなってくれた……後はみんなに任せるよ。そうだ、コイツの仮面を剥がした者を次の四天王のリーダーにしてやろう」
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