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第90話 魔王

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「ダークエイジ。これから、世界の真実を教えることにする。抵抗せずに、心して聞いてくれ」


 すると、ラーズの体が少しずつ縮んでいった。腰の曲がりそうなお婆さんであったはずの奴の体は小さくなり、やがて子供のような体型となっていた。


「驚いたか、ダークエイジ」


 その声もまた、少女の時のラーズに戻っていた。何だ、さっきまでお婆さんだったというのに、まさか自らの体を退化させたのか、そんなことができるのか、人間なのに?


「今のはモンスターの技術を応用したものでね、今の私は不老不死なんだよ」


 ああ、やっぱりそうか。特殊な伝説モンスターは大体不老不死とされている、というより一個体しか存在しないため、その一個体がずっと生きているという仮説が立てられている。例えば”ドラゴン”か、ドラゴンも不老不死のモンスターとして知られている。


 つまり、奴も魔剣四天王と同じように、モンスターとの合成実験を受けているということか。


「しかしこの技術には欠点があってね、このように別々の年齢を行き来できるものの、ちょうどいい年齢の体にはなれなくてね。20代とか40代ならいいのに、10歳だとか87歳だとか、そういう体にしかなれない。不老不死だから300年近く生きているがね」


 この世界、何でもありなんだな。不老不死とか、空想上のものだと思っていた。だが、ラーズは300年以上生きているらしい。


「おや、全然驚いてないじゃないか。私は328歳だ、うーん、例えば全盛期の頃の討伐者も知っているぞ」


 驚く、という感情を通り越しているだけだ。そのせいで、今は何を言われても驚くのは難しい。


「君たちの年代なら何が有名だったかな、あっ、そうだ。君の顔はまだ見ていない、何で見なかったか、それは舐めているからだ。それに、私は君の本性に興味がない。私はダークエイジが大好きでね、君の中身なんて見た時には冷めてしまうかもね」


 くそ、厄介な奴だ。顔を見なかったら見なかったでムカつくな、どうせいつでも見ようと思えば見れると、奴はそう思っているんだろう。


「だから安心したまえ、君の正体をまだ誰も知らない。まあ、少なくともあそこの四人は気になっているようだ。そこの四人は後で、思う存分楽しませてもらいなさい」


 それを聞いて、部屋の隅にいるクロガは少しだけ顔を逸らした。やっぱりアイツは俺の正体を知ったことを、ラーズ含めて誰にも言ってないんだろう。


「その前に、マックスフューの隠された歴史について教えよう。そうだ、”魔王”は知っているか?」


 ラーズは小さくなった子供の姿で、椅子に座り直した。魔王というのは、ヒルデヨ部長が言っていたものか。百年前、マックスフューをモンスターで支配しようとした魔王は、討伐者チームに敗れた。しかし、このことは公にはなっていない。


「ああ、なんとなくな」


「魔王なんて、物語として作りやすいし、モンスターに対する憎悪も深まる。しかし何故、百年前に政府が隠蔽したのか、答えは”魔王を倒しきれなかったから”だ。魔王は、討伐パーティーに勝っていたんだよ」


 そうだったのか、魔王は負けてチームが勝ったと聞かされていたが、それすら間違いだったのか。


「そもそも魔王の戦いは、数百年前からずっと行われていた。私も討伐者の一人として、魔王と戦っていた。しかし、途中から私は、魔王に惚れてしまったんだよ」


 魔王に惚れた、世界を滅ぼそうとした相手だというのに、何を言っているんだ。


「ああ、勘違いしないでほしいな。恋愛的な意味で惚れたんじゃない、魔王のことを心から尊敬したんだ。彼はモンスターを従え、世界を滅ぼすために戦っていた。そこがどうも魅力的で、神のようだった。私はもっと彼と戦いたかった、だからモンスターを研究して、不老不死の力を自分に与えた」


 まさか、奴が不老不死になった理由は魔王を好きになったからだとは。欲望のためではあるが、何というか、これは驚いた。


「魔王という共通敵のおかげで、やがて世界はひとつになった。そして魔王も、強くなった。魔王は百年前、討伐パーティーに勝ち、そのまま世界を滅亡させようとした。しかし、とある事件がきっかけで、魔王は自らの体を封印した。とても残念だったよ、神でもある御方が、たったひとりの人間のために自らの命を封印した。ちょっと、嫉妬した」


 そうか、魔王がいたから世界は戦いの最中であっても、一丸となっていた。それが肯定されるべき歴史なのか、否定されるべき歴史なのかは分からない。


「その時に、人間とある約束を交わしたそうだが、人間はその約束を破った。怒った魔王によって発生したのが三十年前の、ポータガルグーンの襲撃だ」


 ポータガルグーンというモンスターは、その襲撃でしか確認されていない。だからてっきり、組織が絡んでいると思っていたが、元凶はその魔王だった、ってことか。


「ポータガルグーンは何とか都市によって討伐された。魔王は封印から目覚めたばかりで力を発揮できなかったのもある、結果として魔王はそのまま討ち取られた。残念で仕方なかったよ、だから私は心に決めた。私が、魔王の跡を継ごうと。良い部分は残して、悪い部分は変える、そうして私はある計画を立てた」


 ラーズは椅子から立ち上がり、手を広げる。


「世界をモンスターによって覆い、すべてをひとつに統一する、通称”レスドラド計画”。私はこのために、何年もかけて地位を築いてきた。治安部隊を作ったのも、強盗団として闇社会を牛耳ったのも、全て魔王の望んだ世界のためだ」


 世界をモンスターで覆う、これが例のモンスター大戦ということか。


「魔王は世界の滅亡を望んだ、しかしそれは好ましくない。だから、全ての統一に力を注ぐ。魔王がゼロを望むのなら、我々は”ワン”にする。ただ、この世界には十億ほどの人々と、それ以上の動物やモンスターが暮らしている。それをひとつにするにはどうしたらいいか、簡単だ、意識をひとつにすればいい」


 そうしてラーズは、椅子のそばに立てかけてあった剣を取り出す。


「肉体をひとつにし、その肉体を器として全生命体の意識をそこに移す。そうすれば、この世界にはワンしか生命が存在しないこととなる。そう、魔王の望みに限りなく近いんだ。とにかく、まずはこの世界を征服する必要がある。そのためにも、我々は魔王と同じくモンスターを従え、モンスター大戦を起こす」


 なるほどな、ここまで奴がモンスターを使った世界大戦にこだわっていた理由がやっと分かった。戦闘力になるという理由もあるだろうが、それ以上に奴は魔王に心酔している。だから魔王と同じ手口で、世界を相手に戦いたかったんだろう。


 ここでというよりも、ずっと気になっていたことがある。魔王について、奴がこれほど好きになる魔王って、どういう奴なんだと気になった。


「ラーズ、魔王というのはどういう男だ?」


「どうした、急に」


「質問に答えろ、ラーズ」


 すると奴はプッと吹き出し、笑いながら答える。


「バカだな、魔王は人間なんかじゃない。全てのモンスターを束ねる、モンスター界の王様だ」


 モンスター界の王様か、そういえばマックスフューにも隠された王様がいるとか言ってたな。どこか、似ているような気がしなくもない。


「なら、私からも質問をしよう。魔王について、君はどこから知ったんだ?」


「……どこだろうな」


「答えなくても分かるさ、どうせヒルデヨのところだろう。彼は魔王についてを知りたがっていた。カービージャンクに異動させたのは、彼を魔王から引き離すためでもあるんだよ」


 やっぱり奴はヒルデヨ部長のことを見抜いていたのか、厄介だな。


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